フレイムボール作戦-7
2月19日 1258時 アルバニア・コソボ国境付近
ジャック・ロス、デヴィッド・バーク、ロン・クラークの3人は静かに森の中を回収地点目指して移動していた。手にはサプレッサーとグレネードランチャーを取り付けたFN-SCAR-Lを持ち、レッグホルスターにはグロック19を入れている。背中のザックの側面ポケットには、それぞれM72ロケットランチャーが入っている。こちらは少人数のため、できるだけ敵に見つからないよう、慎重に行動する必要がある。
AH-64DとCH-53Eが編隊を組んで森の上を飛行している。この時、最も警戒しなければならないのは、歩兵が持つ携行式地対空ミサイルだ。周囲を見回しつつ、ミサイル警戒画面の情報にも気を配る。できれば、攻撃機の援護が欲しいところではあるが・・・・。
2月19日 1307時 アルバニア・コソボ国境付近
アルバニア陸軍部隊が回収地点に集結した。この部隊は傭兵の地上部隊と共に、セルビア側の後方へ入り込んで、補給部隊を攻撃してきたところだ。彼らは、携行式ロケットランチャーを駆使して、トラックやタンクローリー、有蓋車などを破壊し、更に焼け残った補給物資に灯油をかけて火を放ってきた。暫くすると、弾薬や燃料に引火したのか、凄まじい爆発音が響き渡り、真っ黒な煙が立ち上った。やがて、ヘリのローターの音が聞こえてきた。EC-665に護衛されたCH-47Dだ。地上部隊の兵士が黄色い旗を振り、ヘリのパイロットに合図を送ると、ヘリがゆっくりと着陸した。
「うまくいったか?」
ヘリのカーゴマスターが兵士に話しかけた。
「ああ。奴らの燃料や弾薬をたっぷり燃やしてきた。これで、セルビア軍の連中は暫くは物資不足になるだろう。タイマー式の爆弾も仕掛けてきたから、様子を見に来た奴らも纏めて吹っ飛ばせるかもな」
「よし、早いところ引き上げよう。セルビアの連中が爆発に気づいて、押しかけてくる前にな」
ヘリが離陸し、アルバニア方面へと飛んでいった。同じ空域をA-10CとSu-24が低空で飛び回り、脱出を援護している。遠く向こうのコソボ側では、弾薬庫が黒煙が幾つか立ち上っているのが見える。更に爆発が起きて、火柱が上がる。これで、セルビア軍は前線に集積していた物資の多くを失ってしまった。
2月19日 1311時 セルビア ベオグラード
「そうか。わかった。早急に手を打たねばな」
ヴラディッツァ・プレルヴォヴィッチは受話器を置くと、どしんと椅子に座った。側頭部の血管が浮き出て、怒りで手が震えている。
「アルバニア軍と傭兵部隊が侵攻し、コソボの基地を攻撃してきた。我が軍の砲兵部隊や物資集積場が攻撃され、そこが壊滅状態だと言っている」
「大統領。これは、間違いなく、西側の軍の協力を受けたコソボ軍やアルバニア軍の仕業です。私が受けた報告を見る限り、これは完全にアメリカ軍やイギリス軍のやり口です。空爆とミサイル攻撃で電撃的に侵攻し、拠点を1つ1つ潰して、最後は地上部隊を津波のように送り込み、航空部隊に支援させることで完全に敵を壊滅させる」
ノヴァク・ブライッチ国防長官が話しかけた。
「NATO軍の動きはどうなっている」
「アドリア海の艦隊には、目立った動きはありません。しかし、スロベニアとギリシャの方で大きな動きがありました」
「何?」
「NATOは、同盟国防護のための言っていますが、ドイツ陸軍、スロベニア陸軍、フランス陸軍、ギリシャ陸軍の機甲部隊や砲兵部隊が展開を開始しているようです。しかし、加盟各国の動向次第では、我が国を攻撃して来ないとも言い切れません。アメリカ、イギリス、ノルウェー、スペインなどは積極的な武力介入には否定的ですが、ドイツ、フランス、ギリシャ、スロベニア、ルーマニアは寧ろ、武力介入に積極的です。必要があれば、コソボやアルバニア、連中に味方している傭兵部隊に対して後方支援をすることも考えているようです」
「奴らは、さしずめ、目の上のたんこぶといったところか。ロシアと中国は?再三に渡って、物資の提供を呼びかけているが、どうしている?」
「まだ何も回答はありません。流石に、表立っての支援はためらっている様子もあります」
2月19日 1314時 アルバニア・コソボ国境付近
『"パイソン2"より"フロッグマン"へ。そこにいるならオレンジのスモークを焚け』
ジャック・ロスたちが回収地点まで200mの位置にたどり着いた時、無線からブライアン・ニールセンの声が聞こえてきた。
「"フロッグマン"了解。あと少しだけ待ってくれ」
程なくしてCH-53EとAH-64Dのローター音が聞こえてきた。ロスたちは周囲の安全を確認した後、発煙筒を炊き、合図をした。スーパースタリオンが着陸のために下りてくると、凄まじいダウンウォッシュで細い木がなぎ倒され、木の葉や枝が舞い上がった。
「急げ!敵はいつまでも待ってくれないぞ!」
スーパースタリオンのキャビンのドアが開き、ストークリー・ガードナーが急げと合図した。ロスら3人は素早くヘリに乗り込む。すぐ頭上では、アパッチがゆっくりと360度回りながら、敵襲を警戒している。ジェットの爆音が響き渡り、2機のAV-8BハリアーⅡが飛び去っていった。どうやら、自分たちの脱出を支援してくれているらしい。
「全員乗ったわね?帰るわよ」
キャシー・ゲイツが後ろを見て、3人が乗ったことを確認した。ガードナーが親指を立てると、CH-53Eはゆっくりと上昇し始めた。ブライアン・ニールセンは操縦桿を慎重に動かしつつ、ミサイル警報画面と窓の外の両方を警戒している。2機のヘリは"パッケージ"を回収すると、アルバニア方面へ飛び去っていった。
「"ハウンド1"へ、こちら"パイソン2"。支援に感謝する。しかし、基地まで引き続き援護を願いたい」
『"ハウンド1"了解。任せてくれ』




