フェリザイ奪還-8
2月5日 0858時 フェリザイ郊外
AH-64DとMi-24、CV-22B、CH-53E、UH-60Mが編隊を組んで飛行していた。この近くに、撃墜された味方傭兵部隊のパイロットが数名、不時着したようだ。既にビーコン信号は拾っており、それが少しずつ動いているのがわかった。
「よーく地上の様子を見るのよ。何一つ見逃しちゃだめよ」
キャシー・ゲイツはコックピットからストークリー・ガードナーやトーマス・ボーンに話しかけた。例えビーコンやGPSがあったとしても、パイロットがそれを逃げている途中で落とした可能性もある。それに、無線での交信も敵に拾われる危険性があるため、直前までは最小限に抑える。朝日はすっかり昇り、天候も悪くは無いため、ヘリを飛ばすには問題は無い。問題になり得るのは、敵の戦闘機や対空砲、歩兵、ヘリだけだ。
『今のところ、地上に脅威は確認できていない。しかし、どこにSAMを持った敵兵が隠れているかわからないから注意しろ』
デイヴィッド・ベングリオンが無線で話しかける。攻撃ヘリ2機が地上の敵を排除し、汎用ヘリとオスプレイで味方を救出するという計画だ。
「了解だ。今のところ、ビーコン信号は拾えていないが、どこかにいるはずだ。生きていればの話だが・・・・・」
『"アナコンダ"へ、こちら"アナグマ"。あまり高く飛びすぎるなよ。SAMの的になる』
「了解だ」
ベングリオンは味方のハインドの方を見た。機首のセンサーは、オリジナルのロシア製のものが、無骨な形をしたイスラエル製のものに換装されていて、そこだけに注目したら、まるで別のヘリに見える。ヘリは狙い撃ちを避けるため、一定間隔で低空を飛んでいる。そうすれば、敵の対空レーダーに見つかる可能性は低くなり、SAMの最小射程圏の外にいることもできるが、人間の目から見つかりやすくなるのが難点になる。先導する攻撃ヘリは、巨大なスズメバチのように、林にいる小鳥やリスといった小動物を威嚇しながら、撃墜された味方の手がかりを探した。
ジョゼフ・ローリンズは墜落した自分のF-16CGに、C-4プラスチック爆薬を丹念に仕掛けていた。エンジン後部以外はほぼ無傷のため、敵に鹵獲され、修理されてまた使われる危険性が高い。アメリカ空軍にいた頃はイラクやアフガニスタンで戦い、タリバン兵などに対して空爆をしていた。が、その後、世界的な軍縮の煽りを受け、リストラされてしまったのだ。それは、このF-16にも言えることで、アメリカとその同盟国の主力機であったこの戦闘機は、後輩のF-35の配備が進むと、あっという間に空軍から退役し、姿を消していった。だが、ローリンズはそのうちの1機を手に入れ、傭兵稼業を始めた。戦闘機や兵装を手に入れるのは、驚くほど簡単だった。金とスマートフォン、クレジットカードさえあれば、数回タップするだけで買えてしまう。そして、彼は、この戦闘機を使って、主に資本主義経済圏の小国の防空を請け負う傭兵稼業を始めた。数年間、この機と戦ってきたが、これでオシマイだろう。だが、彼には戦闘機を操縦する以外の技術や技能は持っていなかった。
2月5日 0907時 アルバニア上空
AEWを失ったものの、依然として敵機は上空に留まり、制空権を守ろうとしていた。最上位の指揮系統を失いつつも、各飛行隊の隊長が個別に判断し、交戦と続けているようだ。実際、コソボが雇った傭兵のF-16とクフィルが立て続けに撃墜されている。
『前方に敵機が2機、距離68、マッハ1.7』
佐藤は無線からリー・ミンが警告する声を聞いた。レーダーを遠距離交戦モードに切り替え、AIM-120Cを撃つ準備をする。
「データリンク」
『データアップロード。あと5秒・・・・・・』
F-15Cに追加されたMFDに更新されたデータが表示される。佐藤の愛機のF-15Cのコックピットのレーダースコープとレーダー警戒情報表示モニターは、F/A-18EやF-2Aのような2つの多機能ディスプレイに換装されている。
「目標確認」
『1機は俺がやる。任せてくれ』
僚機の位置に付いていたワン・シュウランの声が無線から聞こえた。
「了解だ。ミサイル発射準備完了、あと15秒・・・・・・」
F-15Cの胴体横ランチャーからAMRAAMが切り離された。ミサイルは一瞬だけ落下した後、モーターに点火して前方に飛んでいった。続いて、ミラージュ2000CからもTC-2ミサイルが撃ち出される。
「"ウォーバード1"、Fox1」
「"ウォーバード9"、Fox1」
2月5日 0917時 アルバニア領内
4機のラビが低空飛行して、CBU-97をセルビア陸軍の車列に投下して飛び去っていった。この戦闘機は、イスラエルは製造・開発を中止したが、設計図は複数の戦闘機メーカーの手に渡ったため、傭兵向けに生産されていた。F-16と比べて価格面と最大離陸重量、性能面では大差ないが、作戦行動半径の広さと航続距離の面で優位に立っていることから、特に西側諸国に味方をしている傭兵部隊から高い需要がある。
「こちら"ブルーファイア1"、目標破壊完了」
『"ゴッドアイ"より"ブルーファイア"へ。残燃料はありますか?』
「まだ十分にあるよ、お嬢さん。CAPが必用か?」
『味方機が撃墜され、SAR作戦中です。余裕があれば、敵戦闘機の排除をお願いします』
「了解した。お前ら聞いたな?行くぞ」
地上部隊がセルビア陸軍の機甲部隊への砲撃を開始した。レオパルト2A4の120mm砲が唸り、M2ブラッドレーからはTOW対戦車ミサイルが発射される。セルビア軍の方も、T-72やT-62で応戦し、M113やストライカーといった装甲の薄い車両に大きな損害が出た。敵を押し返し始めたが、まだまだ連中は粘っており、ここからすぐに出ていく気は無さそうだ。




