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傭兵たちの叛乱

 3月18日 2213時 セルビア 第126通信基地


「一体、どういうことだこれは!?なぜ我々に知らされなかった!?」

 基地司令官に対して凄まじい剣幕で怒鳴り付けているのは、セルビアに雇われた傭兵部隊の指揮官たちだ。基地司令官は、何も答えず、ただじっとしているだけだ。


 事の発端は、セルビア軍による化学兵器攻撃から始まる。セルビア軍はVXガスをコソボ・アルバニア連合軍部隊に対して使用した。その時、セルビア軍部隊は、汚染が予想される地域から予め撤退した。が、傭兵部隊には、神経剤による攻撃を知らされることは無く、多くの傭兵たちが巻き込まれる結果となった。

「わかっているだろう。貴様らは捨て駒だ。我々は、なんとしても、プリシュティナを奪われる訳にはいかない。これ以上、反逆者の侵攻を許す訳にはいかんのだ。そのために、今回の攻撃に踏み切った。貴様らの撤収を待つ時間など、あるものか」

 セルビア軍の将軍が返す。

「ああ、そうかそうか。ならば、今から契約書に、今回の件で死んだ部下たちへの補償金も追加してもらわないとな」

 グルジア人傭兵の一人、フョードル・マルコフが言った。

「なんだと?」

「聞こえなかったのか?戦死者への弔慰金だ。これを出さないつもりならば、俺たちは、もうこの件から手を引くぜ。またいつ、てめえらから、毒ガスなり細菌なりを振りかけられるか、わかったものじゃないからな!」

「傭兵の分際で正規軍に口答えする気か!」

「ほう。正規軍だから、偉いと言うのか」

 マルコフはそう言うと、胸のポケットから、軍との契約書を出して、ビリビリに破り裂いた。

「お前らとの契約は、これで終わりだ。平気で味方を巻き込むような攻撃をする連中とは、もう付き合ってられないからな」

 そして、マルコフは、去り際に、近くにいた別の傭兵部隊の指揮官に、こう耳打ちした。

「お前さんも、どうするのが賢明なのか、よく考えた方が良いぜ」


 3月20日 0013時 アルバニア ティラナ・リナ空港


「災難だったな。部下たちは平気か?」

 アーセナル・ロジスティクスの指揮官、ハーバード・ボイドがゴードン・スタンリーに話しかけた。その傍らでは、エプロンに並んだC-5やC-17から、ミサイルや爆弾などが弾薬庫へ運び出されていく。

「健康診断では問題無し。軍医の話では、すぐにでも作戦に参加できる」

「そいつは良かった。そうそう。今回の毒ガス攻撃で、NATOの動きが変わってきた。ノルウェー、ドイツ、オランダ、ポーランド、イタリア、ギリシャが、非人道的な攻撃だとして、セルビアに軍事制裁を発動するべきだと言い出した。NATO全体が動かないならば、自分たちだけでも動くとさ。実際、イタリアの空母艦隊には戦闘準備命令が出て、ノルウェー、ドイツ、ポーランドの戦闘機などがイタリアのシゴネラ空軍基地へ移動を始めたらしい」

「アメリカは?」

「NATOの大ボス様は、アジア太平洋地域の方で忙しくて、それどころじゃ無いらしい」

「やれやれ」

「それともう1つ。これは、まだ未確認の情報なんだが、セルビア軍が毒ガスを使った時、自分たちが雇った傭兵も巻き込んだらしいぜ」

「なんだと?」

 スタンリーは凍りついた。

「いや。まだ未確認だと言っただろ。しかし、傭兵同士の噂話なんて、俺たちの耳にはすぐ入ってくるものさ。ただ、ここにくる前に立ち寄ったインジルリク基地で、トルコ空軍と契約して仕事をしているアメリカ空軍出身の知り合いから聞いたんだが、アメリカ空軍のRC-135Vが、セルビアに雇われた傭兵連中の通信らしきものを拾ったらしくてな。それによれば、セルビアに雇われた傭兵も毒ガスを浴びたらしい。まさに、後ろから鉄砲玉だな。こうなったら、傭兵連中がどういう反応をするのかが見ものだ」


 3月20日 0053時 セルビア ノヴィ・パザル


 傭兵部隊『キリング・モールズ』の司令官、ジャック・トビアスは、テントの中に集まった他の傭兵部隊の司令官の顔を見回した。ここに集まった傭兵部隊の指揮官たちは、先ほどの毒ガス攻撃に巻き込まれ、部下を大勢失った者たちだった。

「さて、諸君。セルビア軍は、我々がまだ戦域にいるにも関わらず、毒ガスを使った。その前に、セルビア軍はどうやら撤収したようだが、我々には全く知らされなかった。我々は確かに捨て駒だ。しかし、裏切りだけは許すつもりは無い。諸君がやらない、と言えば、我々だけでやるつもりだ」

「で、一体、何をする気なんだ?」

 別の傭兵部隊の司令官がトビアスに訊ねた。

「報復だ。セルビア政府と軍は、一体、誰のおかげでここまで戦ってきているのかを知ってもらう必要がある。分かっていると思うが、セルビア軍と我々の戦力比の差はかなりのものだ」

 今回のセルビアによるコソボ占領は、傭兵部隊の力によるものが大きい。それを、セルビアは、まるで自分たちの手柄だと言わんばかりの態度を取っていた。

「それで、やるとしても、どうやってやるんだ?計画は?」

 フランス人傭兵部隊の指揮官が訊いた。彼はトビアスの考えに賛成のようだ。と、言うのも、彼の部下のうち数名が、毒ガスに曝されたため、生死の境にいるのだ。

「計画は考えてある。だが、それには協力者が必要だ。今からは、賛成してくれる者だけ残ってくれ・・・・・・」

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