攻勢
2月26日 アルバニア ティラナ・リナ空港 0817時
「さて、諸君。本日0001時をもって、モンテネグロ政府が中立を放棄した。恐らく、セルビア軍が再三の申し立てにも関わらず、モンテネグロ国内に留まり続けたからであろう」
イグリ・サビク将軍が集まった傭兵たちに話しかけていた。近くには、アルバニア陸軍の将軍もいる。
「現在、モンテネグロ軍が国内にいるセルビア軍に対して攻撃を開始したが、モンテネグロ陸軍には歩兵部隊と小規模な機甲部隊、海軍は水軍と言ってもいいくらいの小規模なフリゲートとミサイル艇、哨戒艇からなる部隊、航空戦力は陸軍航空隊のみという状況だ。モンテネグロはコソボとアルバニアに対して協力を求めている。更に、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ構成国のスプルスカ共和国の民兵部隊がモンテネグロへの侵攻準備も行っているという見方もある」
サビクはここで言葉を切った。
「だが、我々にとっては、これがチャンスだ。セルビア軍は、二正面作戦を行わざるを得ない状況になっている。西のモンテネグロ、南のコソボとアルバニアに挟まれる状況になっている。だが、なぜ、今になってセルビアがモンテネグロにも軍を侵入させ、攻撃を行ったのは未だにわかっていない。情報部でも意見が分かれている有様だ。だが、この隙に、コソボの首都プリシュティナの解放を行う」
部屋の傭兵たちがざわついた。遂に、コソボの首都に迫るのだ。
「現在、コソボの南部、ジャコーヴァ、プリズレン、フェリザイ、ジランはコソボ臨時政府と複数の義勇民兵団の影響下にある。プリシュティナ、ペーヤ、コソフスカミトロビツァはセルビア軍に占領されている。コソボ政府の目標は、あくまでもセルビア軍をコソボ国内から追い出すことだ。プリシュティナへは、4方向から攻撃して、セルビア軍を北部へ追い出す作戦を行う。ジャコーヴァ、プリズレン、フェリザイ、ジランに砲兵部隊、機甲部隊、機械化歩兵部隊を展開させる。それぞれ1個旅団規模ずつだ。まずは、航空部隊に空爆を行わせる。対空陣地を破壊し、航空機が出てきたときは、排除する。そして、航空部隊に地上部隊の援護をさせつつ、プリシュティナへ迫る。実はだな・・・・・・」
サビクはPCのキーボードを叩いた。スクリーンにプリシュティナ周辺の航空写真が表示された。
「これは、23日に撮影されたもの。プリシュティナの周辺には、機甲部隊によて強固な防御陣地が築かれていた。しかし・・・・・・・」
再びサビクがキーボードを叩く。別の航空写真がスクリーンに映し出される。
「これは、つい今日の未明、偵察機が撮影したものだ」
なんと、23日の写真には写っていた戦車や装甲車の数がかなり減っていた。
「更に、偵察衛星の写真がこれだ」
時系列に複数の航空写真が表示される。プリシュティナ周辺の機甲部隊が移動しているのがわかる。
「恐らく、モンテネグロからの攻撃により、セルビア本土防衛のために呼び戻されたものであろう。我々は、これによって手薄となった場所を叩き、プリシュティナを奪還する。そうすれば、コソボからセルビア軍を完全に追い出すのも目前となるだろう。ただ、一つだけ気がかりなことがあるとすれば・・・・・」
サビクはキーボードを叩いた。コソボ国内北部とセルビア国内南部に幾つかのアイコンが表示される。
「プリシュティナを射程に入れた、地上発射型の短距離弾道ミサイルと巡航ミサイルが配備されている可能性がある点だ。弾道ミサイルはスカッド、DF-11、ファテフ110。巡航ミサイルについては、CJ-10が配備されている可能性がある。更に、侵攻が始まった場合、セルビアはコソボ、アルバニア、モンテネグロにこれらのミサイルを発射する可能性がある。よって、防空部隊の守りを整えてから、侵攻作戦を開始する。これより、地対空ミサイル部隊を、弾道ミサイルや巡航ミサイルが飛んできた場合に迎撃できる最適な位置に移動させているところだ。また、向こう側の負けがこんできた場合、Tu-22MやH-6Kといった爆撃機による焦土作戦が行われる可能性もある」
サビクは再び言葉を切った。
「地上部隊は一気にコソボ領内に突入する。航空部隊は、地上部隊の援護をする班とミサイルを捜索し、破壊する班の2つに分ける。ミサイルの捜索は、コソボとアルバニア陸軍の特殊部隊が行う。発見した場合は、その場で破壊工作を行うか、航空部隊を呼び出して空爆して排除する。どの部隊がどの作戦に割り当てられるかは、後ほど伝える。今作戦は、黒い雷作戦と名付ける。以上、解散」
2月26日 アルバニア ティラナ・リナ空港 0917時
戦闘機に兵装が搭載され、燃料がタンクローリーから注入され始めた。"ウォーバーズ"とケレンコフは、ミサイルを破壊する班に割り当てられた。よって、F/A-18CとF-16CJ、F-15EにはAGM-158JASSM、ユーロファイターとグリペンにはタウルス、Su-30SMにはKh-59Mが搭載されることになった。F-15C、MiG-29K、Su-27SKM、ミラージュ2000Cは上空援護を行う。例によって、防空網の破壊は、やや経験が浅く、戦力としてはそこまで重視されていない部隊が担当することとなった。
「あいつらは・・・・・・捨て駒の中の末端中の末端か。気の毒に」
ハンス・シュナイダーが、離陸していったトーネードIDSを眺めながら言った。胴体にはALARM対レーダーミサイルが搭載されている。
「俺たちは使い捨てなのは変わりない。が、これまでの活躍で評判がいいから、そこそこ重要かつ、危険度の低い任務が割り当てられる。ぽっと出だったり、評判が悪かったり、存在自体無名だったりする連中は、危険度がより高い任務に放り出される」
ワン・シュウランが返した。
「まあ、運が良ければ、奴らは生きて帰って、名声を得るさ。運が良ければ、の話だがな・・・・・・」
ワンはそう言って、自分のミラージュ2000Cの方へ歩いていった。




