大規模攻勢-3
3月18日 0740時 セルビア バタイニツァ基地
セルビア空軍のMiG-29BファルクラムとG-4スーパーガレブが、離陸準備を急ピッチで行っていた。これまでのパターンを考えると、レーダーサイトを破壊された後は、爆撃が行われる可能性が非常に高い。また、パイロットの中にはセルビア政府が雇った傭兵もいた。傭兵の出身国は、ロシア、ウクライナ、イラン、シリア、スーダンなど、多岐に渡っている。
今まで、まるでコソボのほぼ全土を簡単に占領できたことに対するツケであるかのように、セルビア空軍は負けがこんできた。政府と軍は、改めて傭兵と徴募兵を集め、戦力の拡充を図ってきた。やがて、中東やアフリカ、旧ソ連構成国を中心に傭兵が集まってきた。条件は、コソボを奪還できた暁には、そこに居場所を与え、更にはセルビア国内の飛行場を自由に使う権利を与えるというものだった。
セルビア空軍と傭兵の混成部隊は南西に飛び続けた。MiG-29にはR-73とR-27、G-4にはR-73が搭載されている。他にも、Su-27SKやJ-11Bの姿も見える。地上のレーダーサイトは再び破壊され、更にはAEWも失ってしまったため、戦闘機は自機のレーダーに頼るしか無くなっていた。軍と政府としては、これ以上、戦いに負ける訳にはいかなかった。と、いうのも、今、アルバニア・コソボ・傭兵連合部隊に負け続けたプレルヴォヴィッチ政権は、公約である『コソボとスプルスカの再回収』を果たせなくなりつつあったからだ。国民、とくに右派勢力は苛立ち、プレルヴォヴィッチは攻撃的に事を進められない腰抜けだ、と非難した。あまり大規模攻勢に踏み出せないのは、NATOの介入を恐れているからだ、と。だが、かつての『ヨーロッパの自警団』NATOは、加盟国の防衛だけに心血を注ぎ、非加盟国の安全保障に関してはほとんど無関心だ。こちらからバルカン半島上空を飛ぶ偵察機を撃墜したり、アドリア海に展開している艦隊を攻撃したりしない限り、介入してくるなど、まず、あり得ない。
3月18日 0759時 アルバニア・コソボ国境付近上空
E-737が悠然と飛び、上空の様子を監視している。周囲をF-15C、ミラージュ2000C、MiG-29Kが囲み、護衛していた。E-737は戦場を俯瞰する目となって、味方航空部隊に敵機の情報を提供し続けた。
「"ゴッドアイ"より"ホバーリザード1"へ。敵機が接近中。方位032、距離3800、高度12000、4つの目標。速度マッハ1.3だ」
『"ホバーリザード1了解"交戦する』
セルビア軍は、未だに占領したコソボを諦めず、スプルスカからも撤収する気配は無いが、情報によれば、セルビア軍は継戦能力がやや低下気味だという。しかし、その情報とは裏腹に、セルビアは傭兵を集め、軍の指揮下に置いているという。この戦争は、もはや、コソボとアルバニア、セルビアに雇われた傭兵同士による代理戦争という側面が色濃くなってきた。どの国も、お互いを完全に打ち負かす程の軍事力を持たず、それを傭兵を雇うことによって得ている。周辺の国は中立の立場を崩していないが、自国に飛び火しないよう、警戒監視体制を緩めることは無かった。
「Fox1!」
傭兵部隊のF-16の編隊がダービー空対空ミサイルを発射した。これは、イスラエル製の中距離AAMで、AMRAAMに似た性能を持っている。F-15やF-16に搭載できるため、AMRAAMを調達するのが難しい場合は、これを選択する傭兵部隊は多い。
セルビア空軍部隊は、傭兵部隊とほぼ同時にミサイル発射した。最初に矢を放ったのはJ-11BとSu-27SKで、発射したのは中国製のPL-12ミサイルだ。中国製兵器は、基本設計からSu-27系統の戦闘機にインテグレートされているため、傭兵部隊に広く使われている。価格と性能面も西側のそれと遜色無いため、戦争に使うには持ってこいだ。
「ミサイル!ブレイク!」
傭兵部隊とセルビア空軍部隊は、ほぼ同時にミサイルを発射し、ほぼ同時に回避行動を取った。編隊を解いてある機体は急上昇や急降下をして、また、他の機体は急旋回をした。ミサイルはマッハ3~マッハ4で飛ぶため、最大射的で放たれても、命中までの時間は数秒から数十秒だ。そのごく短い間にどんな行動を取ったかで、生き延びるのか、それとも撃墜されてしまうのか、戦闘機乗りの運命が決まる。攻撃を放ったパイロットたちは、今は、自分を追いかけてきているミサイルを避けることに全身全霊を捧げている。
3月18日 0807時 アルバニア・コソボ国境付近上空
"ウォーバーズ"とケレンコフらは、先遣部隊部隊が敵戦闘機と防空網の排除が行われてから突入する攻撃部隊の1つだったため、戦闘空域からアルバニア側へ離れた場所を飛んでいる。それも、空中給油機が待機している程、後方の空域だ。アルバニアとコソボの航空部隊の運用方法は明らかだった。戦力として重要な部隊を後方に温存し、戦略的価値の低い部隊を最前線に近い場所へと投入する。使う政府側から見たら、傭兵の代わりなど報酬を出せる限りいくらでも補充がきく。もし、比較的安全な後方で温存させて貰いたいならば、自分たちがそれなりに戦略的価値の高い部隊であると、雇い主側に思わせるだけだ。




