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奇襲

 3月16日 0117時 セルビア トゥティン近郊


 CJ-10巡航ミサイルが、自走式地上発射ランチャーからコソボめがけて矢継ぎ早に発射された。セルビアは、奪還されたコソボのフェリザイを攻撃し、地上部隊を送り込んで再び占領する作戦に出た。しかし、今回は、コソボ領内に配置したミサイル部隊は動かさず、セルビア国内から発射されている。セルビア政府は、傭兵・アルバニア軍・コソボ治安軍がセルビア国内を攻撃していないことに着目したためだ。勿論、地上部隊が"国境"を超えた場合、攻撃を受けることになるが、国境越しに巡航ミサイルを撃てば、そうはならない。更に言えば、弾道ミサイルを使った場合、NATOの偵察機や早期警戒衛星に捉えられてしまうが、巡航ミサイルならば、そうなる危険性は少ない。恐らく、コソボとアルバニアは、セルビア国内に侵攻するか否か、判断をするのにかなりの時間をかけるはずだ。そうすれば、こちらとしては、時間を稼ぐ事ができる。


 傭兵部隊は、航空機に搭載するスタンドオフ兵器を装備しているが、地上発射型巡航ミサイルに匹敵するほどの射程は無く、国境を超えずに反撃するのは困難になるはずだ。


 巡航ミサイルは、中国版GPS『北斗』のデータリンクを受け、目標へ向かった。地上スレスレを飛ぶため、早期警戒レーダーで捉えるのは困難だ。着弾に気づいたときは、後の祭になるだろう。


 3月16日 0133時 コソボ ペーヤ南部


 ペーヤ周辺では、ここを奪還したコソボ治安軍部隊と傭兵部隊の合同部隊が駐屯を開始していた。トラックや装輪装甲車、ジープが並べられ、後に対空ミサイルや早期警戒レーダーも配備される予定であった。コソボとアルバニアは、戦車や歩兵戦闘車、攻撃ヘリ部隊などはアルバニア国内の前線からかなり下げられた場所へ配備し、前線には自動車化軽歩兵部隊と小規模な航空部隊のみを送っていた。前線の指揮官は、これについて司令部に必要なときに援護を受けられないと再三に渡ってこれらの兵器を前線近くに配備してくれるよう訴えていたが、戦車や航空機は高価かつ、虎の子のような扱いを受けていたため、その要請は即時却下されていた。


「クソッ、せめて傭兵部隊のアパッチくらい送ってくれてもいいものを。司令部は何を考えているんだ」

 前線基地の司令官であるコソボ治安軍の大佐は、即席のヘリパッドに並べられたヘリを見て言った。そこにある航空機は、汎用ヘリであるUH-1N、OH-6D観測ヘリが6機ずつとSA-342Mガゼル軽攻撃ヘリが4機、置いてあるのみだった。

「大尉、この前要求した、傭兵のT-72部隊の派遣についてはどうなった?」

「却下だそうです。引き続き、現状の戦力で防衛せよとのことです」

「クソッ、まるで捨て鉢じゃないか。それは、傭兵連中の役目じゃなかったのか?」

 しかし、主力部隊は後方に置いておき、前線には末端部隊を出し、敵が侵入してきた時は最前線に張りつかずに、遅滞戦術を行いつつ、やや後方に引き込んだところで主力部隊を出し、敵を叩くというやり方は、現状のコソボとアルバニアにとっては最善の方策であった。

「全く。どうかしてやがる。正規軍よりも、傭兵部隊のほうが良い扱いを受けるだなんて」

「しかし、我々が受けている命令は、敵が侵攻してきた場合は、後退しつつ交戦し、侵攻速度を遅らせることです」

「ああ、そうだ。我々が犠牲になりながらな」


 傭兵部隊とコソボ治安軍のM998ハンヴィーの車列が、パトロールのために駐屯地から出発した。屋根の上にはM2重機関銃やBGM-71TOW対戦車ミサイルのランチャーを載せている。この班は、昨日、セルビアが雇った傭兵部隊の斥候を排除したばかりだ。最近は、侵入してくるのは偵察部隊だけではない。空から無人機も送り込んできている。翼龍という中国製の無人機が、先日、このエリアの上空を飛んでいるのを確認した。その時は昼だったので、機体の写真と動画を撮り、司令部へ送った。

 パトロール部隊は暗視ゴーグルを装備し、手に持ったG-36K自動小銃の調子を確かめた。他には、機銃手(ガナー)がM249分隊支援火器(SAW)を持ち、選抜射手(マークスマン)が3~9倍率の可変式狙撃スコープを取り付けた、20インチバレルのHK417自動小銃を持っている。コソボ治安軍の射撃小隊が持つ、平均的な火器だ。他には、パンツァーファウスト3を持った兵士もいた。


 3月16日 0142時 セルビア・コソボ国境付近


 CJ-10が地を這うように飛び、ターゲットへ向かっていった。途中『北斗』を通じて送られる情報によって、飛翔コースを修正する。弾頭は高性能爆薬を搭載した通常弾頭だ。


 3月16日 同時刻 アドリア海 アルバニア領空から13マイル上空


「ん?何だ?これは?」

 アメリカ海軍のE-2D早期警戒機のレーダーが、小さな飛翔体を幾つか捉えた。反応は小さく、ハッキリと捉える事はできないが、間違いなく、何かが飛んでいる。

 レーダー士官は、これらをターゲットと指定して、監視対象とした。飛行機にしては、妙に小さく、低空を飛んでいる。ターゲットは、マッハ0.8程度でコソボへ向かって飛んでいく。

「これは・・・・・・巡航ミサイルか?」

 立場上、アメリカは介入せず中立を保っているため、コソボに対して警告を送ることはできない。レーダー士官は、これが地中海に展開している空母艦隊に向かわないかどうかを監視していた。だが、ミサイルらしき反応はコソボ国内で消えた。

「着弾したか。しかし、セルビアは、どこで地上発射型の巡航ミサイルだなんて手に入れたんだ・・・・・?」

 彼が一人ごちていると、空母から連絡が入った。先程のミサイル攻撃を、データリンクを通じて司令官が見ていたらしい。

「はい・・・・。ええ、しかし、確認するには、コソボ領空内に入る必要があります・・・・・・はい。わかりました」

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