ダークサンダー作戦-2
2月26日 コソボ リピャニ近郊上空 1019時
「データアップロード確認。ターゲット座標入力・・・・・・・」
ケイシー・ロックウェルはF-15Eの後席で操作パネルのボタンを押し、座標データをAGM-158に送り込んだ。MFDのアイコンの色が変わり、JASSMがターゲットを補足したことを知らせた。
「ターゲット再度確認。無人機の画像データ、ダウンロード中・・・・・」
MFDのマップ表示と無人機の画像データが統合され、JASSMの誘導コンピューターに送り込まれた。兵装管理画面のアイコンが、1発のJASSMがターゲットをロックしたことを知らせる。
「ターゲットロック!発射!」
F-15Eから2発のスタンドオフミサイルが発射された。ストライクイーグルは、他にAIM-9XとAIM-120Cを4発ずつ搭載しているので、対地攻撃を終えた後は、即座に上空援護に回ることができる。ロックウェルはJASSMを撃ち終えると、レーダーを対空モードに切り替えた。
「上空を捜索。敵影は・・・・・・今のところ確認できないな」
敵機は、まだ迎撃に上がってきていないか、どこか他のエリアで交戦せているかのどちらかであろう。
「"ウォーバード6"より"ゴッドアイ"へ。敵機の状況を知らせてくれ」
『こちら"ゴッドアイ"。迎撃機が幾つか上がっている。そちらの空域にマッハ1.3で接近中の敵機を2つ確認。注意せよ』
ハンス・シュナイダーはタイフーンのコックピットのMFDのデータを確認した。画面にはGPSマップと衛星画像が表示されている。コンソールのスイッチを押すと、データ・フュージョン機能により、2つの地図が重なった。衛星画像には、弾道ミサイルの輸送起立発射機が表示されている。再びボタンを押すと、今度は別のMFDに別の衛星画像が表示される。シュナイダーは兵装選択画面を呼び出し、タウルスの安全装置を外した。
「ターゲットロック・・・・・発射」
タイフーンからタウルスKEPD350巡航ミサイルが投下された。少し時間を置いて、もう1発が発射される。やや厚みのあるサーフボードのようなミサイルは、それぞれが別の標的へ向かってターボジェットエンジンを作動させ、飛翔した。
「ミサイル発射完了。上空の警戒にあたる」
2月26日 コソボ リピャニ上空 1028時
セルビア側の迎撃機が、ようやく交戦空域へと進入した。先鋒を務めるのは、MiG-29Sだ。セルビアは1993年と1999年のNATO軍との戦闘で疲弊し、暫くは数機のガレブG-2とスーパーガレブG-4だけを配備していたが、2015年ころからようやく空軍の立て直しを開始して、ロシアからMiG-29S/UBSと中国からJ-10A/Sを導入して、最近になってようやくまともに戦力化し始めたところだった。コソボの編入を目論んだのも、こうした再武装化も背景にあるものであった。更に、セルビアは、Su-30MK2やSu-35Kの導入も目論んでいるという。当然、西側諸国はこのようなロシアと中国の動きを批判し、セルビアによるコソボの編入を直接的・間接的に手を貸しているとして、経済制裁を行うこととなった。
2月26日 コソボ フェリザイ上空 1034時
「司令官。ビショップから通信が入っています。スピーカーに繋ぎます」
原田がコンソールのスイッチを押した。
『こちら"ビショップ"。"ゴッドアイ"聞こえるか?』
"ビショップ"は、傭兵部隊が持ち込んだSu-24MR電子偵察機だ。
「こちら"ゴッドアイ"。感度良好」
『先程、ちょっと気になるものを見つけてな。手の空いている迎撃機がいたら、そっちに回して欲しいんだが・・・・・・』
「何を見つけた?」
『シュコダル湖の辺りに、トランスポンダー表示の無い大型機らしきものが何機か飛んでいるらしいんだ。さっき、哨戒飛行をしていた他の傭兵野郎のS-100Bが見つけたんだけど、もし、そっちから回せる戦闘機がいたら、確認してもらいたくてね・・・・・・おっと、見つけたぞ。今からデータリンクで送る』
暫くすると、コンソールのレーダー画面に、新たな機影が映るのを確認した。全部で8機だ。
「わかった。戦闘機を差し向けよう。ちょっと時間がかかるかもしれないが、迎撃には必ず間に合わせる」
『了解。恩に着るよ』
2月26日 コソボ リピャニ上空 1035時
「なんですって?司令官。もう一度お願いします」
佐藤勇は、スタンリーが言った言葉が、にわかに信じられなかった。こんな時に別の航空機だって?
『手が空いているのがお前たちだけなんだ。もし奴らを拿捕できたら、その飛行機が運んでいる物が何であれ、お前たちのものにできるよう俺がコソボとアルバニア側に直接交渉してやるからな。もし、それに失敗したとしても、その分、俺の取り分を幾らかカットして、お前たちで山分けして構わんさ』
「・・・・・・・わかりました。しかし、それには、燃料がちょっと足りません。給油機を回して貰わないと・・・・・」
『了解だ。一旦、空中給油機とアルバニア上空でランデブーしてくれ』
「わかりました。通信終了」
『何か面白そうな話か?』
無線からゲンナジー・ボンダレンコの声が聞こえてきた。
「彼我不明機を要撃しろとさ。付いてきたかったら、好きにしてくれ」
『ふむ・・・・・』
やや間があって、ケレンコフが返答した。
『俺たちも付いていくぜ。こんなところで1機で取り残されても、生きて帰れる気がしないからな』




