フェリザイ奪還-11
2月5日 1109時 フェリザイ市上空
地上部隊は侵攻し続け、市内中心部へと進んでいった。しかし、セルビア軍の抵抗も激しく、双方に大きな犠牲が出た。燃料と爆装の関係から、上空援護はローテーションで回すしか無かったが、幸いにも、大きな穴が空くような事態は避けることができた。
セルビアの基地から飛び立ったJ-10やJ-11B、JF-17がフェリザイ市へと向かっている。地上部隊から、コソボ・アルバニア・傭兵連合部隊の戦闘機が帰投しているという情報を得たため、制空権を奪還しようと出撃したようだ。
2月5日 1113時 アルバニア上空
スタンリーはE-737のレーダー・モニターを確認した。幾つかの高速の小目標が新たに表示されている。スタンリーは、これを戦闘機だと断定し、戦闘機を差し向けることにした。
「"ゴッドアイ"より"ウォーバード1"へ。新たに敵機を確認。注意せよ」
スタンリーはコンソールのキーボードを叩き、タッチペンでモニターに数回触れた。赤い戦闘機のアイコンに黄色の四角形が重なる。
『了解です、ボス。排除します』
佐藤はF-15CのMFDに表示されたデータを確認した。11時方向から4機の戦闘機が近づいてきている。マスターアーム・スイッチをオンにして、AIM-120Cを選んだ。
『先に俺がやる。ユウは残ったやつを片付けてくれ』
無線からコルチャックの声が聞こえてきた。射程内に入るには、まだ時間がある。が、タイフーンが搭載しているミーティアの射程圏には入っているのか、シュナイダーが『レーダーロック』と報告してきた。
佐藤は、一瞬だけためらったが、ここで撃たせなければ敵に逃げ延びるチャンスを明け渡してしまうと考え「撃て」と命令した。
タイフーンの胴体横ランチャーからミーティアが1発、投下された。JAS-39Cも同じミサイルを発射する。ミサイルはほんの少しだけ空中を落下した後、すぐにロケットモーターに点火し、標的目掛けて飛び去っていった。ミーティアはAMRAAMよりも新しいミサイルなので、ジャマーやチャフ、デコイに騙されにくい。その直後、カジンスキーとコルチャック、ケレンコフの戦闘機がR-77PDを1発ずつ発射した。このミサイルは、従来のR-77に比べて射程が約2倍になっている。敵はこれでこちらに気づいた。さて、どうするか。
セルビア空軍のMiG-29のパイロットたちはミサイルアラートが鳴った瞬間、飛行隊長の一声で即座に回避行動に入った。ジャマーを作動させ、散らばるようにして旋回を始める。ミサイルまでの距離がまだ遠いため、チャフを撃つのはまだ尚早だ。
佐藤はミサイルの発射準備を終えていたが、まだ味方のミサイルが敵に到達していないので、撃つには早いと判断した。発射した後で、これらのミサイルが敵に命中すれば無駄撃ちに終わってしまう。
『命中まであと10秒』
カジンスキーが報告した。今のところ、不具合を起こして明後日の方向に飛んでいったミサイルは無い。全て順調に敵機を追尾している。
MiG-29が1機、爆発した。続いてもう1機の左翼のすぐ近くでミーティアが破裂し、金属の破片で戦闘機をパイロットともども、ズタズタに切り裂く。そこから40km離れた所にいたJ-10Bの編隊の隊長機にはR-77が命中し、炸裂する。J-10Bの副隊長は慌ててPL-12空対空ミサイルを発射した。
2月5日 1118時 フェリザイ市近郊
傭兵部隊が慌ただしく対空陣地を築いていった。トレーラーからPAC-2ミサイルのランチャーが切り離されると、兵士たちは素早く電源をレーダーや通信アンテナに繋ぎ、すぐに射撃できるようにしていく。他にも、トラックに載せられたNASAMSのランチャーが空を向き、S-300のランチャーが立ち上がり始めた。たとえ奪還できたとしても、敵が焦土作戦として、地対地ミサイルやスタンドオフ兵器を使った攻撃をしかけて来ないとも限らない。幹線道路沿いには、歩兵戦闘車や戦車がソ連式バックフロント陣地を築き、敵の攻撃に備えていた。
2月5日 1120時 アルバニア上空
佐藤は敵機の動きをレーダーで見ていた。残った敵機は2機。ミサイルがこちらに飛んできている様子があるが、アラートは鳴っていないので、ロックオンせずに慌てて発射したようだが、最近のミサイルにはROAL機能があるので油断は禁物だ。念のため、レーダー警戒ディスプレイに注意を向けながら、ジャマーを作動させておく。他の味方機もミサイルに気づいているのか、僚機と距離を取り始めた。すると、その2機はいきなり方向転換し、セルビアの方へと引き返していった。レーダーモードを長距離に切り替えて、遠距離まで探知範囲を広げてみると、近くにいるセルビア空軍機が次々とセルビア国内へと向かっていくのが見える。
「こちら"ウォーバード1"、セルビア軍が引き返している」
『こちら"サバー"、こちらでも確認した』
『奴ら、引き返していくぞ。諦めたのか?』
ワン・シュウランも困惑気味だ。
「一体、どうしたんだ?」
『こちら"ゴッドアイ"。敵機の撤退を確認。しかし再度攻撃の可能性もあるため、引き続き、監視任務を続行せよ。以上』




