フェリザイ奪還-7
2月5日 0853時 アルバニア上空
「全機、ミサイルを発射。着弾まで13秒・・・・・5、4、3、2、1、ターゲットが消えました。ECM回復。目標達成です!」
モニターを見ていたリー・ミンがスタンリーを振り返った。
「よし、まずは奴らに確認させろ。万が一撃ち漏らしていたら元も子もないからな。ターゲットがいた空域を捜索させろ」
ハイタッチを交わした原田とリー・ミンとは対照的に、スタンリーはニコリともせず、淡々と指示を送るだけだった。
「レーダーに反応は無いな・・・・・IRSTはどうだ?」
ニコライ・コルチャックが無線でシュナイダーに訊いた。レーダー・モードを最大レンジにしたが、何も映らない。
『反応無し。ちょっと待て、赤外線に微かに反応があるが、高度まではわからない』
「護衛機はどうだ?」
『ううむ・・・・待て、反応1、IFF応答無し。だが、遠ざかっていく。速度・・・・マッハ1.3』
「護衛機、だとしたら、ボスを撃ち落とされて逃げ出したか」
「多分な。だが、油断するな。このまま上空警戒を続けよう」
2月5日 0857時 アルバニア・コソボ国境付近
CV-22BとCH-53E、AH-64Dが梢を擦るような低さで飛行している。彼らが行動を開始したのは、丁度15分前だった。味方の傭兵部隊の戦闘機乗りが撃墜され、味方の支配地域と敵の支配地域の丁度境界のあたりに不時着したらしい。それも、1人ではなく、複数いるようだった。
「"アナコンダ"より"ジョーズ"へ。様子はどうだ?」
シモン・ツァハレムが、もう少し高いとこをを飛んでいるはずの味方へ無線で訊いた。彼らが乗っている飛行機は、普通は洋上作戦機ではあるが、今回は捜索救難任務に駆り出された。
「こちら"ジョーズ01"、反応無し。ところで、この空域の制空権は確保できているんだろうな」
ロイ・クーンツは不安そうに無線に話しかけた。彼らが出発したのは、15分程前のことだった。アルバニアが雇った傭兵パイロットが数名撃墜され、ビーコン信号と無線での交信から生存が確認されたため、救出作戦を行うことになった。そこで、"ウォーバーズ"のヘリ部隊と、近接航空支援のためにS-3Bヴァイキングが駆り出されることになった。S-3Bの翼の下のパイロンには、増槽とAGM-65マーヴェリック空対地ミサイルが搭載されている。コックピット下からはFLIRが出ており、地上の様子を監視していた。
2月5日 0853時 アルバニア上空
KJ-2000のレーダー画面が、ようやくチャフの影響からの妨害から回復し始めた。が、今度はミサイル警報装置が機内で鳴り響いた。
『警告!警告!ミサイル接近!ミサイル接近!警告!警告!・・・・・』
「ミサイルだ!ECM作動!フレア!」
「右へ旋回!」
パイロットは操縦輪を倒し、機体を旋回させ始めた。が、輸送機をベースとしている上に、巨大なレーダーを背負っているこの機体を、ミサイルから逃がすのは至難の業である。
「着弾まで10秒!」
「くそっ!くそっ!」
レーダー操作員たちは、凄まじい数のミサイルが自分たちに向かってくるのをレーダー画面で見ていた。あと逃げることができなければ、自分たちはあと数秒の命だ。と、思っていると、機体が大きく揺さぶられた。
「何だ!」
「爆発か!?」
「被弾箇所を確認しろ!」
KJ-2000の尾翼のすぐ隣で、R-77が炸裂した。金属の破片がラダーと垂直尾翼、水平尾翼の一部を吹き飛ばし、機体後部にも幾つか穴が空いた。
『警告!警告!機体損傷!警告・・・・・』
コックピットの多機能ディスプレイに表示された、機体のアイコンの尾翼の部分が赤く点滅していた。どうやら、ミサイルが着弾したらしい。
「くそっ!撤退するぞ!」
のろのろと損傷したAWACSがセルビア方面へと機首を向け始めた。が、その後ろからはAAM-4Bが2発、迫ってきていた。
『警告!警告!ミサイル接近!ミサイル接近!』
また警報装置が喋り始めた。パイロットは苛立たしげにそれを切ると、チャフ・フレア散布モードを自動に切り替えた。
「畜生!妨害装置は!?」
「駄目だ!ちっとも効いている気配が無い!」
ミサイル警戒ディスプレイを見てみると、チャフとフレアがどんどんばら撒かれ、残数がみるみるうちに減っているのがわかった。
「なんてこった。どうする?」
「とにかく、使えるものは何でも・・・・・・・」
AAM-4BがKJ-2000の胴体後ろに1発、右主翼に1発、命中した。尾翼が後部胴体ごともぎ取られ、右主翼の翼端部分が無くなった。
「駄目だ!脱出!脱出!」
クルーたちは慌ててパラシュートを背負い、脱出の準備を始めた。
2月5日 0859時 アルバニア上空
「敵の反応消失。そっちはどうです?ボス」
ニコライ・コルチャックはレーダー画面から標的が消滅したのを確認した。
『敵の反応が消えた。ESMアンテナにもKuバンドレーダーの反応がしなくなった。敵は混乱しているようだ。このまま一気に叩け!』
ゴードン・スタンリーはタッチペンでディスプレイを数回叩き、脅威度が高い敵から優先目標に指定した。今、危険なのは、佐藤たちのすぐ近くで飛んでいる4機の敵機だ。
「こちら"ゴッドアイ"。目標を指定した。データリンク画面で確認してくれ」
『了解です、ボス。近くにウロチョロしている連中がいますね。こいつらをやっつけるとしますか』
無線からオレグ・カジンスキーの声が聞こえてきた。今頃、MFDでこっちが捉えた敵機を確認しているはずだ。
「ミサイルは十分か?」
『まだ6発も残っていますよ。燃料の残りも十分です』
「では、気をつけてな。兵装と燃料の残りに注意しろ。やばくなったら、すぐに引き返せ。いいな?」
『イエッサー』




