表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/101

フェリザイ奪還-5

 2月5日 0834時 コソボ共和国 プリズレン郊外


 "ウォーバーズ"のパイロットたちは索敵レーダーや射撃レーダーを完全に切り、データリンクだけで飛び続けた。半分目隠しされた状態で飛んでいるため、レーダー警戒装置の情報画面にやや集中しながら飛び続ける。MFDにはAEWが捉えた敵機や友軍機の情報が逐一表示されている。だが、ケレンコフたちはそうもいかなかった。


「おい、大丈夫なのか?これは何も見えないも同然だぞ」

 ゲンナジー・ボンダレンコはSu-30SMの後部座席で不安そうに周囲の様子を見回した。レーダー表示は戦場にいるにも関わらず、航法モードになっており、索敵・交戦モードにはなっていない。

「仕方がない。彼らを信じよう。それよりも、後ろに目を配ってくれよ。敵が近づいて来ないようにな」

「わかった」


「データリンク確認。付近に敵機の機影無し。一体、何をどうやって探せと言うんだ?」 

 ケイシー・ロックウェルはF-15Eの後席から相棒に話しかけた。

「さあな。だが、リーが何かに気がついたか、または何かを思いついたのは間違いなさそうだ」

「ほう。だが、ボーっとしている間に、味方はどんどん敵に殺されていくぞ。どうするんだ?」


 2月5日 0840時 コソボ上空


 リー・ミンはデータリンクの状態を確認しつつ、味方機が自分が思い描いた方向へ向かっているのを確認した。時折、メモ帳に何かを書き込んでレーダー画面と見比べ、仲間が向かっている方向を少しずつ修正していく。そんな様子を原田は怪訝そうな目つきで見ていたが、彼女が行き当たりばったりや適当な思いつきで味方機を誘導するようなことはしないとは分かっていたため、何も話しかけずにいた。

 一方、スタンリーの方はと言うと、無線で文句をぶつけてくる部下たちを宥めていた。

「わかったから、信じてくれ。リーが何も考えず、滅茶苦茶な指示を出したことがあったか?そんなの、訓練でも一度も無いだろ?」

『それは、我々ならいいですがね。でも、ケレンコフはどうするんです?我々についてくるのが必死で、視界外戦闘なんてできやしませんよ』

 無線から、ワン・シュウランの棘のある声が聞こえてきた。

「今は我慢してくれ。彼女が何の考えも無しに君らに指示を出したことなんて、一度も無いだろ。頼むから・・・・・・」


「ねえ。このデータから考えられる、敵のAEWかAWACSのベクトルを計算できる?」

 リー・ミンはタッチペンで何度か画面をつつきながら原田に話しかけた。

「AWACS?そんなのを探すの?」

「うん。さっきの敵の攻撃の状況を考えると、大型レーダーでこっちの飛行機を捉えてから、データリンクで戦闘機を誘導して、射つ直前までレーダーを使わせなかったとしか思えないの」

「地上の早期警戒レーダーという線はどう?」

「ありえなくも無いけど、さっきのようなことを地上レーダーでやるとしたら、大型のアクティブ・フェイズドアレイ・レーダーが無いと難しいの。それに、今まで無人機で偵察したところ、そんなのはセルビア国内に無かったし、このあたりを覆域にするとしたら、国境近くに置くしか無いでしょ」

「わかった。やってみる」

 原田はそう言うと、キーボードの上で、両手の指を猛烈な速さで動かし始めた。


 2月5日 0854時 コソボ上空


「敵機発見。方位358、距離283、高度75」

 傭兵部隊のF/A-18Aの編隊がセルビアから侵入してきた敵機と思しき編隊を捉えた。まだ交戦するには距離が遠いが、見過ごす訳にはいかない。先程、味方機が次々と敵に撃ち落とされていたという情報はすでに入っており、彼らは慎重に索敵を続けた。

『了解。交戦するか?』

「ああ。もう少しで射程内に・・・・・」

『ミサイル!5時方向!回避!回避!』

『くそっ!一体、どこから!』

 ミサイル警報装置が何の前触れもなく鳴り出した。パイロットたちは即座に回避行動を取り、チャフやフレアをばら撒き始めた。が、時既に遅く、ミサイルの直撃を受けて墜落した。


 原田はコンソールのキーボードを叩き続けた。E-737のMESAレーダーにはELINT機能があり、更にESMアンテナも左右の翼端に装備されているため、敵の電波情報を拾い、分析することもできる。先程まで戦闘機乗りたちの文句に晒されていたスタンリーも、今はコンソールのモニターを索敵画面にして、敵の様子を窺っている。

「Sバンドのレーダー波を今、探知した。方向を計算する」

 スタンリーはキーボードを叩き、ESMをSバンド帯のレーダー波だけを受信するように設定した。

「ああ・・・・見つけた。方位167、距離143。高度があるから、AEWだな。目標をマーク・・・・・」

 スタンリーがタッチペンでモニター上の目標を突くと、アイコンが赤くなり、四角形に囲まれた。ロックオン。更に司令官はタッチペンを操作して、今の目標の情報を戦闘機へ送った。

「"ゴッドアイ"から"ウォーバード1"へ。目標を確認したか?」

『確認しました。作戦はどうします?』

「データリンクだけで誘導する。奴に気づかれる訳にはいかないから、最後までレーダーは使うな。気づかれないように、こっそりやるんだ」

『了解です。誘導頼みます。以上』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ