焼け跡の捜索
2月22日 アルバニア ヴァルドナ渓谷国立公園上空 1634時
夜の帳が降り始めた頃ではあったが、山のあちこちでは炎が燻り、この自然公園の一部だけを照らしていた。その火は、Il-76やy-20といった輸送機が積んでいた貨物の可燃物や、地面に散らばった航空燃料が燃えているものであった。時折、炎で熱せられた弾薬の火薬が弾ける音が交じる。どうやら、敵は武器弾薬、燃料など、多くの物資を運び込もうとしていたようだ。先程まで上空を飛び回っていた傭兵部隊の戦闘機はすっかりいなくなり、飛んでいるのは夜行性のコウモリくらいのものであった。
しかし、遠くの方から、微かに空気をかき乱す音が聞こえてきた。その音に気づいたリスやネズミは穴ぐらへと逃げ込み、狼が空に向かって吠える。だんだんとその音は大きくなり、ついには爆音と言えるほどにまでなった。
Mi-24DがUH-60AとMi-8を引き連れて地表近くを飛行している。その後ろからは、CV-22Bを後ろに引き連れたAH-64Dがついてきている。地上部隊は数カ所に展開し、墜落した敵の輸送機の捜索を開始していた。
ジャック・ロスはFN-SCAR-L Mk16のボルトを引き、薬室に5.56mmのソフトポイント弾が装填されているのを確認した。ホルスターには、9mmのブラック・タロン弾が装填されているHK VP-9が収まっている。地上部隊は、これから航空部隊が撃墜した輸送機の状況の調査を開始する予定だ。
Mi-8の両側のキャビン・ドアが開き、ロープが垂れ下がってきた。すぐにG-36Kを持ったアルバニア陸軍とコソボ治安軍の兵士がラペリングで降下してきた。兵士たちは素早く周囲の防御を固める体制を取り、油断なく目を光らせた。ケブラーで覆われた鉄製の防弾ヘルメットにはAN/PVS-18暗視ゴーグルが装着され、銃にはCOMP-ML2ドットサイトが搭載されている。キャビンクルーはヘリ右側のキャビンに搭載されたM240Bのボルトを引き、7.62mmNATO弾を薬室に送り込み、左右に油断なく銃を振り、周囲を注意深く警戒した。
コソボ・アルバニア合同部隊の隊長である大尉は腕を振り、隊員たちに左右に展開するよう指示した。セルビア軍部隊が同じように墜落した輸送機の捜索を行っている可能性が高いため、交戦に関しては、全員が覚悟していた。
2月22日 ティラナ・リナ空港 1638時
「よし、まずはあっちを確認しよう。方位079」
「方位079、了解」
スペンサー・マグワイヤはコンソールのジョイスティックを動かし、キーボードを叩いた。操縦システムの画面にはGPSマップと無人機のカメラから送られてくる画像とGPS座標、その他計器情報などが表示されている。高橋正はカメラの向きを変え、地上の様子をズームして確認した。赤外線カメラのおかげで薄暗い状況でも、地上の様子をはっきりと確認することができる。彼らの任務は、地上部隊の上空援護で、地上の様子を常に監視し、必要となったら。翼のパイロンに搭載された4発のAGM-114Kヘルファイア対戦車ミサイルと500lbのGBU-12ペイブウェイレーザー誘導爆弾で敵部隊を排除することである。
「武器システム、安全装置解除済み。オールグリーン」
『こちら"リザード"。頼りにしてるぜ』
捜索部隊の隊長が無線で交信してきた。
「任せてくれ。そっちは、俺たちがどこに爆弾を落とせばいいか教えてくれればいいだけだ」
高橋が答えた。2人は、常に安全な場所から作戦を行っているわけだが、無人機のクルーは―――戦場である非日常と安全な日常を極端に行き来することになるので―――心理的負担が大きいとされているため、スタンリーはこの2人には特に短いスパンで、カウンセリングを受けさせている、が、今の所、2人はそんな症状を発症する前兆も素振りも見せたことがないのだ。
空港の格納庫では、"ウォーバーズ"の技術チームが予備の戦闘機のメンテナンスを行っていた。他の戦闘機には、作戦がまずいことになったときに備え、空対空ミサイルと増槽、各種対地攻撃兵器が搭載されている。パイロットたちは待機部屋でリラックスした様子で過ごしていた。
2月22日 アルバニア ヴァルドナ渓谷国立公園上空 1654時
MQ-9リーパーが静かにターボプロップの音を立て、上空をぐるぐると回っていた。リーパーはティラナ・リナ空港から衛星通信で操縦されており、パイロットは乗っていない。そののっぺりとした白い不気味な航空機は、機首下に搭載されているカメラをぐるぐる回し、地上部隊の脅威となるものが接近していないかどうかを監視していた。
攻撃ヘリと輸送ヘリは公園のやや広い場所まで飛行し、予め他の地上部隊が用意していた武器や燃料の補給地点へと向かっていった。地上の誘導員がヘリに合図を送る。そこには、タンクローリーと弾薬や予備パーツを載せたトラック、更には敵襲に備えて、歩兵戦闘車や戦車、地対空ミサイルも配備されていた。ここはアルバニア領内であるものの、セルビア軍特殊部隊による破壊工作を受けないとも限らない。セルビア側は、貴重な補給物資を失って、かなり必死になるのは明確であった。




