インターセプト-3
2月2日 0839時 マケドニア上空
ユーロファイターから発射されたミーティアが敵機を直撃し、また1機減らす事ができた。が、貨物機が被弾したため、緊急着陸を余儀なくされた。
「やられたのはどの機体だ?」
スタンリーはリー・ミンに訊いた。
「"コンチネント03"、搭載されていたのは雑具です」
「"コンチネント03"。こちら"ゴッドアイ"状況はどうだ?」
『エンジンが1基ダメになった。火災はなんとか消火できた。緊急着陸ができそうにない場合は、空港近くの平野にでも不時着するつもりだ』
「了解だ。まずはこの空域から離脱してくれ」
『こちら"コンチネント03"、離脱する』
「くそっ、厄介だな。敵の数も多いし、味方も援護しないといけない」
ケレンコフはB747-8Fが離脱していくのを見ながら言った。幸い、損傷は小さく、エンジンの火災も消火できたようだ。
「どうする?援護を呼ぶか?」
「いや、そんな時間は無い。なんとかこれだけで切り抜けるしか無い」
「マケドニア軍のSAM部隊に援護を寄越させることもできんな。下手したら、俺たちが撃たれる」
敵のJ-8Ⅱの編隊長は、戦闘機に狙いを絞ろうとした。だが、味方は最初の交戦で3機撃墜されてしまった。バカな部下が一人、撃ちやすい標的を撃ったが、撃墜はできなかったようだ。周囲を見渡し、状況を確認する。まだ短射程ミサイルの射程内には入っていないが、すぐにドッグファイトになる距離に入るはずだ。編隊長は残りの4機に一度、離脱した後、編隊を組んだ後、再度攻撃するよう指示した。
2月2日 0843時 マケドニア上空
「輸送機が1機やられたぞ!早いところ片付けないと!」
ケイシー・ロックウェルは後ろと左右に注意を払い、こっちを狙っている敵機がいないかどうか確かめた。MiG-21が右方向から接近してくるのが見える。
「敵機のロックオン・・・・・Fox2!」
AIM-9Xがレールランチャーから飛び出し、右方向へ急角度で飛翔した。J-8Ⅱのパイロットは、ミサイルがまさかターンして自分の方向へ飛んでくるとは思ってもいなかったため、この攻撃に対する反応が遅れた。慌てて操縦桿を倒し、降下しながらロールし、フレアをばら撒いたが、すでにミサイルに完全に捉えられており、諦めて座席の左右両側にある射出ハンドルを強く引いた。
敵機の編隊長は5機の味方機を撃墜され、これ以上襲撃をする意味は無いと悟った。
「全機、帰還する。繰り返す、全機、基地へ帰還する」
残った中国製の戦闘機はセルビアの方に機首を向けると、アフターバーナーに点火して、一気に離脱を開始した。傭兵たちは、追撃をするのは無意味だと考え、残弾と残燃料を確認した後、編隊を組み直した。
2月2日 0848時 マケドニア上空
スタンリーはレーダー画面を確認した。敵機は撤退していき、自分たちといきなり援護にやってきた傭兵の戦闘機の他に飛んでいる飛行機は無い。レーダーとデータリンクを確認すると、被弾したB747はマケドニアの空港に既に着陸したようだ。どうやら、滑走路を封鎖するほどの事態には至っていないらしい。
「司令官、先程のフランカーのパイロットが交信してきています。どうします?」
原田景がヘッドセットを外し、スタンリーに差し出した。とりあえずのところ、件の闖入者は味方とみなして問題は無さそうだ。
「よし、話をしてみよう」
ケレンコフは護衛編隊の先頭の位置に機体を移動させた。僚機の位置にはF-15Cがついているが、そこは即座に機関砲か短射程ミサイルで自分たちを撃墜できる絶好の位置でもあった。
『こちら"ゴッドアイ"。そっちのコールサインはええと・・・・』
「"サバー"だ。一緒に飛べて光栄だ。詳しい自己紹介は基地にたどり着いてからにしよう」
『"サバー"、君は今は誰に雇われているんだ?』
「コソボ政府。君らと同じだよ。それにしても、この連中が味方でよかった。敵だったら、生き残れる自信が無い」
『どうも。ところで君の僚機は・・・・』
「そんなものはいない。俺たちは、1機だけで飛んでいる。必要とあればチームプレーはするが、基本的には、俺は個人プレーヤーだ。まあ、WSOとの連携は例外だがな」
どうやら、このパイロットは"はぐれ戦闘機乗り"とでも言うのか、基本的にはどの組織にも属さず、必要があるときだけ他の軍や傭兵、PMCにくっついていくパイロットのようだ。この手の連中はどこにでもいる。
『君は・・・・そのコールサインと訛からするとロシア人か?』
「ご名答。元はロシア空軍にいた。が、祖国からは嫌われているし、俺も祖国を嫌っている」
『どういうことだ?』
「同じ空軍の連中に裏切られ、部下をみんな殺されたのさ。生き残ったのは俺たち二人だけだ」
『何があったんだ?』
「話せば長くなるが・・・・・まあ、基地までは暫くあるし、暇つぶしに聞かせてやってもいいぞ」




