更なるターゲット-2
2月13日 アルバニア ティラナ・リナ空港 1756時
空はすっかり藍色に染まり、日はティラナ川の水平線に僅かに顔を出す程度に見えるだけだった。強い西日に照らされる中、エプロンでは地上クルーたちが慌ただしく動き回り、戦闘機にミサイルや爆弾を搭載し、燃料を入れていた。傭兵部隊は、こことヴロラ国際空港に分かれて駐屯しており、あわせるとかなりの大規模な部隊になっていた。
エプロンに並べられたB-1BのウェポンベイへAGM-154が装填されていった。B-1Bはこのスタンドオフ兵器を12発搭載することができる。JSOWを搭載する爆撃機は1機で、作戦に参加するもう1機はMk84普通爆弾を搭載する。爆撃機は虎の子なので、とりわけ厳重な警備に守られ、他の飛行隊に比べて、機体を守る兵士の数も多い。アルバニアとコソボにとって、貧弱な航空戦力を補う傭兵部隊は重要な存在であり、そのため、傭兵部隊の航空機を守る警備兵の数は異様に多かった。
「恐ろしく警備が厳重になったな。見てみろよ」
パトリック・コガワが一緒に歩いて、機体の様子をチェックしている佐藤勇に話しかけた。空港の敷地のそこら中にPAC-2、S-300、ゲパルト、ZSU-23-4といった対空兵器が並び、更に、ゲートの近くにはT-80UMオプロート、M-95グデマン、PT-91トファルディといった主力戦車、ピサロやマルダーといった歩兵戦闘車が警備のために配置されている。
「弾道ミサイル以外からは、ほぼ防護できるな。まあ、セルビア国内に弾道ミサイルが持ち込まれた様子は無さそうだが」
「だが、スカッドならば移動式だし、いつ、持ち込まれてもおかしくは無い。そういうのを見つけたら、早めに排除しないと・・・・・」
「ああ。北朝鮮や中国、イランなんぞ、相手が誰だろうと、平気でミサイルを売りつけるからな」
かつて、"ウォーバーズ"は韓国とアメリカ(と、裏ルートを通じて日本)からの依頼で、北朝鮮と兵器の裏取引をしている組織を潰したことがあった。その組織は、貨物船を使ってノドンやムスダンを密かに中東のパレスチナのやレバノンのテロ組織に手渡そうとしていたのだ。"ウォーバーズ"は、アメリカ、韓国の海空軍と秘密作戦を実行。北朝鮮のミサイルを積んだ貨物船や、護衛していた潜水艦、フリゲートを日本海の奥底に沈めたのだ。この時の活躍により、"ウォーバーズ"はアンダーセン基地と在日・在韓米軍基地を一時的に拠点として活動することができた。アメリカとイギリスが、軍事予算の削減から、ディエゴガルシア島の放棄を決める、半年ほど前のことであった。
2月13日 アルバニア ティラナ・リナ空港 1846時
トーネードECRとEA-6Bが轟音を立てて飛び上がった。そのすぐ後で、護衛のMiG-29も離陸する。その他、戦闘機や爆撃機、攻撃機なども離陸し、最後にE-737が飛び上がった。
「"ゴッドアイ"より攻撃部隊全機へ。ターゲットへの攻撃は、敵のレーダーや対空兵器を排除してからだ」
スタンリーは上空に上がったパイロットたちに指示を出した。近くでは、リー・ミンがキーボードを叩き続け、データリンクを立ち上げた。すぐに"ウォーバーズ"の戦闘機とケレンコフたちのSu-30が画面上に表示される。
「敵の防空網のデータを、無人機で偵察した情報を元に入力します」
原田がキーボードを操作すると、画面上に表示されたセルビアとコソボの地図上に赤い円がいくつか表示された。それは、RQ-2パイオニアやフジ・インバックB-5といった無人機で偵察して把握していた箇所だ。傭兵部隊とアルバニア軍は、それらの無人機に小型の電子偵察ポッドを搭載し、敵の防空レーダーの周波数やベクトルを探知していたのだ。そのおかげで、敵の防空網の制圧作戦をする目処が立った。
2月13日 アルバニア・コソボ国境近く 1910時
EA-6BのECMOが敵のレーダーの電波が発せられているのに気づいた。レーダー警報装置が断続的に警告音を立て始める。
「ミュージックスタート」
ECMOがコンソールのパネルを操作し、妨害電波を飛ばし始めた。ECCMで回復されないよう、それぞれの機体で違う周波数に妨害電波をしかける。別のプラウラーのECMOは、レーダーの電波の発生源を特定していた。
「ターゲット確認・・・・攻撃開始」
EA-6BがAGM-88Eを発射した。このミサイルはHARMの改良型で、AARGMと呼ばれている。従来のHARMは、レーダーの電波を命中するまで捉え続けなければならなかったが、AARGMならば、レーダーの発信源を記憶するため、例え敵が対レーダーミサイルに気づいて電波を切ったとしても、しっかりと命中する。しかも、マッハ2.9という高速で飛ぶため、発射に気づかれてから迎撃までの時間が極めて短い。やがて、プラウラーのクルーは敵のレーダー派の発信が途絶えたのを確認した。
2月13日 アルバニア上空 1913時
「敵防空レーダーの停止を確認・・・・・・計画通り、このエリアから早期警戒レーダーを排除しました」
原田がE-737のESM画面を見て言った。この機体は、ESMによって敵の電波情報の収集もすることができる。それを応用して、"ゴッドアイ"は敵の防空レーダーが機能しているかどうかを確認していた。
「"ゴッドアイ"より、各機へ。敵機に注意しつつ、攻撃を開始せよ」
スタンリーが部隊に命令を出した。
まずは、エジプトから来た傭兵部隊のF-16が攻撃を開始した。第一撃を担ったのは、ノルウェー製のJSMというミサイルだ。この兵器は、洋上攻撃と地上攻撃両用で、ステルス性もあるため、敵のレーダーに見つかりにくい。また、それほど大きなミサイルでは無いため、F-35Aの兵器倉の中に収める事もできる。そのため、場合によっては、『ステルス戦闘機から発射されるステルスミサイル』という、悪魔のような兵器と化すのだ。発射プラットホームが非ステルス機であっても、ミサイルを発射したかどうかを判断するのが難しくなる、敵に回したら非常に厄介な存在であった。




