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テスト・フライト

 3月2日 0934時 ティラナ・リナ空港


 ハンガーからSu-35Sが引き出された。大きさ、形状共にSu-27SKMとほとんど変わらない。ニコライ・コルチャックは、この日までにマニュアルの基礎的な部分は頭に叩き込んでおいた。少し厄介だったのが、AL-41F1Sエンジンの特徴である推力偏向ノズルのことだが、スペンサー・マグワイヤは、エンジンノズルの偏向はコンピューターが勝手にやってくれるので、普通に飛ばせば問題ないと請け合った。

「随分すっきりしたコックピットだな。エンジンスタートの手順は変わらず・・・・・・。操縦もいつも通りやればいいか。ただ・・・・・・」

 コックピットに座ったコルチャックはスイッチを幾つか押して、モードを確認した。

「対地攻撃をほとんどしたことが無いからな。暫くは空戦だけをやらせてもらおう」

「燃料は入っています。後は、エンジンを動かすだけです」

「わかった。じゃあ、早速飛ばしてみるか」


 Su-35Sのエンジンの回転数が上がり、タキシングを始めた。吊るしているのは、増槽とR-73とR-77が2発ずつのみだ。

『ティラナタワーより"ウォーバード5"へ。ランウェイ36へ向かえ』

「"ウォーバード5"了解。ランウェイ36へ向かう」

 フランカーの後ろからは、F-15C、JAS-39C、ミラージュ2000Cがついてきている。いずれも、中射程空対空ミサイル4発と単射程空対空ミサイル2発、増槽2つという軽装だ。これは、テスト飛行中に国境を超えて侵入してきた敵機に出くわした時に自衛できるようにするための措置で、勿論、実際には交戦は想定していない。勿論、テストフライトは、こちらの制空権が完全に確保されている空域で行われる。更に、テストを確実なものにするために、F-15Cのセンター・ハードポイントにはAQM-2が搭載されている。


 戦闘機が飛び上がると、続いてKC-10A、E-737がタキシングを開始した。テスト飛行中に接近してくる敵を警戒し、必要とあれば、空中給油をするためだ。


 3月2日 0951時 アルバニア上空


 テストフライトを行う編隊が、予定していた空域に入った。編隊を解き、予定通りの行動に入った。

「こちら"ウォーバード4"。テストフライトを開始する」

『"ゴッドアイ"了解。慎重にな』


 コルチャックは、まずは、Su-35Sを急上昇させてみた。反応は機体の反応は上々だが、一つだけ気になった事があった。フライ・バイ・ワイヤ機であるがために、操縦桿、スロットル、ラダーペダルが一切動かないのだ。アナログ式だった計器盤は、スッキリとした2枚のデジタル式多機能表示ディスプレイに置き換わり、必要な情報だけを表示させることができる。コルチャックは、エンジン計器表示、レーダー表示、GPS表示、兵装選択画面、AWACSデータリンク表示を切り替える。

「データリンク表示良好。問題なし」

 このSu-35Sには、オリジナルのものと変更した点があった。ロシアで製造された、正規品のAT-Eデータ交換装置を"ウォーバーズ"が独自に使っているデータリンク端末に置き換えてある。カート・ロックが心配していた点はここで、データリンク端末の適合が上手くできるかどうか、全く不明だった点だ。


「ニコライとのデータリンクは上手くいっているな」

 スタンリーはコンソールのタッチパネルをペンで突いて言った。現在のところ、ネットワーク・システムの表示にはしっかりとSu-35Sのアイコンが『WBD4』という名称で表示されている。

「今のところ、エラーは出ていません。接続は良好です」

 リー・ミンがキーボードを叩きながら言った。

「後は、操縦だけか。さて・・・・・」


 3月2日 1001時 アルバニア上空


 コルチャックはSu-35Sを暫くまっすぐ飛行させた後、急に操縦桿を引いた。フランカーが機首を約100度の角度で上を向く。すぐに操縦桿を押すと、機首はゆっくりと元の角度に戻った。プガチョフ・コブラだ。コルチャックは、再びコブラ機動を行った。

『おい、ニコライ。次は"クルビット"をやってみたらどうだ?』

 ワン・シュウランが無線で話しかけた。クルビットとは、機体を縦に一回転させる機動だ。

「よし。ちょっと試してみるか」


 Su-35Sは機首を持ち上げ、そのままひっくり返り、宙返りをしてから元の飛行姿勢に戻った。少ししてから、もう一度、同じ機動を繰り返した。

「問題なさそうだ。後は、兵装システムを確かめたいが・・・・・・対地モードだけにしておこう」

コルチャックがMFDのスイッチを押すと、画面のGPSマップがIRSTによる赤外線画像に切り替わった。このIRSTは光学TVカメラとレーザー測距儀も兼ねているため、レーザー誘導爆弾を使う時には、ハードポイントを1つ潰してレーザー・デジグネーターを搭載する必要が無い。

「なるほど。こいつはいい」

 続いて、HMDであるスーラヘルメット照準装置の機能を確かめてみることにした。

「"ウォーバード4"から"ウォーバード1"へ。そろそろ無人機を撃たせてくれ」

『"ウォーバード1"了解。標的を投下する』


 F-15Cの胴体下からAQM-2Bが分離した。ロケットエンジンに点火して、真っ直ぐ飛んでいく。コルチャックはHMDバイザー越しに無人機を見た。HMD画面越しに見た無人標的機(ドローン)に緑色のシンボルが重なり、ピーという音と共に赤く変わる。『Target Rocked On』という文字が表示される。

「ターゲットロック・・・・・・Fox2」


 無人機はプログラム通りにメチャクチャな機動を始めた。が、R-73はそれ以上の機動で旋回し、AQM-2Bに命中した。


「命中確認。短射程ミサイルテスト成功」

 コルチャックは司令官に報告した。次は、中射程ミサイルのテストだ。

「"ウォーバード4"より"ウォーバード1"、次のドローンだ」

『了解。投下する』


 F-15Cから2発目のドローンが投下された。このドローンはプログラム通りにどんどん遠くまで飛んでいった。


 コルチャックはドローンが35kmまで離れていくまで待ってから、レーダーを索敵モードにした。ドローンが予定通りの空域を飛んでいるのが画面に映し出される。彼は、レーダーモードを切り替え、ドローンを敵として指定した。MFDとHUDに『Rocked On』の文字が映し出される。

「ターゲットロック・・・・・・Fox1」


 R-77がレールから発射された。実戦ならば反転して、高度を変えるところだが、コルチャックは命中するまで観測した。やがて、レーダー画面でミサイルとドローンのアイコンが重なり、消えた。

「こちら"ウォーバード4"、命中確認。テスト終了。帰還する」

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