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裏切りの飛行隊-1

 トルクメニスタン上空 0413時


 ケレンコフら攻撃部隊の戦闘機は旋回し、ロシアへ帰還するコースを取った。後ろからは相変わらずミグが追撃してきているが、トラブルを抱えているためなのか、どんどん引き離している。燃料は増槽もあるため、この任務を後4回は繰り返すことができそうなくらい余裕がある。攻撃の行き道は侵入に気づかれるまでに時間があったが、帰りはそうもいかない。恐らくは、地上の高射部隊が自分たちを撃ち落とそうと躍起になっているはずだ。ボンダレンコは試しに無線機の周波数を何度か切り替え、秘話回線になっていないトルクメン軍の通信を拾ってみようとした。どうやら、防空司令部が自分たちを撃ち落とす命令を出して入るが、戦闘機は使えず、地対空ミサイル(SAM)も機能していないようだ。

「"サバー・リーダー"より全機へ。早いところここからずらかろう。行きはあのミグ以外に厄介者には会わなかったが、帰りはそうもいかないだろう。きっと、トルクメン軍の半分が俺たちを狙い撃ちしに来るはずだ」

 他のパイロットたちは、ジッパー・コマンドでそれに答えた。皆、こんな所からは早いところおさらばして、基地でウォッカを飲み、ボルシチで冷えた体を温めたかった。だが、燃料を節減するため、アフターバーナーには点火せず、緊急時以外は巡航速度で飛ぶように努めた。

「全機、ECMとレーダー警戒装置、ミサイル警報装置を確認・・・・・・今のところは異常無し」

 ケレンコフはディスプレイに表示されている情報を確認した。この戦闘機はアナログ式の多機能ディスプレイと伝統的な針を使ったメーターの計器が混在している。GPS画面を確認すると、ロシア国境までそう遠くない所にいるようだ。


 そのロシアからは10機のSu-35Sがトルクメニスタンとの間の国境を越えた。翼や胴体の下には、R-73やR-77といった空対空ミサイルの他に、胴体下に燃料タンクを搭載している。この戦闘機は爆装をしていないため、他の人間が見たら、先程の攻撃部隊の援護に来たものと考えるだろう。だが、それは大きな間違えだった。この戦闘機が所属している部隊は言わば"存在していない部隊"であり、彼らが引き受けるのは、表立ってできない厄介事の"後片付け"である。


 状況が変わったのは、ほんの40分程前のことだ。中央アジア上空を飛んでいたアメリカ空軍のRQ-4BとRC-135Vにこの作戦の無線とデータリンクの通信を拾われてしまっていたのだ。ロシア政府からしてみたら、極秘作戦の情報の大半を西側に知られてしまったことになった。そこで、ロシア軍中央司令部は、大統領直々に作戦の証拠の"抹消"を命じられたのだ。命令を受けたロシア空軍は、先程、攻撃に向かった戦闘機部隊に対して"掃除屋"を差し向けることにした。


 トルクメニスタン上空 0418時


 自分たちが味方であるはずの同じロシア軍の戦闘機乗りから狙われているとは露知らず、ケレンコフたちは母国へと向かっていた。もうすぐ基地へ帰り、熱いシャワーを浴びて、ウォッカをあおるだけ。この手の極秘任務でデブリーフィングが開かれることは"証拠隠滅"をするために殆ど無い。勿論、ケレンコフらもこのようなことは何度も経験してきたため、完全に慣れっこだった。


ボンダレンコはレーダー警戒画面をチラっと見た。今のところ、自分たちを狙ってきている戦闘機や対空兵器は無いようだ。もうすぐロシア上空に差し掛かる。やがて、レーダーに反応が出た。

「おや?別働隊かな?こっちに向かってきている。そうでなければエスコートか・・・・・」

 ロシア国境の方から10個の輝点が現れたのを確認した。真っ直ぐこっちにの方に向かってきている。

「しかし、エスコートを寄越す予定なんて無かった筈だぞ。一体、どういう・・・・」

『"ヴァラヴェーイ1"から"サバー1"へ。IFFを見てみろ。何か変だ』

「何?」

 ケレンコフはMFDのスイッチを幾つか押してIFFの表示画面に切り替えた。おかしな事に、今しがた現れた輝点はIFFに反応しない。もしかしたら民間機かもと一瞬、考えたが、こんな戦地の上空にそんなものが飛んでいるとは思えなかった。

「"サバー1"より全航空機へ。12時方向に正体不明の航空機多数。距離8200、高度21、マッハ0.9でこっちに向かってきている。方向からするとロシア国内からだが、警戒は怠るな。繰り返す。正面の目標に注意せよ」

 ケレンコフはもしかしたら、別の作戦のために出撃した飛行隊なのではないかとも考えた。しかし、それならば事前に他の作戦も同じエリアで行われるとブリーフィングで注意されるはずだ。ケレンコフは、いつでもECMとECCMを作動させられるよう、準備しておいた。


 ロシア上空 0429時


 "掃除屋"のリーダーはIFFの設定を切り替えた。この部隊は、軍事作戦が政府にとって都合の悪い事態に流れていった場合、関係者を"抹消"したり、あるいは脱走する航空機を撃墜する"エスケープキラー"部隊として有名だ。強権的なロシア現大統領直轄の部隊であり、彼らは実際には空軍には"存在しない"部隊である。その飛行隊の存在は、この飛行隊の隊員と大統領しか知らない。今回は、先程のトルクメニスタンにおける軍事作戦の証拠を隠滅するため、関わった人間の"抹殺"をするのが任務だ。地上で作戦を指揮していた司令官は、今頃殺されるか拘束されているはずだ。

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