フェリザイ奪還-3
2月5日 0758時 コソボ共和国 プリズレン郊外
レオパルト2A5やT-72、M-95、PT-91、BMP-3、ピサロといった傭兵部隊の多種多彩な戦闘車両が驀進していった。この先は、セルビアの防備部隊が控えているはずなので、中隊長は部下たちに戦闘準備をしておくよう伝えた。情報が正しければ、その先に対空陣地があるはずだ。
「こちら"ヤモリ"。この先の対空陣地の防御部隊を無人機からの映像で確認。砲撃が終了次第、前進する」
『HQ了解。砲撃終了と同時に突入せよ。そうしなければ、奇襲の効果がすぐに無くなる』
「"ヤモリ"了解」
コソボとの国境を少し越えたあたりに、M270 MLRSやHIMARS、2S19、PzH2000といった傭兵部隊の砲撃陣地が作られていた。
「味方地上部隊から砲撃要請。座標、42.196012、20.683998」
「了解。座標確認、GPS誘導弾を装填」
M270にランチャー・ユニットが装填された。中身はGPS誘導式クラスター弾M30だ。指定した目標周辺を広く制圧するのに役に立つ。
「装填完了、再度目標確認・・・・射撃準備完了。周囲の人員を退避させろ」
MLRSの後部ランチャーが立ち上がり、左に10度程動いた。周囲にいた傭兵やアルバニア軍の兵士たちが一斉に安全地帯へと走り出す。
「退避完了を確認。周囲の安全を確認、発射10秒前・・・・8、7、6、5、4、3、2、1、発射!」
M270から一斉にロケットが発射された。1両につき12発のロケットが装填されるため、ここにいる30両のランチャーが発射したのは計360発。更に、ロケット1発につき子爆弾が404発装填されているため、敵は凄まじい数の爆弾の雨に晒される事になる。
2月5日 0759時 コソボ共和国 プリズレン
上空を飛んでいたMQ-9が対空陣地を発見し、赤外線カメラで捉えた映像をデータリンクで司令部と地上部隊に送信した。
「見つけたぞ!SA-8とSA-6だ!データを送れ!」
スペンサー・マグワイヤはキーボードを操作してデータを砲兵陣地の司令部のコンピューターに送信した。
「データを送信した。確認したか?」
『確認した。攻撃を開始する・・・・・・』
2月5日 0802時 コソボ共和国 プリズレン郊外
M270に新たなランチャー・コンテナが次々と装填された。このコンテナに入っているのはロケットではなく、MGM-140ATACMSだ。弾頭には275個の子爆弾が搭載されており、M30ロケットやM27ロケットより遠くの敵陣地などを広く制圧することができる。
「データリンクを確認しろ。目標設定・・・・・」
「目標設定、フェリザイ南東の対空陣地。全弾発射した後、攻撃効果を確認。必要とあれば、第2射を準備・・・・・・」
「発射30秒前・・・・・20・・・・・10・・・・5、4、3、2、1、発射!」
M270から一斉に短射程弾道ミサイルが発射された。ミサイルはトラブル無く、全て目標へ向けて飛び出した。MLRSの周囲は、有害物質を含むロケット推進剤が燃えた後の煙に包まれていて、再装填をする兵士たちが近づけるようになるまでは暫く時間がかかる様子だ。
「ミサイル飛翔中・・・・・全弾、順調に目標へ向かっている。着弾予定時刻は6分後・・・・・」
2月5日 0807時 コソボ共和国 フェリザイ郊外
セルビア軍と傭兵部隊の対空陣地には晴天の霹靂となった。対砲レーダーがミサイルを捉えたときには時既に遅く、ミサイルは目標へ向け降下しつつ、弾頭を開き始めていた。セルビア兵たちは退避する間も無く無数の子爆弾の雨に晒された。ミサイルのランチャーや装甲車、トラックに金属片が突き刺さり、兵士が挽肉になる。通信車両が爆発し、攻撃を司令部に知らせることができずに終わった。
機甲部隊が対空陣地めがけて砲撃を開始した。徹甲弾や榴弾、対戦車ミサイルが飛んでいき、SA-8やZSU-23、HQ-9、HQ-7が破壊され、鉄くずと化した。
「こちら"クロコダイル"、対空陣地の破壊を完了。市街地へ向けて前進する。防空レーダーもついでに破壊した。だが、そろそろ航空部隊を送ってもらわないと、敵の攻撃機がわんさかやって来るはずだ」
『HQ了解。上空援護の航空機を送る』
2月5日 0813時 アルバニア ティラナ・リナ空港
戦闘機やAEWが一斉にエンジンを始動させた。最初にタキシングをしたのは、中東の傭兵部隊のMiG-23やJ-8Ⅱだ。続いてMiG-25やミラージュ2000Cが飛んでいき、"ウォーバーズ"とケレンコフが最後に離陸した。
『"ゴッドアイ"から"サバー"へ、"ウォーバード3"の僚機の位置についてください』
無線機からの指示にケレンコフはスイッチを2回、動かして答えた。操縦桿をスムーズに操作して、F/A-18Cの後ろの位置に機体を持っていく。
「先に離陸した奴らは、生贄の羊だな。対空兵器が残っていたら、俺たちの代わりにあいつらが犠牲になるってことか」
ボンダレンコはレーダー画面とキャノピーの外を交互に見て、周囲を警戒した。
「確か、先陣を切ったのはミグに乗ったガキどもだったな。まあ、彼らみたいな精鋭は温存しておかないといけないのは確かだ」
「だろうな。そうでもしてくれないとこっちだって困る」
「いつもの事だろ。経験が浅かったり、腕前が良くない奴らから最前線に送られて、古参の精鋭やエリートが生き残る。この世界は、いつもそうさ」




