大規模攻勢-2
3月18日 0709時 アルバニア ティラナ 大統領府
攻撃作戦が始まった時、イスマイル・ハシ大統領は執務室にコソボ亡命政府大統領ズロボダン・ストイコビッチ大統領を呼び出していた。
「ストイコビッチ大統領。只今、我々は傭兵部隊と共に、先日の攻撃に対する報復を開始しました。今作戦は、貴国に置かれたセルビア軍の砲兵部隊を叩きます。大佐、説明してくれ」
アルバニア陸軍の情報将校が地図を広げ、指揮棒を手にした。
「はい、大統領。まずは、セルビアがコソボ領内に展開させた防空陣地を叩きます。情報によれば、ここに新たにロシア製と中国製の地対空ミサイルと防空レーダーが配備されているようです。まずは、この脅威を突破します。これを破壊したら、次はこの砲兵陣地を潰します」
情報将校はトゥティンを指揮棒で叩いた。
「ここは・・・・・セルビア領内か?」
「ええ。しかし、この砲兵・ミサイル陣地を破壊しなければ、コソボはいつまでたっても、セルビアによるミサイル攻撃の脅威に晒され続けます。我々の目的は、あくまでもセルビア軍をコソボ領内から追い出すことです。ですが、そうしたとしても、このように兵器や傭兵部隊がセルビア国内に残り続けた場合、貴国は完全に脅威から解放されたことにはなりません」
大佐は言葉を切った。
「セルビアは弾道ミサイルや巡航ミサイルを持っている限り、いつでもコソボを攻撃できる能力を持ち続けます。更に、航空機も多く配備されています。最新の情報によりますと、セルビア空軍がJ-10BやJF-17を入手し、傭兵部隊によって運用され、更にセルビア空軍パイロットによる飛行訓練も行なわれているとの情報もあります」
情報将校は写真を机に数枚置いた。セルビア空軍基地と空港を写したもので、エプロンにJ-10やJF-17、Su-27と思しき航空機が置かれているのがわかる。
「これらの航空機は、先日、輸送機でセルビア国内へ運ばれてきたものです。我々が調べた所、その輸送機は成都からミャンマー、パキスタン、シリアを経由してセルビア国内へ入っています。輸送機はY-20やIl-76であると見ています」
「では、セルビアは中国の支援を受けていると・・・・・・?」
「ええ。セルビアは、ロシアと中国、パキスタンから兵器を輸入して、1999年のNATOとの戦いで失った兵器を当時の基準かそれ以上に増やしています。そして、軍の訓練を行うため、様々な方面から傭兵を集めていたようです」
「それで、あんなに急にセルビア軍が強化されていたのか」
「その通りです・・・・・あと15分くらいで、最初の一撃が放たれます」
大佐が自分の腕時計を見て言った。
3月18日 0723時 コソボ・セルビア国境地帯
「Iバンドレーダー受信。妨害電波設定完了。ミュージックスタート」
EA-6BのECMOがコンソールを操作し、妨害電波の発信を開始した。妨害電波の発信には、相手のレーダーの周波数に合わせて送らなければ効果が無い。そのため、プラウラーの飛行隊は一度、敵のレーダー波に晒される必要があった。
「それにしても、この間レーダーサイトをぶっ壊してやったのに、もう復活させたのか?奴ら」
「移動式の防空レーダーを、ロシアか中国から仕入れて急ごしらえのレーダーサイトを設置したんだろう。安上がりだし、手っ取り早いからな。それよりも、発信源は特定したか?」
パイロットが隣の席のECMOに訊いた。
「あと少しだ・・・・・・・・よし、レーダーロック」
コックピットに低い電子音が鳴り始めた。ミサイルが目標を見つけたようだ。
「発射」
EA-6Bが次々とAGM-88Eを発射した。ミサイルはパッシブ・ホーミング式で、敵のレーダー波めがけて飛んでいく仕組みだが、このミサイルは例え敵がミサイル発射に気づいてレーダーの送信を切ったとしても、レーダーの発信源の位置を記憶する機能が備わっているため、標的を見失わずに確実に破壊する。
3月18日 0726時 セルビア レーダーサイト
「畜生!まただ!」
「対レーダーミサイルが来るぞ!早くレーダーを切れ!」
セルビア陸軍の兵士と傭兵たちがレーダーのコンソールを操作し、すぐに電波の送信を中止してミサイルを躱そうとした。パッシブホーミング・ミサイルが飛んでくるのにレーダーの送信を続けるのは愚の骨頂だ。しかし、彼らは、こうした措置をしても、飛んできているミサイルがレーダーの位置を記憶していて、何の問題もなく標的を目指してきていることを知らなかった。
AGM-88Eがレーダーサイトに殺到し、アンテナを次々と鉄屑に変えた。アンテナが破壊された時、管制室のモニターが真っ暗になったので、セルビア軍の管制官や警備兵たちが数名何事かと様子を見に行った。そして、数百メートル離れた場所にあったはずの防空レーダーアンテナはそこには無く、その代わりみたいに炎上する鉄屑の山が残されていた。




