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冬空のフクロウ-1

 1年前 ロシア モズドク空軍基地 0245時


 ミハイル・ケレンコフ大尉は基地のエプロンに駐機されているSu-30SMへ向かって歩き出した。後ろからは兵装システム士官(WSO)であるゲンナジー・ボンダレンコ大尉がついてきている。今日は、珍しく他の飛行隊との共同任務となった。しかも、自分たちが操縦するのはいつものSu-30SMであるものの、この飛行隊が装備しているのはSu-32だ。この並列複座型の戦闘攻撃機は、長距離攻撃任務のために設計されており、戦闘機なのにコックピットは爆撃機のようなレイアウトで、パイロットノーズギアの格納スペースから乗り込む。また、簡易トイレと保温庫も備え付けられていて、パイロットの長時間のフライトを助ける仕組みも備わっている。

 ケレンコフは飛行準備をしている部下たちの様子を見た。皆、飛行機を丹念に見回し、目に見える不具合が無いかどうか確認している。タンクローリーからは燃料がホースを通じて送り込まれているが、フル武装で離陸するため、余り多くは入れず、一度離陸した後、すぐに空中給油を受ける事になっていた。今回の作戦は、トルクメニスタンにある長距離地対艦ミサイル部隊の基地を叩くことだ。5日前、カスピ海を警備していたロシア沿岸警備隊の警備艇が対艦ミサイルで攻撃され、沈没し、多数の犠牲者が出るという事件が起きた。トルクメニスタン政府は領海侵犯をしたためだと主張したが、ロシア政府は当の警備艇はロシア側の領海内にいたとして報復攻撃に出たのだ。

「ミシュカ」

 相棒のゲンナジー・ボンダレンコ大尉が後ろから話しかけた。

「準備は完了だ。あとは作戦開始の指示を待つだけだ」

「そうか」

「それと、今回の作戦だが、ちょっと変じゃないか?何であいつらは俺たちに何も話かけようともしないし、一緒に飯も食わなかったし、ブリーフィングも別々でやったんだ?共同作戦なのには変わらないのに」

「確かに、おかしなとこだらけだ。だが、任務は任務だ。やり終えたら帰って美味い酒を飲んで、寝るだけ」

「ああ。とっとと終わらせて、帰るとするか」


 エプロンで一斉に戦闘機のエンジンが始動した。最初に離陸するのは、ケレンコフが率いる飛行隊だ。

『こちらモズドグタワー。"サバー1"、"サバー2"離陸を許可します』

「了解。"サバー1"離陸」

『"サバー2"離陸』

 真っ暗な基地で眩しいくらいに明るいアフターバーナーを炊きながらSu-30SMが4機、続けざまに離陸した。少し間を空けて、Su-32も離陸する。それぞれの戦闘機はフィンガーチップ編隊を2つ組み、ターゲットへ飛んでいった。


「"サバー1"より"ヴァラヴェーイ1"へ。周波数を142.87に合わせろ。今後はこの周波数で交信する」

『"ヴァラヴェーイ1"了解。142.87だな』

「空中給油機とも同じ周波数で交信する。タンカーとのランデブーを除き、ターゲットにたどり着くまでは以後、無線を封鎖する」

『"ヴァラヴェーイ1"了解』

 ケレンコフは暗いコックピットの中でディスプレイの地図に注意を向けた。飛行ルートは予定通り、データリンクで更新される気象情報を確認するが、ブリーフィング通り、酷く荒れたりすることは無く、穏やかな天気になりそうだ。


 ロシア上空 0315時


2つの編隊は一定の速度を保ちながらターゲットへと向かった。すぐに4機のIl-78がレーダーに映る。爆装を大量に搭載していたため、その分、燃料を離陸に必要な量に少しだけ入れている程度だったため、途中で空中給油をする計画だった。

「"サバー1"より"ラーストチュカ"へ。ランデブーポイントに到達」

『"サバー1"了解。こっちのレーダーでも君らを捉えた。給油を受ける準備をしてくれ』

「サバー1了解」

 フランカーがタンカーへ近づくと、程なくしてIl-78の翼の両端に搭載されたポッドからホース・ドローグユニットが伸びてきた。2機同時に空中給油を受ける。

 8機の戦闘機はそれぞれ2機ずつの編隊に分かれ、それぞれ4機の空中給油機から2機同時に給油を受けた。


 ケレンコフはコックピットの画面表示を切り替え、残燃料を確認した。燃料計の表示がどんどん満タンへと近づいていく。満タンにすれば、任務を終えて基地へ戻るには十分な量になるはずだ。一応、帰り道にもタンカーは待機している予定だが、これは緊急時のためであり、順調に任務を終えることができれば使う必要は無い。

 給油を受けている間、ケレンコフは酸素マスクを一度外し、バッグからチョコバーを取り出して素早く咀嚼し、飲み込んだ。コックピットの中はエアコンが効き、フライトスーツの下には防寒服と寒冷地用の耐水服を着込んでいるとは言え、寒い冬のロシアの上空は凍りつくような寒さなので、すぐにカロリーを消耗してしまう。そのため、パイロットやWSOたちは緊急脱出した時のために用意されている非常食とは別に、すぐに口に入れて、飲み込むことができるスナック菓子をいくつか持ち込んでいた。だが、ウォッカだけは、任務が終わり、地上に降りてきた後でだ。

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