フレイムボール作戦-5
2月19日 1215時 コソボ・アルバニア国境付近上空
「司令官、ヴェルナー隊がやられました。生存しているのは3機。基地へ引き返しています」
原田はレーダー画面で味方のアイコンが消えたのを見た。先程、自分たちのリーパーの反応が消えた所の近くだ。
「敵機の反応はあの空域には・・・・無いですね。地対空ミサイルにやられたのかしら。もしかしたら、Su-57かJ-31、J-20がいるかもしれませんが・・・・・」
リー・ミンが自分の仮説を言おうとした時だった。
『こちら"ヴェルナー4"、敵のSAMにやられた。引き返す』
「こちら"ゴッドアイ"。"ヴェルナー4"、護衛が必用ですか?」
『ああ・・・頼む。エンジンは大丈夫だが、機体の一部が損傷した。敵に出会ったら、生きて帰れそうにない』
「わかりました。少し待ってください」
リー・ミンは、レーダーで付近をスキャンした。手の空いていそうな味方機を探す。
「レッドウィーゼル隊、こちら"ゴッドアイ"。そちらから東へ90km行ったところで味方機が援護を必用としています。お願いできますか?」
『了解だ"ゴッドアイ"。10分で合流する』
ボンダレンコは、搭載しているミサイルの中からR-27ET1を選んだ。これは中射程ながら赤外線誘導のため、接近するまで敵機に気づかれる危険性が少ない。
「"サバー"より"ウォーバード7"へ。赤外線の中射程で攻撃する。敵が回避行動を取ったら、君が攻撃してくれ」
『"ウォーバード7"了解。援護する』
「ミシュカ、あとちょっとだ。IRSTにバッチリ映っている・・・・・・」
やがて、ミサイルのシーカーが敵機のエンジンの排気熱を捕らえた時の、ジジジジジ、という連続した電子音が聞こえてきた。
「シーカーロックオン・・・・・発射!」
Su-30SMの翼下ランチャーからR-27ET1が発射された。フランカーとタイフーンは、そのまま敵機の方向へ飛び続けた。
2月19日 1216時 コソボ・アルバニア国境付近上空
EA-6Bの編隊が敵のレーダーサイトへ接近した。ECMOたちが妨害電波を飛ばし、防空レーダーの目眩ましを始めた。これで、コソボを占領しているセルビア側の防空レーダーの画面は砂嵐になっているはずだ。
2月19日 1218時 コソボ セルビア軍のレーダーサイト
ここのレーダーサイトは、コソボがドイツやフランスの協力を得て建設した防空レーダー施設であるが、今はセルビア軍や傭兵部隊が占領している。突然、レーダーの警戒画面が乱れ、砂嵐が映り始めた。
「クソッ!妨害電波だ!」
「ECCM!急いで回復させろ!」
「気をつけろ!対レーダーミサイルが飛んで来るかもしれない!レーダーを切れ!」
2月19日 1219時 コソボ・アルバニア国境付近上空
「クソッ!奴ら、レーダーを切りやがった!」
EA-6BのECMOの一人が苛立たしげに言った。
「仕方が無い。レーダーの位置は記録したか?」
「ああ。だいたいだが、位置は掴めた」
「だが、どうする?対レーダーミサイルは使えないぞ。またどうせ、奴らはレーダーを使ってもすぐに切るだろ」
「さっきのレーダー波のベクトルのデータは残っているんだろ?」
「ああ。どうする気だ?」
「俺に考えがある。データリンクで、今から言う部隊に送信してくれ・・・・・」
2月19日 1220時 アルバニア・コソボ国境付近の前方展開基地
攻撃ヘリの部隊は兵装の搭載と燃料の補給を既に終えて、次の出撃の準備に備えていた。1機が撃ち落とされ、2名のパイロットが犠牲になったが、パイロットたちの士気に影響はそれほど出なかった。5つのグループでのローテーションで作戦を回している。
デイヴィッド・ベングリオンは次の攻撃隊のグループが離陸したのを見送った。自分たちは、戦闘機パイロットが墜落した時に備えている。どうやら、戦車部隊か何かに地上部隊の進撃が阻まれているようだ。セルビア側の抵抗は激しく、何が何でもペーヤを守りきろうとしている様子だ。
2月19日 1224時 アドリア海
アメリカ空軍のE-8CとNATO所属のE-3Cが、セルビア領空の外を掠めるように飛行していた。護衛として、F-35Aやラファールが周りを固めている。今のところ、セルビア軍はNATOの航空機に手を出す気配は無い。今回のNATOの交戦規定では、向こう側が火器管制レーダーを照射してこない限りは、セルビア軍機もアルバニア軍機も、傭兵部隊に対しても攻撃することを禁止している。NATOは偵察や情報収集に力を入れ、加盟国のスロベニアに対して攻撃が行われる様子が無いかどうか空中哨戒を行っている。
「傭兵部隊とアルバニアがコソボにいるセルビア軍に空爆を始めたようです」
E-3Cのクルーが指揮官に言った。NATOはこのAWACSを13機導入しており、ルクセンブルクに置いて、複数の加盟国の空軍からなるクルーによって運用している。コソボとアルバニアは今でもNATOによる介入を求め続けているが、NATOは静観を決め込んでいた。ドイツとポーランド、イタリア、スロベニアは積極的な介入を提案したが、他の加盟国の反対によっていずれも白紙撤回されている。一応、セルビアがスロベニアやギリシャ、イタリアといった加盟国、または監視任務部隊を攻撃した場合に限り、武力行使を認める、という決議をしたに留まった。
一方で、NATOとして気がかりなのはロシアの動きであった。ロシアとセルビアは相互防衛条約は結んでいないものの、友好国であり、ロシアはコソボとアルバニアが傭兵部隊を雇ってセルビアに対して反撃を開始したことに不快感を示していた。
「さて・・・・あまり近づきすぎないように注意しよう。戦闘機に乗っている連中にも、くれぐれも不用意に攻撃しないように注意しておかないとな」




