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アップグレード

 3月12日 0813時 セルビア ブラニエ


 轟音を立てて、巨大な筒を背負った車両が幹線道路を移動している。この車両にはCJ-10やRK-55といった巡航ミサイルが搭載されている。パキスタンや北朝鮮、中国、シリア、イランなどで密かに、大量に生産されており、今ではならず者傭兵やテロリスト御用達の兵器と化している。

今では、この車両がどこのどんな人間に渡ったのか、アメリカやヨーロッパ、イスラエルは厳しく監視しているが、出回っている基数が恐ろしく多い上に、どことも知れない闇工場で大量生産されているため、完全に取り締まるのは不可能であった。


 セルビア軍は現在、正規部隊の割合は大きく減ってしまい、その戦力の多くが傭兵部隊が占めるようになった。武器はロシアと中国、北朝鮮、パキスタンなどから密かに供給を受けている。近年、こうしたならず者国家は、外貨を不正に手に入れる手段として、自分たちに敵対する国を攻撃する傭兵部隊やPMC、更にはアメリカなどからテロリストと指定されている集団に対して、密かに武器や人員を提供していた。兵器工場では、自国の正規軍に配備する以上の武器を生産し、それを闇市場に流しているのだ。こうした動きに対して、西側諸国は経済制裁を敷いている。しかし、アメリカや西ヨーロッパ、イスラエルなども同様のことを行っていることには代わりはない。"ウォーバーズ"も、自分たちが使う航空機に付随する部品をIAI、EADS、ヒンダスタン航空機などから大量に買っている。


 今回、セルビアは傭兵部隊がセルビア領内に侵入して来ないことに注目し、セルビア領内から攻撃をしかけることにした。初めは短距離・中距離弾道ミサイルを使うことを想定していたが、イタリアに派遣したセルビアの諜報員が、1機のRC-135Sがアビアノ基地に派遣されたことを伝えたため、発射した途端、セルビア軍司令部はアメリカ軍に補足されるリスクがあると考え、弾道ミサイルの使用を諦めた。その代わり、地上発射型の巡航ミサイルを使うことにした。


 3月12日 0815時 アルバニア ティラナ・リナ空港


 1機のSu-35Sが、バラバラになった状態で格納庫の中で広げられていた。"ウォーバーズ"の技術班はファスナーやビス、ネジの1つ1つに至るまで正確なCADデータを取った。今後、ディエゴ・ガルシア基地の工場で生産できるようにするための措置だ。

「このデータを基地のセキュリティ・サーバーに送信、っと」

 スペンサー・マグワイヤは格納庫の片隅でPCを操作していた。恐らく、今までコルチャックが使ってきたSu-27SKMはこれでお役御免となるだろう。事実、かつての主人を失ったフランカーは、エプロンの片隅にぽつんと置かれている。コルチャックは、これから新しい機体の慣熟飛行の準備をしているところだった。


 Su-35S、MiG-29K、F-15C、JAS-39Cが滑走路へタキシングしていった。いつものように、増槽、空対空ミサイルという、哨戒飛行のための武装をしている。

『"ティラナタワー"より"ウォーバード4"へ。離陸を許可します』

「"ウォーバード4"了解。離陸する」

 ニコライ・コルチャックはSu-35Sのスロットルを前に押した。エンジンのアフターバーナーに点火し、機体を離陸させる。操縦性は問題無く、ディスプレイ式のコックピットは以前のSu-27に比べて、余計な情報を減らすことができており、おまけに"ケアフリー・ハンドリング"操縦システムになっているので、より戦闘に集中することができる。

 フランカーは最初は真っ直ぐ、なだらかな角度で離陸していった、と思いきや、急に機首を真上に向け、ハイレートクライムで雲の中にあっという間に消えていった。その後ろから、ファルクラムとイーグル、グリペンも続いていく。


 格納庫では、ジェイソン・ヒラタのF-16CJが改修作業を受けていた。レーダーは既存のAN/APG-68(v)9から、AESAレーダーであるAN/APG-83レーダーに取り替えられ、その他の電子装置も新型のものに一新されている。

「ちょっちょっといじるだけで、旧世代機が新世代機と変わらない性能になるのか。簡単なものだな」

 ヒラタは、これから生まれ変わろうとしてる自分の愛機を見上げた。既存機の近代化改修用パッケージは、今や売れ筋商品であり、大小様々な兵器メーカーが各国の軍や傭兵部隊、PMC向けに販売している。

「今は、これがトレンドだよ。外側は耐用寿命延長工事をして、中身の電子機器を取り替える」

 この作業は、高橋正が指揮を取っていた。彼は、ケーブルと電子機器でF-16CJと繋がったPCを操作している。

「ミッション・ソフトウェアも、F-35で使われているものをアレンジしたものになっている。そうそう。こいつの呼び方は、F-16Vに変更になるからな」

「ほう」

「ちょっと中身をいじるだけだ。新型機を買うよりは、かなり安上がりになる」

 高橋は、ソフトウェアにバグがないかどうか調べ終えたところだった。ミッション・ソフトウェアのソースコードは、既存のF-16CJのものに比べて膨大な量になるが、データフュージョン技術により、パイロットがその時に必要とする情報だけを得ることができるため、情報過多にならないよう設計されている。

「さて、後は、これをインストールするだけだ。それ」

 高橋は、PCのエンターキーを押した。画面には『Software Uproading』の文字が表示された。 

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