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 2月22日 アルバニア上空 1325時


 Il-76が炎上し、落下した。撃ったのは傭兵部隊のMiG-23だ。敵の輸送部隊のAn-72が爆発炎上し、落下していく。既に、セルビアが雇った輸送機部隊は壊滅寸前になっており、目的地にたどり着けたのは数機だけであった。この作戦の後、地上ではアルバニア陸軍部隊と傭兵部隊が、墜落した輸送機の座標を確認し、散乱した物資の確認へ向かうことになっている。

「ターキーシューティングだな。護衛機がいないと、まるで無人標的機を使った実弾射撃訓練だ」

この傭兵部隊のMiG-23にはフランス製の電子機器が搭載されており、MICAとマジック550の運用能力が追加されていた。


 2月22日 アルバニア SAMサイト 1331時


 アルバニア陸軍と傭兵部隊の地対空ミサイルのランチャーが上を向き、いつでも発射できる態勢を整えていた。戦闘機部隊が撃ち漏らした敵の輸送機が飛んできた場合、この部隊の出番になる。

『"ゴッドアイ"より"ガーディアン"へ。そちらに3機の敵輸送機が向かっている。IFFで確認した後、報告せよ』

「"ガーディアン"了解。確認後はそちらの指示に従う」

地対空ミサイル部隊のM901ランチャーの周りで、傭兵たちがせわしなく動き始めた。発射時の爆煙に巻き込まれないよう、周囲から退避する。

「1時方向から接近する機影を確認。方位、021」

「了解、方位021」

 2基のM901が旋回し、敵機が接近してくる方向へ向いた。

「レーダーにて機影を確認。IFF質問信号発信」

「IFF信号確認。応答なし。民間機のトランスポンダーとも違う。再度信号発信・・・・・」

「IFF確認。敵機と断定。レーダーロックオン・・・・・・」

「発射準備完了。総員、退避せよ」

「レーダーロック・・・・発射!」


 2機のランチャーから、それぞれミサイルが2発ずつ発射された。一般的にはPAC-2と呼ばれているこのミサイルは、副次的には弾道ミサイル迎撃機能が付加されてはいるものの、限定的であるため、たいていは航空機への迎撃に使用されている。


 2月22日 アルバニア上空 1335時


「くそっ、あとどれくらいだ?」

 Y-20のクルーは、エンジンを1基破壊された状態で飛行していた。先程、忌々しいF-15に僚機を撃墜され、その仲間と思しきユーロファイターに4番エンジンを壊されたのだ。この輸送機は、中国からパキスタン、オマーン、ソマリア、北スーダン、リビアを経由してセルビアへ向かっていた。中国政府は、ヨーロッパへ派遣する工作員の拠点の提供を受ける代わりに、セルビアへ兵器やその他の物資をこっそりと売りつけていたのだ。最短距離で行くには、トルコ、ギリシャ、エジプトなどを通ればよかったのだか、それらの国は、セルビアに対する禁輸品を運ぶ航空機や船舶を厳しく取り締まっているため、通ることはできない。おまけに、下手に領空通過許可を取ったとしても、NATOがコソボ、アルバニア、セルビアの3ヶ国に対する兵器の一切の供与などを禁止しているので、確実にトルコ空軍機によって、強制着陸させられてしまうだろう。

「まだまだこの先は長い。クソッ!こいつら、対空戦闘能力は無かったはずじゃないのか!」

 成都から出発する時のブリーフィングで、コソボとアルバニアは碌な防空戦力を持っていないため、簡単に目的は達成できるし、何なら帰りは中東辺りで観光でもしてくれば良い、と、この作戦の指揮官―――恐らくは、中国政府の役人か、人民解放軍の軍人―――から説明されていたが、このざまであった。

 やがて、ミサイルの接近を知らせる警報が、けたたましく鳴り始めた。

「畜生!ミサイルだ!」

 操縦士は赤外線ジャマーとECMを作動させ、チャフとフレアをばら撒いた。

「右ブレーク!掴まれ!」


 PAC-2は真っ直ぐにターゲットへ向かっていった。やがて、Y-20の真下に潜り込み、近接信管を作動させた。鋭い金属や複合材の破片が機体にめり込み、一部のフライバイ・ワイヤのケーブルを引きちぎった。


「くそったれ!被害状況を確認しろ!」

 Y-20のコックピットでは、いくつもの警告灯が点滅し、警報音も鳴っている。機体の振動も激しくなり、安定しなくなってきた。

「操縦系統に異常!くそっ!後部の電線が千切れたみたいだ!右翼のエルロンとフラップから、全く反応が無い!」

「クソッ!1番エンジン出火!消火しろ!」

 副パイロットが消火装置のボタンを押した。程なくして、消火剤が吹き出し、燃料タンクへの延焼は防ぐことができた。


 2月22日 アルバニア上空 1338時


 火を吹き、ようやくC-5が落下し始めた。しかし、このせいで"ウォーバーズ"とケレンコフの戦闘機は、ミサイルの殆どを使ってしまい、これ以上、作戦を続行するのは難しくなってきた。

「"ゴッドアイ"へ。こちら"ウォーバード2"、ウィンチェスター。帰投の許可を」

『"ゴッドアイ"より"ウォーバード"全機、及び"サバー"へ。帰投せよ。燃料の状況は?タンカーは必要か?』

「念のため、こちらの支配空域で用意せておいてくれ。基地までは持つと思うが、万が一ということがある」

 佐藤は燃料計を確認した。燃料はまだそれなりに残っているが、それはF-15Cだからであって、もっと小型のヒラタが乗るF-16CJやクロンへイムのJAS-39Cは、また違った状況にあるはずだ。

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