拿捕
2月26日 1054時 アルバニア北部上空
『給油完了。行って来い!』
KC-10Aの給油ブームが上がった。ジェイソン・ヒラタはスイッチを押し、即座にF-16CJのリセプタルの蓋を閉じた。空対空ミサイルは十分残してあるし、給油も終わったので迎撃作戦をするのは十分だ。
『それにしても、難儀だな。あっちこっち回される身にもなってみろって』
無線からジェリー・クルーガーの声が聞こえてくる。彼らは、この作戦のために急遽、ティラナ・リナ空港から離陸したのだ。
「全くだ。空爆をさせられていたと思ったら、今度は不明機を迎撃しろとさ。どうしてこうなるんだか」
ヒラタが不満たらしく言う。
『まあ、あっちこっちたらい回しされるのが、俺たちらしいってことじゃないのか?行ってこい』
佐藤のF-15Cを先頭に、最後尾をシュナイダーのタイフーンとワンのミラージュが守る形で編隊を組み、ターゲットへと向かった。
『"ウォーバード1"、こちら"サバー"。確認だ。ターゲットを見つけたら、まずは撃たずに目視で確認しろ、だったな』
「ああ。できればアルバニア国内の飛行場に強制着陸させろだとさ。全く、むちゃくちゃ言いやがる。ボスによれば、速度とレーダー断面積から、戦闘機じゃないで輸送機サイズの飛行機らしい」
『なるほど・・・・・・確かに、コソボとアルバニアは、こっちの物資輸送のスケジュールは全部把握している筈だし、それに載っていない時間に飛行機が現れれば・・・・・・』
「そういうことになるな。行くぞ?」
2月26日 1101時 モンテネグロ・アルバニア国境付近上空
An-124のパイロットは緊張していた。このパイロットは、あくまでも金でセルビア政府に雇われた民間会社の所属だった。この飛行機の持ち主である"インタースカイカーゴ社"は、あくまでも民間企業で、パイロットや他のクルーも従軍経験が一切無く、戦地の上空を飛ぶのもこれが初めてであった。この仕事のために普通の給料に上乗せされた多額のボーナスの魅力に勝てず、遂に首を縦に振ってしまった。
「畜生・・・・・やっぱりやるんじゃなかった。早いところ終わらせて、さっさと帰るに限る、だ」
機長は額に汗を浮かべ、手も震えていた。この飛行機には、レーダー警報装置も、チャフ・フレアディスペンサーといった防御装置も取り付けられていない。しかも、最終的な顧客であるセルビア側は、護衛のための戦闘機を寄こすこともしなかった。
「そうだな。さっさと終わらせよう。しかし、バルカン半島の様子はちっともわかっていないんだ。入ってくる情報は、どれも3~5日たった後の話ばかりじゃないか。それじゃあ、安全かどうかわかったもんじゃない。それに・・・・・」
機長は、視界の端に、何かが飛び込んできたのを見た。
「何だ?あれは・・・・・」
佐藤は4機のAn-124を確認した。機体記号から、登録先がバミューダ諸島のものであることがわかった。多分、税金対策か、表立ってできないようなことをやっているかのどちらかだろう。まずは国際緊急周波数で呼びかけることにした。
「飛行中のAn-124へ。飛行中のAn-124へ。この空域は、我々の制圧下にある。所属と目的を明らかにせよ」
『こ・・・・こちらは、"インタースカイカーゴ社"だ。セ・・・・・セルビアに物を届けるために飛んでいる・・・・・』
佐藤は少し考えた。
「"インタースカイカーゴ"へ。今から、我々の指示に従って飛べ。さもないと、即座に撃墜する。繰り返す。我々の指示に従え。変な真似をしたら、すぐに撃墜する」
佐藤はAIM-9Xの安全装置を解除して、すぐ目の前のAn-124にロックさせた。ジジジジジジと、シーカーがターゲットを捉えたことを知らせる電子音が鳴る。
『わ・・・・・わかった。指示に従う・・・・・・』
2月26日 1108時 コソボ フェリザイ上空
「わかった。そのままそいつらをティラナに着陸させろ。何を運んできたか見てやろう」
スタンリーは先程、ティラナ・リナ空港の航空作戦司令部に連絡を取ったところだった。貨物機を拿捕に成功したことを伝えると、司令部はそれを持ってくるよう、スタンリーに要求したところだった。その過程で、スタンリーはコソボ・アルバニア連合軍司令部と交渉し、貨物機の中身が航空機かそれに準じた部品、兵装などだった場合は、中身を貰う。そうでなければ、そっくりそのままコソボとアルバニアで山分けさせる。外側の貨物機は、どうなような場合であれ、コソボとアルバニアが接収しても良いという交渉を終わらせていた。
「司令官、それにしてもちゃっかりしていますね」
リー・ミンが話しかけた。
「なあに、今の状況を考えると、これだけでも報酬を貰わないと釣り合わないさ。さて、奴らは何を運んでいたのか。後で見るのが楽しみだな」




