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内野と外野

 2月15日 0607時 アルバニア ティラナ・リナ空港


 スタンリーを除く"ウォーバーズ"の戦闘機パイロットらとケレンコフは、着陸すると簡単な降機チェックとデブリーフィングを終えると、いそいそと宿舎へと向かっていった。しかし、日付が変わる前から空中哨戒(CAP)を続けていたため、疲労が溜まるのも無理は無かった。傭兵部隊の戦闘機乗りは、戦争が始まってから今日まで数名が死亡または戦闘中行方不明(MIA)となっている。確かに、コソボ政府からの支払いは良い(報酬は、ここに来る前に基本報酬の半分を貰い、残り半分と状況に応じた加給金を帰る時に貰う契約になっている)。更に、コソボは自前の空軍のパイロットの養成も始めた。

 コソボの航空部隊は小規模で、訓練用のMD-500ヘリとセスナ172、An-32輸送機とベル412汎用ヘリ、Ka-25汎用ヘリが少数あるだけだ。が、この紛争を機会に、ウクライナからMi-24Vを導入しようとしているらしい。NATOは未だに動く気配は無く、偵察機を近くまで飛ばしているだけだ。セルビア側は、コソボを支援しているとしてNATOを非難しているものの、現実には、NATOはこの紛争に関わってはいなかった。

 轟音が響き渡り、C-5BやKC-10が次々と着陸した。ダークコンパスゴーストグレーに塗られた機体には、黒い文字で"Arsenal Logistics"と書かれている。地上クルーが大きな飛行機を誘導し、貨物ターミナルに駐機させた。


 ケレンコフとボンダレンコ、佐藤は、仮眠する前に食事を摂ることにした。眠れなくなるという理由で、紅茶とコーヒーは無し。フライトの後で、3人はかなり空腹になったのか、目の前には、山のようなサンドイッチが置かれた皿と、シリアルが縁まで入れられたボウル、ジュースの入ったポリボトルとコップが置かれていた。

「出撃前は腹3分目から4分目、帰ってから満腹にする。それがコツだ」

 ボンダレンコが佐藤に言った。

「ああ。それは、傭兵稼業を始めてから、司令官に教えられたよ。まあ、少なくとも満腹でフライトはするな、とも空自にいた頃に教官から言われていたけどな」

「ふむ。まあ、何はともあれ、君ら日本人が言う"腹が減っては戦はできぬ"は、真理だな」

 ケレンコフがそう言って、シリアルをスプーンで口に運んだ。


 ゴードン・スタンリーは宿舎には向かわずに、自分たちが使っているエプロン地区に残っていた。目の前には3機のC-5Bと2機のKC-10Aが駐機しており、C-5の中からは、梱包された荷物が次々と下ろされていた。

「タイミングが良かったな。これが東南アジアや南米辺りから来ることになっていたら、追加料金を請求していたぞ」

 ハーバード・ボイドがスタンリーに話しかけた。ボイドは、元オーストラリア空軍でC-17Aのパイロットを努めていた。彼は"アーセナル・ロジスティックス"という傭兵部隊の司令官で、契約中の傭兵組織やPMC、または正規軍に物資の輸送や空中給油といった後方支援サービスをしている。

「また頼むよ。これからはどこへ行くんだ?」

「バルカン半島情勢は、だいぶやばくはなっているんだが、驚いたことに、ロシアもNATOも、遠巻きに見ているだけで、指一本触れようとしない。ちょっと前なら、イタリアやギリシャから、戦闘機がどんどん飛んで行って、セルビアを空爆しているはずなのにな。アメリカも普通なら、同盟国のすぐ近くでこれだけ戦争をやっているってだけで空母や爆撃機をぶつけてくるはずなのに、飛んだ腰抜け野郎になってしまった。それ以前に、今の正規軍の奴らは、本当にタマが付いているのか怪しいもんだ」

 経済危機以降の世界的な軍縮は、結果的にはテロリストやならず者国家をのさばらせただけだった。アフリカや中央アジア、中東では武力衝突が頻発し、それを押さえ込む力が無くなった大国や国連は、それを放置し続けた。結果、幾つかの国は無政府状態となり、そこに入り込んだテロ組織や傭兵組織が幅を利かせて、国をそれぞれ地域ごとに、経済的あるいは政治的にそこを支配し始めた。ある国は正規軍よりも強力な武装を持った傭兵部隊やPMCを雇って、隣国を侵攻し、ある国は傭兵を体制に反発する国民を弾圧することに使ったりした。

「だけど、誰かがやらないと、世界は悪人の言いなりになってしまう。確かに、俺たちのやることは、法の支配とか平和的だとかいうことからは程遠いが、放置してこれ以上情勢が悪化するのを防ぐための必要悪だからな」

「ああ。全くその通りだが、腰抜け共は、いつになったら目を覚ますのやら」

「まあ、早いところ、その時が来るのを願おうじゃないか。無駄だとは思うけどな・・・・・・」


 2月15日 0713時 アドリア海


 イタリア海軍空母"カヴール"から2機のF-35Bが発艦した。兵装は、ウェポンベイに搭載した4発のAIM-120Cだけだ。イタリア海軍は、この空母とフリゲートのカルロ・ベルガミー二をアドリア海で航海させ、傭兵部隊などが領空・領海に侵入してこないよう監視しているが、それ以上のことをしようとはしていない。また、ギリシャ海軍のフリゲート"サラミス"とアメリカ海軍の駆逐艦"サンプソン"、スペイン海軍駆逐艦"アルバロ・デ・バサン"もいるが、主な任務は警戒監視活動だ。NATOは、バルカン情勢に関しては、一応は、警戒監視任務をしているが、その目的は加盟国への飛び火を防ぐことで、コソボやアルバニアに対する軍事援助をするものでは無かった。亡命コソボ政府とアルバニア政府は、引き続き、NATOに対して軍事援助を再三に渡って要請しているが、加盟国の政府は指一本動かそうともしなかった。

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