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化学兵器

 3月18日 0918時 コソボ スケンデライ


 セルビア陸軍砲兵部隊が砲撃を開始した。2S19や05式155mm榴弾砲が唸りを上げ、砲弾をコソボ・傭兵連合軍の地上部隊めがけて砲弾を発射する。砲兵部隊の兵士たちは、地図を見て、砲撃するエリアを確認していた。

「射角確認!装薬3!」

「砲弾装填!」

 兵士がドクロマークの描かれた、オリーブグリーンの砲弾と装薬を砲尾に置き、ボタンを押した。アームが砲弾と装薬を纏めて薬室へと押し込む。

「装填完了!」

「発射5秒前!・・・・・2・・・・・1、発射!」

 ずらりと並んだ2S19が次々と吠え、砲弾を発射した。この作戦は、セルビア軍司令部は急に決定し、実行を命令した。傭兵やアルバニアと手を結んだコソボは、次々と領土を奪い返し、セルビアが最終防衛ラインと定めたフェリザイすら陥落した。そこで、セルビア側は掛けに出た。


 大規模な戦力を持つ傭兵部隊を主力としたコソボ・アルバニア連合部隊に対して、セルビア軍は正規軍部隊と金でとコソボの領土を与えるという条件で釣った少数の傭兵部隊で対抗した。しかし、現実は、負け続け、領土を奪還され続けている。しかも、なかなか報酬として与えられるはずのコソボの土地を完全に占領することができず、それに業を煮やした傭兵部隊の一部が、セルビア軍の指揮下から無断で離れ、別の戦場へ向かったり、ホームベースへ帰っていったりするケースも相次いだ―――もっとも、雇い主を簡単に裏切る傭兵の存在は、今では、全く珍しくも無いのだが。

 セルビア政府は、化学兵器を使ったとしても、未だに警戒・監視活動を行うに留まっているNATOは介入しないだろうと考えた。そして、軍と配下の傭兵に対して、使用を指示した。


 3月18日 0927時 コソボ トゥティン


 化学兵器に晒されたアルバニア陸軍の地上部隊は、半ば混乱状態になっていた。頭上で爆発が何度か起きた後に、兵士たちが次々と痙攣と嘔吐を起こして倒れていく。装甲車や戦車に乗っていた兵士たちは、すぐに車内が密閉状態になっていることを確認し、移動を開始した。

「すぐに化学防護部隊と衛生部隊をよこしてくれ!」

「畜生!化学剤を使いやがった!」

「症状から見ると、これは神経剤だ!衛生部隊にアトロピンとパムを用意させろ!」

「だめだ!ハッチもドアも絶対に開けるな!」

「どこへ行けばいい!?」

「慌てるな!司令部の指示を待て!」


 3月18日 0929時 アルバニア上空


「畜生!なんて奴らだ!」

 ゴードン・スタンリーが吐き捨てるように言った。無線からは、化学兵器による攻撃で地上部隊が混乱している様子が聞こえてくる。

「汚染地域の上空近くから航空部隊を撤退させます。それと、無人機を派遣させましょうか?」

 原田景が司令官に提案する。

「そうしてくれ。集塵ポッドを搭載させろ」


 3月18日 0948時 アルバニア ティラナ・リナ空港


 翼の下に集塵ポッドを2基搭載したガーディアンUAVがタキシングを始めた。操縦しているのは、傭兵部隊『エアウォッチャー』のクルーだ。


「まずは、周辺の空気を採取する。戻ったら、サンプルを分析する。但し、化学防護部隊以外には触らせるな。素人に扱える代物じゃないからな」

「ここに無人機を降ろすのか?」

「いや、クチョヴァに化学防護部隊を待機させておいてある。無人機はそこに降ろしてくれ。それと、機体はよく除染しておくように手配しておくが、最悪、廃棄しなきゃいけなくなる可能性もある」

「だな。まあ、決して安い代物じゃないが、F-16とかよりは格段に安いからな」


 3月18日 0952時 アルバニア・コソボ国境地帯


「急げ!こうしている間にも、どんどん味方が死んでいっているぞ!」

 M93フォックスやM1135ストライカーNBCが次々と前進を開始した。中の乗員は、オリーブ色の化学防護服とガスマスクを身に着けている。アトロピンやパムの注射器が入ったケースを車内に運び込み、更に、護衛としてM1A2エイブラムズやレオパルト2A5/6といった戦車も車列に加わった。

 化学兵器による攻撃が始まってから、アルバニア軍・コソボ治安軍・傭兵部隊の動きは早かった。司令部は化学攻撃の一報を受けてから、すぐに除染部隊と化学防護部隊、衛生部隊の出動を命じた。まずは、化学兵器に晒された人間の救護とサンプルの採取、除染だ。特に、サンプルの採取は、今後、国際社会にセルビアの所業を見せつけるのに重要な証拠となる。しかし、化学兵器を使ったとなると、セルビア側は相当追い詰められていると見て間違え無さそうだ。そして、この情報は、恐らくは、周辺で情報収集と警戒・監視活動を行っているNATOの部隊にも入っているはずだ。


 3月18日 0958時 アドリア海上空


 アメリカ空軍のRC-135Wリベットジョイント偵察機が、アルバニア軍とコソボ治安軍、傭兵部隊の通信を傍受していた。

「大佐、コソボ治安軍とアルバニア軍の通信が急増しています」

「内容は?」

「少々お待ちを・・・・・・えっ、これって・・・・・」

「どうした」

「まだ確実なことは言えませんが、セルビア軍が化学兵器で攻撃してきたようです」

「なんだと?」

「もっと情報が必要です。あそこを更に偵察するために資産(アセット)を送り込む必要がありますが・・・・・」

「しかし、それには欧州軍司令部(USEUCOM)かNATOの許可が必要だ」

「ただ、セルビアが化学兵器を使ったとなると・・・・・・」

「NATOが傍観しているとなると、大問題になるだろうな。しかし、我々に今できることは、情報を集めることだ。もし証拠を集めるとなると、現地に部隊を送り込まねばならなくなるな・・・・・・」

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