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偵察

 3月17日 0035時 モンテネグロ上空


 イタリア海軍のF-35Bが2機、偵察の情報収集のためにモンテネグロへ侵入した。兵装は、ウェポンベイに入れられたAIM-120C AMRAAM2発だけだ。機首に搭載されたAN/AAQ-40 EOTSを夜間モードにして、地表を偵察する。これらの戦闘機は、アドリア海に展開していた空母ジュゼッペ・ガリバルディから飛んできたものであった。NATOは、先日のセルビア軍の巡航ミサイル攻撃を踏まえ、セルビアが長距離攻撃を行う能力を持っていると結論づけ、アドリア海に展開する部隊に対する大きな脅威であると考えた。そこで、セルビア軍の活動を探るため、限定的に偵察作戦を行うことを決定した。


 F-35Bのパイロットは、眼の前のタッチスクリーンに触れ、レーダー警戒画面を呼び出した。F-35には、従来の計器盤は無く、大きな1枚のタッチパネルがあるだけで、HUDすら搭載されていない。そのかわり、パイロットのヘルメットに装着されたHMDが他の戦闘機ではHUDに映されるはずの情報を表示する。

 NATOは未だに中立を保ち、バルカン半島空域に立ち入らない程度での警戒・監視作戦を行う程度に活動を留めていたが、先日のミサイル攻撃がそれを変えてしまった。


 3月17日 0038時 モンテネグロ ダニロヴグラード


 HQ-9地対空ミサイルとロシアではS-300と呼ばれているSA-20"ガーゴイル"を装備した、セルビア陸軍の防空部隊が、ここに展開していた。これらのミサイルは、主に傭兵部隊の戦闘機部隊を迎撃するために配備を受けたもので、ロシアから密かに輸送されてきた。セルビアは、傭兵の航空部隊に手を焼いてきたため、これは妥当な判断であった。


 SA-20のレーダー管制兵が、レーダースコープに微弱な反応が映るのを見た。が、それはすぐに消えてしまった。暫く管制兵はレーダーの周波数を変えて、先程の反応が再び映らないかどうか、確認した。が、今度は何も映らない。その兵士は、単なるノイズの一つだと結論づけて、それを上官には報告しなかった。


 3月17日 0045時 モンテネグロ上空


 F-35Bのパイロットは、一切の無線通信を封鎖し、衛星通信によるデータリンクのみで空母と通信した。無線をセルビアやロシアなどに傍受されるのを防ぐための措置だ。ロシア軍は、バルカン半島に関しては―――少なくとも、表向きには―――IL-20"クート"やA-50"メインステイ"といった情報収集用の航空機を飛ばしたり、SSV-175"オドクラフ"情報収集艦を派遣する程度に留めている。ロシアは、コソボやアルバニアに展開した傭兵部隊や警戒・監視任務を行っているNATO部隊との衝突を望んではいないようだ。それは、NATOも同じことで、バルカン半島における活動は、厳密に決められ、抑制されていた。


 F-35BのEOTSが捉えた赤外線映像は、衛星通信によって空母に送られた。NATOは、セルビアが長距離攻撃を行う能力があり、イタリアやギリシャ、ルーマニア、ブルガリアを射程に収めるミサイルを持っていると結論付けた。だが、その具体的な証拠を掴んでいる訳では無いので、確たる証拠が必要になった訳だ。


 情報収集活動に加わっているのは、F-35だけでは無かった。イタリアのシゴネラ空軍基地から、アメリカ空軍のRQ-4Bグローバルホークが飛来し、遥か19000m上空から見下ろしている。S-400ミサイルのレーダーの探知距離の遥か上だ。グローバルホークは、大西洋を隔てたアメリカ本土のビール空軍基地から地上オペレーターによって操作され、高画質の赤外線/光学カメラとSARレーダーでモンテネグロの地上の様子を偵察している。


 3月17日 0054時 アドリア海 モンテネグロ領空から28マイル南西の空域


 イタリアのシゴネラ空軍基地から離陸した2機のRC-135Vがセルビアの無線通信と電波情報の収集を始めた。片方はアメリカ空軍の機体で、もう片方はイギリス空軍の機体だ。護衛として、アメリカ空軍の4機のF-22Aが随伴している。NATOは現在、軍事作戦をヨーロッパ・アフリカ・中東地域における武力衝突における警戒・監視活動のみに留めており、加盟国が攻撃を受けない限りは、軍事介入には極めて消極的だ。勿論、各加盟国は、状況に応じて単独または他の加盟国の軍との協力体制の下での中小規模の軍事作戦を行って行ってはいたが、殆どが政情不安となった国や地域から、自国民を脱出させたり、自国民を人質に取ったテロリストへの攻撃などに留められていいた。


 アメリカ空軍のRC-135Vのクルーは、極めて厳密な命令をアメリカ空軍司令部とNATO司令部から受けていた。バルカン半島の沿岸から18マイル以内の空域に進入しないこと。そして、敵機が接近してくる気配があれば、それがセルビア軍のものであろうと、コソボとアルバニアに雇われた傭兵部隊のものであろうと、即時、シゴネラ空軍基地へ引き返すよう命令されていた。

『"シーカー34"、こちら"コマンダー"。不明機が急速接近、方位268へ転進せよ』

「了解。方位268」

 付近を飛んでいるNATO所属のE-3Cが警告を送ってきたため、RC-135Vは引き返し始めた。リベットジョイントのパイロットは、GPSで位置情報を確認した。どうやら、アルバニア領空に近づきすぎたようだ。


 3月17日 0106時 アドリア海上空


 ティラナ・リナ空港から出撃したF-15CとSu-35Sが飛んできた。後ろからは、MiG-29Kとミラージュ2000Cも付いてきている。

「こちら"ウォーバード1"、目標は西へ方向転換した。どうする?」

 佐藤勇は、アルバニア・コソボ連合軍司令部へ報告した。今夜のアラート当番は"ウォーバーズ"が担当していた。

『"ホームプレート"より"ウォーバード1"へ。監視を続行せよ。目標はどこへ向かっているか?』

「シチリア島方面へ向かっている。このままの進路だと・・・・・・目的地は、恐らくはシゴネラ空軍基地だな」

『なるほど。十中八九、アメリカ軍の偵察機だろう。他に不審な機体は?』

「こちら"ウォーバード1"、他に飛行機がいる様子は無い」

『了解。暫く哨戒飛行を続行せよ』

「"ウォーバード1"了解」

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