フェリザイ奪還-9
2月5日 0913時 コソボ国内
T-80UMやM-95、ルクレールなど多種多彩な戦車が122番高速道を驀進した。ここまで来れば、目標のフェリザイまであと少しだ。ここから東に14km程行った所に、NATOとコソボ治安軍が共用していたキャンプ・ボンドスティールがあり、そこを占領するための分遣隊が、そこへ向かって進軍し始めた。戦車部隊の車長の一人がハッチから顔を出して、あたりの様子を窺った。
「"バジャー11"からバジャー隊各車両へ。目標まで4km。交戦準備」
『"バジャー12"、交戦準備完了』
『"バジャー13"索敵中』
やがて、先行していた偵察隊から連絡が入った。
『こちら"ドロイド"。そちらの前方8kmに敵の防御陣地を発見。複数の戦車と装甲車を確認。警戒せよ』
「了解。注意する」
S-3Bが地上で紫色の煙が立ち昇るのを確認した。撃墜された味方のパイロットは、救難隊の姿を確認した場合、紫の発煙筒で知らせることになっていた。
「こちら"ジョーズ01"、要救助者を発見。座標を確認・・・・・データリンクで送る」
ロイ・クーンツはコックピットの窓越しに目標の位置をよく見ようとした。少し機体を傾けて左旋回しながら飛ぶと、発煙筒を持ったパイロットがF-16の上で手を振っているのが見える。ボロボロになったF-16の尾翼のマーキングと、救難信号のパターンから、味方のものであると確認できた。
「座標確認。そっちへ行く」
ロバート・ブリッグズはオスプレイを固定翼機モードからVTOLモードに切り替えた。既に目標となる煙は見えている。しかし、この時が最も敵から狙われやすい状況だ。敵の戦闘機やヘリの姿は今のところは無いようだが、それ以上に厄介なのは、歩兵が持つ携行式地対空ミサイルだ。
「IRジャマーオン。フレア残量確認」
イアン・コナリーはミサイル警戒装置のモニターから目を離さないよう気をつけた。キャビンでは、トーマス・ボーンとバック・コーエンが降下準備を整えつつ、HK-416Dの状態を確認している。ジェームズ・ルークは救急箱を用意して、すぐに要救助者を手当できるようにしていた。すぐ横ではアパッチが低空を飛び回り、敵兵が現れたらすぐに細切れにできるように警戒していた。
2月5日 0921時 コソボ国内
対地ミサイルや爆弾を使い果たしたり、燃料が少なくなった戦闘機がアルバニアへと引き返し始めた。作戦スケジュールは、対地支援機やCAPに隙ができないように、時間差で航空機を送り込むように組み立てていたため、作戦空域に戦闘機がいなくなるという事態を避けることができた。
「ウォーバード・リーダーよりウォーバード各機、"サバー"へ。燃料の状況を知らせろ」
『こちら"ウォーバード5"、そろそろ厳しくなってきた』
『"ウォーバード2"、右に同じ』
『"ウォーバード8"、あと15分程でビンゴ』
イーグルやフランカーといった大型機は余裕がある一方で、グリペンやF-16などの小型機は搭載燃料の少なさから、帰投の時間が刻々と近づいてきていた。
『"ゴッドアイ"より"ウォーバード"各機へ。補給のために一旦帰投せよ。"サバー"、君らもだ』
スタンリーが指示を出した。
「"ウォーバード1"了解。帰投する」
『"サバー"、帰投する』
スタンリーはレーダーモニターを見ながら、次の手を考えていた。画面上では、アルバニアからやって来る味方機と、コソボから戻る味方機の両方が映っている。
「我々の戦闘機の穴埋めはこの部隊か?」
スタンリーがリー・ミンに訊いた。
「ええ。南アフリカを拠点にしている"スカイスパイダーズ"です。戦力はKC-130H、HH-60G、F/A-18CとクフィルC7です」
『こちら"スパイダー1"、担当空域はジュリエット・リマでいいんだな?』
「"ゴッドアイ"より"スパイダー1"へ。そこで問題無い。まずは敵機の排除を頼む」
『了解だ"ゴッドアイ"』
「サバイバー確保。これより吊り上げる」
CV-22Bの後部キャビンから降下したバック・コーエンが、地上で待っていたパイロットにハーネスを装着させ、救助する準備を完了させた。パイロットは軽傷のようで、目立った傷も出血も無い。
「了解。吊り上げ開始」
ジェームズ・ルークがキャビンからウインチを操作して、コーエンとサバイバー、機体を繋いでいるワイヤーの巻き上げを始めた。すぐ近くでは、アパッチやハインドが敵兵の乱入を警戒し、更にはCH-53Eでは、ストークリー・ガードナーが後部キャビンに取り付けられたM134ミニガンを地上に向けて威嚇している。他にも要救助者がいるのか、Mi-8やEC-225へと引っ張り上げられる人影を見かけた。
S-3BはIRターレットを出したまま作戦空域を飛び回った。他に撃墜されたパイロットがいるという連絡は無いものの、油断は禁物だ。モーガン・スレーターはモニターを凝視して、敵の地上部隊がいないかどうか警戒した。しかし、この航空機は、そもそもが洋上作戦のために設計されているため、地上での監視・警戒作戦を行うには、限界があった。
2月5日 0948時 アルバニア ティラナ・リナ空港
燃料と兵装を消費した航空機が次々と着陸した。誘導員たちが、それぞれの部隊に割り当てられた区画へ航空機を誘導し、整備兵が機体の点検の準備にかかった。




