表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/101

壁の隙間

 2月19日 1346時 アルバニア ティラナ・リナ空港


 "ウォーバーズ"の航空機とミハイル・ケレンコフのSu-30SMが相次いで着陸した。その後ろからは、他の傭兵部隊の戦闘機や空中給油機が続いている。ある程度の犠牲は出たものの、国境付近に集結していたセルビア軍の侵攻部隊とその後方支援部隊を叩くフレイムボール作戦はほぼ成功し、セルビア側が体制を立て直すにはかなりの時間がかかると見られていた。

 

 佐藤勇はF-15Cをエプロンに向けてタキシングをさせていると、C-5Bが6機、駐機しているのが見えた。尾翼に描かれたロゴから判断すると、"アーセナル・ロジスティックス"の機体のようだ。どうやら、ハーバート・ボイドが何やら物資を持ってきたようだ。後ろからは仲間たちが列になってついてきている。"ウォーバーズ"の地上誘導員が旗を振り、航空機をエプロンまで誘導する。F-15Cのキャノピーを開け、エンジンを切ると機付長が水を差し出した。

「お疲れ様でした。コソボとアルバニアの国境近くに展開していたセルビア軍部隊は、大部分が壊滅し、態勢を立て直すにはかなり時間がかかるそうです」

「どうやってそれを知ったんだい?」

「ミスター・マグワイヤとミスター・タカハシ他、幾つかの傭兵部隊が先程、攻撃の効果を評価するため、無人機を発進させました。そこで、かなりの数の戦車、自走砲、装甲車などの残骸を確認しました。ヘリや航空機も幾つか墜落しているようです」

「こっちの損害は?」

「自動車化歩兵1個小隊を失いました。他に、戦車小隊と攻撃ヘリ1個小隊が半壊。戦闘機部隊1個飛行分隊の半数を失っています。規模は不明ですが、1個空挺小隊にも損害が出ているようです」

 E-737からゴードン・スタンリーらがタラップで下りてくるのが見えた。やがて、コソボ治安軍の将校が何事かをスタンリーに話し、スタンリーと共に歩き去っていくのが見えた。恐らく、作戦後の状況報告を暫定コソボ治安軍司令部やアルバニア軍司令部が要求しているのだろう。バタバタという羽音が聞こえ、雲霞のようにヘリ部隊が帰還してきた。だが、出撃時に比べてヘリの数が減っているようにも見えた。


 2月19日 1349時 アルバニア ティラナ・リナ空港


 デイヴィッド・ベングリオンはややリラックスした様子で、ヘリを相棒が操縦するがままにしておいた。今回の攻撃で攻撃ヘリを4機失った。そのうち、Mi-28に乗っていた1人とAH-1Wに乗っていた2人は救出することができたが、1人は行方不明(MIA)、4人はコックピットにミサイルの直撃を受けて即死した。テロリストや破綻国家、ならず者国家が跳梁跋扈するこの世界では、傭兵稼業は稼ぎは良いが、その分、命を失うリスクも当然ながら高い。

 アパッチはゆっくりと滑走路に着地し、エプロンまで滑走していった。既に戦闘機部隊は帰還しており、幾つもの戦闘機が並んでいるのが見えた。


 ゴードン・スタンリーは司令部のオペレーション・ルームに通された。既に幾つかの傭兵部隊の司令官クラスの人間が着席している。見知った顔もいれば、見たことの無い人物もいる。スタンリーはハーバード・ボイドの隣に座った。スクリーンにはコソボとアルバニア、セルビアの周辺の地図が映されており、コソボ・アルバニア連合部隊とセルビア軍部隊の勢力図が描かれている。やがて、アルバニア陸軍司令官のベスニク・イスラミ将軍が立ち上がった。

「諸君、集まってもらったのは言うまでもないが、ここにきて状況が変化した。まずは、サウジアラビアが公式に支援を申し出てきた。戦闘部隊の派遣は行わないが、後方支援部隊を直接、送り込んでもらえるそうだ。また、ドイツとイタリアから裏ルートを使っての後方支援の協力を取り付けた。どうやら、他のNATO加盟国が二の足を踏んでいるのを見て、独自に動くことにしたらしい。他にも、後方支援を行っている傭兵部隊やPMCの支援を取り付けることもできた」

 イスラミはそこで一旦、言葉を切った。

「コソボ治安軍司令官、イザリ・サビク将軍によると、セルビアも裏ルートを使っての支援を取り付けているらしい。最大の支援国はロシアと中国だ。それと、これは・・・・・傭兵部隊の"グローバルウォッチャー"が提供してくれた映像だ」

 "グローバル・ウォッチャー"は、主に情報収集任務の請負をしている傭兵部隊で、独自に偵察機や偵察衛星を保有している。

 画層は偵察衛星を使い、セルビアの国内の飛行場を俯瞰して撮影したものだった。

「これはまた・・・・・」

「参ったな・・・・」

 傭兵部隊の指揮官たちが、スクリーンを見て言った。画像にはJ-10やSu-27かJ-11と思しき戦闘機の他、Tu-95、Il-78、KJ-200も確認できた。

「セルビアに持ち込まれた航空機はこの通りだ。我々は他に、Su-32やSu-35S、更にはJ-20やJ-31も持ち込まれた可能性もあると疑っている」

「しかし、ブルガリアとルーマニア、ボスニア、クロアチアなどは、セルビア、コソボ、アルバニアに対して協力するいかなる軍や傭兵部隊の領空通過を禁止したはずだ。一体、どうやって持ち込んだのだ?」

 傭兵部隊の隊長の1人が言った。

「抜け道はある・・・・ここだ」

 ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦内自治国家、スプルスカ共和国。

「スプルスカの政府は否定しているが、我らが傭兵部隊のE-2Cホークアイが哨戒飛行を行った際、ここの上空を通る不審な航空機が幾つかあるのを確認したそうだ。だが、流石にスプルスカの中にまで入っていって調べることは法的にも、戦力的にも難しい。だが、スプルスカに入る前、つまり、アドリア海を飛行している不審な航空機を調べることは可能だ・・・・・・」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ