Blockade-5
2月22日 1303時 アルバニア レーダーサイト
レーダーサイトの管制官が件の不明機の機影を画面上に捉えた。最初は4機であったが、15分もしないうちにそれが10機以上の反応に増えた。
「41.365 18.933付近を飛行中の航空機へ。繰り返す、41.365 18.933付近を飛行中の航空機へ。貴機はフライトプランの提出無くアルバニア領内を通過しようとしている。繰り返す、貴機はアルバニア領内を通過する許可を得ていない。所属を明らかにし、飛行コースを変更せよ。繰り返す、所属を明らかにし、飛行コースを変更せよ」
沈黙。
「上空を警戒中の航空機へ。不明機は目視確認できたか?」
2月22日 1307時 アドリア海上空 アルバニア領空境界付近
4機の傭兵部隊のF-16CGが不明機へと接近しつつあった。もし、敵が護衛機を付けていた場合、心もとない戦力だが、先に突如として現れた国籍不明機を確認する必要がある。
「こちら"ルースター1"、レーダーで確認した。距離180、方位012、高度6700、隨分低く飛んでいるな」
この傭兵部隊のF-16には、AN/APG-83レーダーが取り付けられており、F-16Vに相当する改修が施されている。そのため、レーダーによる探知範囲と目標捕捉能力は、従来型に比べて格段に向上していた。
『目標数は?』
「目標、4機。迎撃するか?」
『まずは目視確認せよ。必要とあれば、交戦しても構わん』
「了解、まずは目視確認する」
F-16の編隊は、慎重に後方から国籍不明機へと接近した。レーダー断面積と速度から、割と大型の輸送機であることは確認できた。恐らく、A-400MもしくはIl-76といったところか。
「目標を目視。大型輸送機のようだ。接近して、目視確認・・・・・・」
突如として、輸送機の編隊の下から小さな目標が4つ、現れた。素早く散らばった後、あっという間に編隊を組み、こちらへ向かって来る。
『クソッ、今のは何だ?隊長、見ましたか?』
しかし、飛行隊長は答える間もなく、レーダー照射に晒された。
「クソッ!全機、ブレイク!ブレイク!」
Y-20の真下に隠れていたJ-11Bが散開し、接近してきたF-16に襲いかかった。更に、その後ろからもテジャスの編隊がやって来る。
「敵機、8機!交戦する!」
F-16の半数が急上昇、半数が急降下して一旦敵を避けた。
「クソッ!ミサイルアラート!」
F-16のコックピット内で警報が鳴り響く。
「チャフ!フレア!」
『"ルースター4"、回避!回避!』
2月22日 同時刻 アルバニア上空
突然、輸送機の影から4機の戦闘機が"分離"した。予想外の動きに佐藤は戸惑ったが、操縦桿を傾けて、右に回避させた。
『クソッ、何だ!?今のは!』
『敵だ!3時方向!』
4機のラファールBがすれ違うように後方へと猛然と飛んでいき、Uターンを始めた。
『敵機、6時方向!急上昇で避けろ!』
ケレンコフの一声に"ウォーバーズ"のパイロットたちは即座に混乱から態勢を立て直し、アクロチーム張りの一糸乱れぬ編隊を組んだまま上昇した。その後ろから"サバー"も続く。
「ワオ。素晴らしいな」
こんな状態だというのにも関わらず、ケレンコフはダイヤモンド型の編隊を綺麗に組んで飛んでいく9機の戦闘機の編隊を目で追っていた。
「ミシュカ!敵、10時方向!」
先程のラファールの1機がこちらに向かって来る。ボンダレンコはFCSのパネルを操作し、スーラHMDでロックしようとしたが、短距離ミサイルで捉えるには遠すぎた。
「クソッ!」
しかし、その直後、目の前のラファールに向かって一筋の火の矢が飛んでいき、仕留めた。
ワン・シュウランはMICA-IRのシーカーが敵機を捉える音を聞いた。HUDに表示されている緑色の四角い空対空ターゲット指示ボックスがラファールと重なり、赤に変わる。
「"ウォーバード8"、Fox2!」
ミサイルが真っ直ぐ飛び、ラファールへ向かっていく。しかし、ラファールのパイロットはそれに気づき、機首を上に向け、上昇させながらフレアを撒いた。ミサイルは赤く燃える花火にまんまと騙され、下に向かっていき、爆発した。
「クソッ!」
ラファールをAAM-3で仕留めた佐藤は、素早くニコライ・コルチャックが乗るSu-27SKMを援護する位置に付いた。数では勝っているものの、これだけ混乱していると味方を誤射する危険性も出てくる。ミサイル自体とFCSに最新型のIFFが搭載されているため、誤って味方をロックしようとしても、コンピューターが自動的にキャンセルするようにはなっているが、だからと言って、そのシステムに不具合が出ないとも限らない。
「"ウォーバード1"より"ウォーバード4"へ。後ろは任せてくれ」
『あいよ。任せたぜ、隊長』
JAS-39CとMiG-29Kが編隊を組み、ラファールを追い始めた。レベッカ・クロンへイムはちらりと輸送機の方を見やった。やはり、戦闘機がこちらを足止めしている間にとんずらするつもりのようだ。
「オレグ、他に敵機は?」
『戦闘機はこいつらだけのようだ。先に仕留めるぞ』
ある程度は予想していたが、敵の不意打ちは効果的だった。そのため、傭兵部隊は攻撃を仕掛けた側になっているにも関わらず、劣勢に立たされていた。




