Night Flight-1
1月13日 2026時 ディエゴガルシア島
『ディエゴガルシアタワーより"アナコンダ"へ。離陸を許可します。風は北東から0.7m。横風は真東から0.1mです』
「了解。"アナコンダ"、離陸する」
アパッチが低周波の混ざった低いローター音を響かせながら離陸した。非常に静かなヘリで、かなり接近してこないとローター音は聞こえてこないだろう。実弾射撃の訓練は昼間に行ったため、今夜は単純にフライトをするだけだ。なので、スタブウィング下の4ヶ所のハードポイントには、全て増槽が取り付けられている。
ベングリオンとツァハレムはTADSSとIHADSが暗視モードになっていることを確認した。白黒の赤外線画像で基地の様子が浮かび上がる。最近の暗視装置は、かなり進化しており、数年前のものと比べてノイズが格段に少なくなったので、周囲の様子が、まるで高度にデジタルリマスターした昔の白黒映画のように見える。だが、アパッチの場合は、片目で暗視ゴーグルを通した画像、もう片方の目はそのまま肉眼で見えるものを見るので、長時間飛行していると、慣れるまではかなりの疲労感に悩まされることになる。
オスプレイとスーパースタリオンも離陸した。ブリッグズは、暗視装置越しに先導するアパッチの姿を確認する。キャビンでは、半分開いたカーゴランプからジェームズ・ルークが、CH-53Eがしっかりついて来ているのを見た。彼は再度、モンキー・ハーネスでしっかりと自分の体が機体の天井と繋がっているのを確認する―――空軍にいた頃、これをしっかりと点検しなかったがために、カーゴキャビンから転落して死亡したクルーチーフを見たことがある。なんと、その事故に遭ったのは、勤続25年のベテラン空軍曹長だったのだ。だから、ルークは、特にフライト時の安全管理には、人一倍厳しいメンバーになり、それは、他の"ウォーバーズ"のメンバーから絶大な信頼を得るまでになった。
1月13日 2031時 インド洋上空
F-16CJとF/A-18Cの編隊がF-15Eとミラージュ2000Cの編隊に襲いかかった。AMRAAMの使用を想定しない、ドッグファイトの訓練だ。ストライクイーグルのエアインテイク下には、地上攻撃用のFLIRを搭載しているため、ロックウェルはMFDにFLIRに映された白黒画像で周囲を確認できるものの、それは自機より下の方向か真正面、左右下方向しか映されないため、実用的とは言えない。しかし、この訓練ではHMDストライカーⅡという、最新式のヘルメットの運用試験も行っていた。これは、HMDであるが、暗視モードが搭載されており、真っ暗な空でもかなりハッキリと周囲を見ることができる。F-16CJのアフターバーナーが白く明るく見えた、一昔前の暗視ゴーグルなら目を痛めてしまっていたはずだが、最新式のこの暗視装置は、光の量を自動で調節してくれるため、全く気にする必要は無かった。
「ちいっ」
ラッセルは機体を上昇させ、ホーネットから逃れようとした。アフターバーナーの炎が夜空に流星のように光る。
「ウェイン、6時方向!真後ろだ!真っ直ぐ追ってくる!」
ロックウェルは後ろを向き、F/A-18Cの姿を探した。丁度、航法灯が後ろから迫ってくるのが、最新式の暗視装置のおかげで、ハッキリと見える。
「了解だ。振り切るぞ」
F-15EがF/A-18Cから逃れるために急降下しながら捻り込み、フレアを断続的にばら撒いた。真っ暗な闇の中で、花火のように赤外線ミサイルをくらますための囮が輝く。暗視ゴーグルには余分な光量の光をカットする機能が付いているが、コガワは反射的に目を逸らした―――そのせいで、ストライクイーグルを見失ってしまった。レーダーを捜索モードにして、再度、"敵機"を探す。やがて、レーダースコープに輝点が現れた。1000フィート下方だ。コガワはレーダーを頼りに"敵機"の追跡を始めた。
1月13日 2049時 インド洋上空
アパッチ、スーパースタリオン、オスプレイは編隊を組み、今度は地形追随飛行を始めた。より高度な夜間用航法装置を搭載するCV-22Bの後ろから、AH-64DとCH-53Eが付いて行く格好だ。シモン・ツァハレムは、高度計に気を配りながら、慎重にスロットルと操縦桿、ラダーペダルを操作してアパッチを飛行させた―――ここで操縦をミスったら、真下は海面だ。すぐ後ろにはオスプレイとスーパースタリオンがいるが、引っ張り上げられる羽目に遭ったら、かなり長い間、笑いものにされてしまう。
昼間の空中給油訓練でのこともあり、キャシー・ゲイツは、時折、相棒の様子を心配そうに見ていた。が、当のニールセンは、昼間の出来事が嘘のようにリラックスした状態でヘリを飛ばしていた。
「そうだキャシー、昼間の空中給油のことだが、どこをどうやって見たんだ?ちょっと教えてくれないか?俺はどうも苦手で・・・・・」
「えっ!?ええっと・・・そうね。まずは、ドローグの揺れをよく見て。こっちから無理に合わせていくんじゃなくて、ドローグの揺れが小さくなるタイミングを狙うの。それと、今日、あなたの飛行を見た感じだと、ちょっと飛行速度が早いような気がするわ。もうちょっとゆっくりでいいと思う」
「なるほど・・・・わかった。今度はそれでやってみるよ」