Blockade-6
2月22日 アルバニア上空 1309時
E-2Cのレーダー管制室はてんてこ舞いだった。突如として現れた敵戦闘機を見た管制官は、戦況が『見える』ことによる罠に陥っていた。AEWやAWACSの管制官は、空戦においては指揮官にあたる存在であるが、現場の戦闘機パイロットにあれこれ指示を出していたが、逆にそれが、味方を混乱させる結果となっていた。
『そうじゃない!7時方向からだ!敵機、距離、187!』
『敵はどこだ!?こっちからだとわからんぞ!』
『もういい!こっちでやる!』
戦闘機パイロットは、遂には管制官の指示の遅れにしびれを切らし、飛行隊長の指示で交戦し始めた。
F/A-18Cが最後に残ったラファールをサイドワインダーで仕留めた。残るは4機のC-5Mだけになった。ギャラクシーのパイロットは護衛機がいなくなったことに気づき、IRジャマーを作動させ、チャフやフレアをばら撒き始めた。
「"ウォーバード1"から各機へ。残弾数を知らせろ」
『"ウォーバード2"、全弾残っている』
『"ウォーバード3"、サイドワインダー無し。AMRAAMが8発』
『"ウォーバード4"、R-77が6発、R-73は3発だ』
仲間がそれぞれ残弾を知らせてきた。輸送機を仕留め、更に帰り道に交戦する可能性があるとなると、少し心もとないかもしれない。
「まずは輸送機を攻撃しよう。帰りのことを考えるのはその後だ」
一方、輸送機のクルーたちは護衛機を全て撃墜され、浮足立ち始めていた。パイロットは、まずはエンジンの出力を上げ、低空へ逃げようとした。
「畜生!護衛機がいるから大船に乗ったつもりでいろとか言いやがって!」
即座にレーダー警報装置が作動し、ロックオンされていることを知らせ始めた。
「チャフ!フレア!」
2月22日 アルバニア上空 1311時
Su-27SKMがR-77を2発発射した。ミサイルは真っ直ぐ輸送機へ向かった。1発はチャフに騙されてしまったが、もう1発はC-5Mの胴体の真下で爆発し、輸送機に無数の金属やグラスファイバーの破片をめり込ませた。その隣の輸送機は、エンジンにAMRAAMの直撃を受けた。護衛機のいない大型輸送機は、単に撃つだけならば簡単だが、戦闘機とは違い、ミサイルが1発2発直撃した程度では仕留めることができない。
煙を上げながら飛び続ける4機の輸送機を、10機の戦闘機が追い回し続けた。さながら、手負いのクジラを追いかけ回すシャチの群れのようだ。戦闘機のパイロットはミサイルを節約することにしたのか、標的の主翼を機関砲の短い連射で撃ち続ける戦術に切り替えた。やがて、1機の輸送機の翼内燃料タンクに引火し、爆発とともに左翼がもぎ取られ、機体は真っ逆さまに堕ちていった。
「1機撃墜。残り3機だ」
2月22日 アルバニア上空 1315時
An-124が爆発し、粉々になった。撃墜したのは、傭兵部隊のF-14Dだ。この戦闘機は、アメリカ海軍からはとうの昔に退役し、イラン空軍で少数が運用されている状況ではあったが、とあるメーカーが再生産を開始し、傭兵部隊やPMCがAIM-54フェニックスやイランが空対空用にホークミサイルを改造したAIM-23とともに導入している。更に、レーダーもオリジナルのAN/AWG-9から、F-15に搭載されているAN/APG-82やAN/APG-63(v)3に換装されている。おまけに、コックピットも、従来のアナログ計器とレーダースコープで構成されていたレイアウトが、デジタル式の5基のMFDになっていた。
「ターゲット撃墜。次だ」
『ターゲットロック・・・・・Fox1!』
フェニックスが前方に飛んでいき、Y-20の機体に命中した。AIM-54は、AIM-120やミーティアに比べて胴体が太い分、弾頭に積まれている炸薬量も多いため、破壊力も大きい。Y-20は空中でバラバラに分解した。
「"サバー"、Fox1」
R-77が翼のレールから離れ、前方のC-5へ飛んでいった。ミサイルは右主翼に直撃し、燃料タンクの中のケロシンに炎が引火した。あっという間に機体は燃え上がり、地上へゆっくりと落下していく。
「畜生!まるで歯が立たん!」
パトリック・コガワは煙を上げるC-5を見て言った。この輸送機はAMRAAMを2発食らっているが、未だに空を飛び続けている。4発あるうちのエンジンの1つが破壊され、右主翼の先の方を少しばかり吹き飛ばされた程度では、この巨人のような鋼鉄の鳥はびくともしない。輸送機を挟んで反対側では、左側の主翼やエンジンを、ジェイソン・ヒラタのF-16CJが機関砲で撃っているのが見える。
2月22日 アルバニア上空 1318時
ゴードン・スタンリーはレーダー画面と戦術マップを見比べた。どうやら、戦闘機部隊は敵の輸送機編隊をなかなか撃ち落とせないでいるらしい。場合にもよるが、大型輸送機はエンジンを1つ2つ破壊した程度ではびくともしない。
「司令官」
リー・ミンが話しかけた。
「敵の輸送機をエリア・ブラボー・エコーに誘導させてみてはどうでしょうか?」
そのエリアは、コソボが雇ったPMCがSAMサイトを設置していた区域だ。
「いや、危険すぎる。ここでSAMを撃たせたら、我々の航空部隊も巻き添えになる」
「では・・・・このまま続行させるしか、方法は無しですか」
「燃料と兵装の残りに注意しろ。どう考えても、これは長期戦になる」




