Blockade-1
2月22日 0915時 アルバニア ティラナ・リナ空港
ブリーフィング・ルームに傭兵部隊のパイロットたちが集まっている。暫くすると扉が開き、コソボ治安軍司令官、イグリ・サビク将軍が入ってきた。
「さて、諸君、今回の作戦概要を伝える。傭兵部隊"グローバル・ウォッチャー"による哨戒飛行の結果、スプルスカを経由してセルビアに入っていく不審な航空機を複数確認した。レーダーで航跡を追跡した結果・・・・・」
サビクがキーボードを叩くと、スクリーンに映し出されたバルカン半島周辺地図に赤い航跡が表示された。地中海からアドリア海の公海上を通り、ボスニア・ヘルツェゴヴィナのスプルスカ共和国内を抜け、セルビアへ到達した。
「このルートで物資を運び込んでいると考えられる。そこで、我々は、アドリア海上空の哨戒飛行を行うことにする。不審な航空機を発見した場合は、アルバニア国内の飛行場に強制着陸をさせる。着陸後は、地上部隊が臨検を行う。何か質問は?」
ゲンナジー・ボンダレンコが手を上げた。
「どうぞ」
「敵が護衛を付けていた場合は?」
「敵対行動を行ってきた場合は、交戦を許可する。何をもって敵対行動とするかは、各自の判断に任せる。それと、万が一、他の空路を敵が使ってきた場合に備え、複数のグループに分けて哨戒飛行をしてもらう。他に質問は?」
沈黙。
「今回は、グループごとに、時間差を付けて出撃させる。第1グループの離陸は、1045時とする。以上」
2月22日 1030時 アルバニア ティラナ・リナ空港
第3グループに指定された"ウォーバーズ"のメンバーとケレンコフは、丹念に機体の状況を確認していた。第1グループの部隊の戦闘機は、既に燃料の補給と武装の搭載を終え、エンジンを回し始めていた。既に"グローバル・ウォッチャー"のE-2CホークアイAEWは離陸し、レーダーサイトを補い、不審な飛行機の監視を行っている。轟音を立てて、KC-135Tが離陸する。空中給油が必要になったときに備えてタンカーを滞空させ、更にそれを守る戦闘機も付けなければならない。
『"アーガス1"、離陸を許可する。"アーガス2"、続いて離陸せよ』
連続してクフィルC.7が離陸した。後ろでは、4機のF-16が待機している。どの戦闘機も、増槽と空対空ミサイルを搭載した、制空戦闘形態になっている。
2月22日 1045時 アルバニア ジャデル空軍基地
轟音を立てて4機のミラージュ2000Cと2機のトーネードF.3が離陸する。傭兵の航空部隊は、ティラナ・リナ空港とここジャデル空軍基地に分かれて駐屯している。特に、ジャデル基地はコソボと国境が近いせいか、緊急待機をアルバニア政府から委託された傭兵部隊の戦闘機が、頻繁にスクランブル発進を行っていた。
「ジャデルタワーより"ブルーバット1"へ。方位247に向かえ」
『"ブルーバット1"了解。347』
戦闘機の編隊は南西へと方向を変えた。ここからはアドリア海に向かい、不審な航空機を監視し、必要とあれば攻撃する。アルバニアとコソボは、ここに戦術航空戦力の1割を投入していた。
2月22日 1107時 アドリア海上空
E-2Cホークアイが真っ青な海上を見下ろすように飛んでいる。パイロットは、戦場でなければこの景色をゆっくり楽しむこともできたのだが、そうもいかない状況だ。後ろのレーダー操作員は、レーダー画面に集中し、不審な航空機が飛んでいないかどうか見極めている。もし、セルビアへ向かう、トランスポンダーのナンバーやフライトプランが不明な航空機を発見した場合は、近くの空域で哨戒している戦闘機部隊が拿捕し、アルバニア国内へ強制着陸することになっている。これは、一部の傭兵部隊が他の傭兵部隊や民間航空機に対して日常的にやっていることで、拿捕した航空機を奪い、乗っている人間は海路か陸路で拠点から追い返す、というやり方だ。
レーダー員は、周辺を飛んでいる航空機一つ一つをレーダー画面上で追跡した。単なる貨物機では混んでいることも考えられるため、IFFで民間機を示す信号である"モードC"を送信している航空機であっても、油断なく追跡していた。密輸に使われている航空機は、軍用輸送機とは限らない。B767やB777、A330といった旅客機の貨物型を使っている可能性もある。こうした場合は、殆どが密輸業者か闇航空会社の登録外の航空機が使われている。近年は、こうしたどこの国にも登録していない航空機を密輸などの犯罪に使用する個人や組織が急増し、IATAやICAOといった組織は対応に追われていたが、取り締りは焼け石に水の状態だった。
「今のところ、不審な機体は無いな。だが、油断はできない。貨物船から飛行艇にブツを載せ替え、水面スレスレを飛びながらセルビアかモンテネグロへ向かい、目的地に接近した時に上昇して着陸する、ということも考えられる。そうなると、レーダーでの追跡が間に合わなくなる可能性がある」
元航空自衛隊の指揮官が指摘した。このホークアイは、ホークアイ2000に相当する改修が施されており、低空飛行する目標を探知する機能が強化されてはいるが、それでも、レーダーにとっては低空飛行する航空機は厄介な存在だ。そこで、アルバニアは他の方法も試していた。
2月22日 1113時 コソボ フェリザイ
コソボ治安軍臨時部隊は、傭兵部隊の助けを借りて、ここにSA-11とSA-17、ホーク、2K22ツングースカを配備していた。コソボは、奪還したこのフェリザイ市周辺に傭兵部隊の対空兵器と戦車、機械化歩兵部隊を配置して、セルビアからの再占領に備えていた。アルバニアは、コソボに対して、この地域を通ってセルビア国内へ向かう航空機の監視を要請していた。コソボ治安軍は快くこの任務を引き受け、必要とあれば、敵機を撃墜するつもりでいた。




