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裏切りの飛行隊-2

 カスピ海上空 0435時


 "掃除屋"の飛行隊はターゲットの情報をデータリンクで再び確認した。ロシア空軍第37打撃飛行隊第5分遣隊、通称"サバー"隊と第69打撃飛行隊第1分遣隊、通称"ヴァラヴェーイ"隊だ。どういう理由で彼らを"除去"するのかは上からは一切知らされないが、この飛行隊には関係の無いことで、命令されれば敵だろうが同じ空軍の飛行機乗りだろうが、民間機だろうが撃墜するだけだ。先日も、国連職員が乗ったロシア上空を飛ぶエールフランス機を撃墜したばかりだ―――ロシア政府は、この件については"空軍が警告し続けたにも関わらず、飛行禁止空域を飛行し続けたためやむを得ず撃墜した"と説明した。

「全機、ECMとECCMを作動させろ。IFFの設定を予定通りに変更。攻撃準備」

 "掃除屋"のSu-35SのMFDに映っているレーダー情報の中で、"サバー隊"と"ヴァラヴェーイ隊"が敵であると表示されていることを確認した。

「こちら1番機、ターゲットを確認。準備完了か?」

『2番機完了』

『3番機完了』

 部下は次々と攻撃準備が整った事を知らせた。後は、自分の合図で攻撃が開始されるはずだ。

「ターゲットロック・・・・・発射!」


「ミサイル!ミサイル!」

『全機、回避!回避!』

 ケレンコフは即座に操縦桿を倒して回避行動を取り、ボンダレンコはECMを作動させた。他の機体も散り散りになってミサイルを避けようとしたが、"ヴァラヴェーイ隊"の4番機がR-77の直撃を受けて爆発した。

『くそっ!何なんだ!』

『味方に撃たれたのか!?』

『そんな馬鹿な!一体、どういう・・・・』

 ボンダレンコはこの混乱のさなか、先程現れた戦闘機のレーダー情報を確認した。なんと、この連中の飛行機はIFFに反応しなかった。

『敵か!?反撃しろ!』

『またミサイルだ!』

『畜生!』

「ミシュカ、ターゲットをロックした!」

「やれ!ぶっ殺せ!」

「Fox1!」


 Su-30からR-77が発射された。Su-34の胴体下からも空対空ミサイルが炎と煙の筋を曳きながら飛び出していく。この攻撃でSu-35Sが1機、撃墜された。が、こちらもSu-30を1機、撃墜されてしまった。先程まで真っ暗だった空は藍色になり、東の方は段々明るくなってきている。そんな中、同国軍の戦闘機乗り同士の戦いは続いた。


 カスピ海上空 0438時


 ケレンコフは戦闘機を操縦しながら、この先の選択肢を検討していた。勿論、生き残ることができればの話だが。確か、カザフスタンとウズベキスタンには、事情があって表立って行動することができない傭兵パイロットのための闇空港があったはずだ。そこはクレジットカード払いで燃料や兵装も調達することができるとも聞く。この連中を排除したら、部下と"ヴァラヴェーイ隊"を連れてそこへ向かおう。しかし、何故、突然、味方であるはずの空軍が自分たちを排除しにかかったのかわからなかった。しかし、戦闘機乗りとしての本能がそれを考えるのは後回しだと告げ、敵機の排除を優先させた。もうすぐ接近戦になるはずだ。ケレンコフは兵装切り替えスイッチを操作し、近距離交戦モードにした。


 Su-34が機関砲の連射を食らい、尾翼の一部を吹き飛ばされた。パイロットは脱出しようとしたが、追い打ちのように30mm機関砲弾がコックピットを撃ち抜いた。"ヴァラヴェーイ隊"と"サバー隊"の戦闘機はあっという間に撃墜されてしまい、残るのは、ケレンコフとボンダレンコが乗るSu-30SMとSu-34がそれぞれ1機ずつだけになってしまった。

「くそっ、逃げるぞ!"ヴァラヴェーイ3"、付いてこい!」

 ケレンコフは機首をカザフスタンの方に向け、その場からの逃走を図った。唯一生き残った味方も、戦線を離脱し、必死に2番機の位置に着こうとした。アフターバーナー全開にまでエンジンをふかし、暫く飛んでいると、敵機は追撃を諦めたのか、ロシアの方へ引き返していった。ケレンコフが後ろについてきているはずの"ヴァラヴェーイ3"の方を見た。Su-34は尾翼や主翼が穴だらけで、更にはタンクから燃料も漏れていた。これでは長くは持たないだろう、とケレンコフは判断し、必要とあらば適当な場所で緊急脱出するよう、指示した。


 2月2日 0918時 マケドニア上空


「で、その僚機はどうなったんだ?」

 スタンリーがケレンコフに訊いた。

『なんとか飛行場まではたどり着くことができた・・・・・・が、着陸に失敗して機体はバラバラになった。パイロットについては、言うまでも無いだろう』

「ロシアが君らの命を突然狙った理由について、何かわかったことはあったのか?」

『詳しくはわからん。だが、作戦が途中で厄介な事になったから、口封じをする必要があると判断したんだろう。だが、俺が空軍から脱走して傭兵稼業を始めても、追手が来た試しは無い。それと、これは後でわかったことなんだが、俺が逃げ出す日の前後に、特殊部隊の隊員や潜水艦乗りが何人か"事故死"したり"行方不明"になったりしていたそうだ。どの兵士も、他人に決して口外できないような作戦に関わっていたらしい。多分、俺と似たような境遇だったんだろう。おっと、もうすぐ目的地だ。着陸はお先にどうぞ』

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