フレイムボール作戦-4
2月19日 1211時 コソボ国内
「"ウォーバード7"より"サバー"、標的を確認した」
『こちら"サバー"、こっちも確認。もう少し接近してからにしよう』
ミーティアとの射程はR-77よりも50km近く長いため、先にシュナイダーのタイフーンが攻撃をすると、敵に気づかれてしまう。そこで、R-77の射程に入るまで、シュナイダーはまだ標的をロックオンせず、E-737からのデータリンクだけで敵を追っていた。タイフーンとSu-30は編隊を組み、巡航速度よりも少し速い程度の速度で飛んでいる。直前まで敵に気づかれたくない。
「データリンクオンライン。要撃コースをアップデートします」
E-737のコンソール画面を、原田景がタッチペンで叩いた。"WB7"と"SB"と表示されたアイコンと"TGT"と表示されたアイコンを赤い線が結ぶ。
「直前までレーダーを使わず、奇襲する気か。賢いな」
スタンリーがレーダー画面を見ながら言う。シュナイダーとケレンコフの誘導は原田に任せ、自分は他の敵が向かってきていないかどうかを確認した。特に、ロシア製のKS-172は、AWACSやAEWにとっては大きな脅威だ。射程400kmから500kmに達するとされるこのミサイルは、パッシブホーミングとアクティブホーミングのデュアルシーカーでAEWやAWACSを破壊し、敵の司令機能を破壊する目的で使われている(自分たちも使ってはいるが)。そのミサイルに対抗するためのジャミング装置や曳航式デコイが、このE-737には追加されているものの、それがどこまで効果が期待できるのかは未知数だ。
スタンリーはレーダー警報装置とミサイル警報装置の操作画面を開き、全てオンになっていることを確かめ、チャフ・フレアディスペンサーにも異常が無いことを確認した。
タイフーンとSu-30は周囲の敵に注意しつつ、やや遠回り気味に敵の背後へと回り込み始めた。その後ろから、ミラージュも付いてくる。3機の戦闘機は、敵に気づかれること無く、ミサイルの射的距離に入りつつあった。
2月19日 同時刻 コソボ国内
低空飛行をしていたA-10Cの編隊が、少しづつ上昇を始めた。もうすぐターゲットが射程内に入る。しかし、低く飛んでいると、今度は敵を捉えにくくなるため、少し上から敵を狙う必要があった。
2月19日 1213時 アルバニア ティラナ・リナ空港
MQ-9リーパーが敵の地対空ミサイル・サイトを確認した。アルバニア国内から操縦していた高橋正が発見したミサイルサイトの位置を戦術マップのメモリーに記憶させた。しかし、その直後、画面が真っ暗になり、操縦が一切反応しなくなった。
「クソッ、やられた」
隣で操縦していたスペンサー・マグワイヤが苛立たしげに唸った。リーパーは小型とは言え、レーダーにはF-16程度の大きさには映る。発見されて、地対空ミサイルか何かに撃たれたに違いない。
「だが、位置データと画像データは保存できた。ここをいつ破壊するのかは、コソボの司令部が決めるだろ」と高橋。
「敵さんが、そこから動かさなければの話だろ。おまけに、撃ち落とされたってことは、俺らが覗き見していたのを、敵に知られたことになる」
「ああ。取り敢えず、ボスに知らせないとな・・・・・・」
2月19日 同時刻 コソボ国内
A-10Cが一斉にAGM-65Cマーヴェリック・ミサイルを発射した。全部で16発。それぞれのミサイルは、T-90やT-80を破壊し、乗員もろとも火葬にした。しかし、一緒に行動していたZSU-23-4や07式自走対空機関砲、2K22ツングースカの機関砲が一斉に曳光弾の花火を打ち上げ始めた。A-10Cはフレアをばら撒きながら上昇して、一旦離脱した。そのうちの1機の左エンジンに数発の機関砲弾が命中したが、A-10は何事も無かったかのように飛び続けた。
その後ろから、Su-25の編隊が敵に攻撃の第2波を仕掛けに行った。A-10が進入してきた方向からは115度ほど南の位置からではあったが、敵は既に次の攻撃に備えており、生き残ったツングースカのうち3台が、SA-19"グスリン"地対空ミサイルを放った。
「くそっ、ミサイル、ミサイル!」
Su-25の編隊長は、この時、致命的なミスをした。自分はチャフとフレアを撒きながらそのまま攻撃を仕掛けに行ったが、攻撃に集中してしまい、部下に攻撃コースから外れて回避するのか、それともチャフやフレアをばら撒きながら突っ込んでミサイルとすれ違う方を選ぶのか、指示をするのを失念してしまったのだ。その結果、8機のうち3機がミサイルを避けるために、攻撃コースから外れてしまった。そして、そのまま攻撃を仕掛けた機体は生存したが、回避しようとした攻撃機は全て撃墜されてしまった。
2月19日 1214時 コソボ国内
タイフーンとSu-30SMはAEWからのデータリンクにより、敵機の追跡を始めた。後ろからはミラージュ2000がついてきている。
「ミシュカ、敵を見つけた」
ボンダレンコは、機体下に取り付けたESMポッドが敵が発している電波を拾ったのを確認した。どうやら、索敵レーダーでこちらを探しているようだ。
「まだ攻撃は待てよ。レーダーでロックしたら、向こうが気づくからな」
ケレンコフは敵の動きを、データリンクで受け取った戦術マップで慎重に観察した。




