空戦訓練と空中給油-2
1月13日 1019時 ディエゴガルシア島上空
ワン・シュウランはSu-27SKMの2番機の位置に付いた。現役時代は、中国空軍のSu-27SKまたはそのコピー品であるJ-11やJ-11Bを要撃したことはあるが、僚機として飛ぶことは初めてだ。ワンはフランカーの機体をよく見た。流線型で、美しい機体だ。コルチャックがこちらを見て、手を振る。ワンも振り返す。
『"ウォーバード4"より"ウォーバード9"へ。奴らを撃ち落とすぞ。ただ、奴らの3番機に気をつけろ!』
「了解。援護する」
佐藤はレーダーでミラージュとフランカーが向かってきたのをレーダーで捉えた。クロンへイムのグリペンは、しっかりと2番機の位置に付いている。
「"ウォーバード1"から"ウォーバード6"へ。出番だ」
「了解、"ウォーバード1"。いくぜ相棒!」
F-15Eに乗り、遠巻きに戦況を観察していたウェイン・ラッセルは後席のケイシー・ロックウェルに言う。F-15Eは一度上昇して、高度を取り、高速で落下するように"敵機"へと向かった。
ワンは突然、レーダー警報装置が鳴ったのでたじろいだ。コルチャックのフランカーが機首を上げ、上昇したため、すぐに付いて行く。どうやら、相手側の3番機が行動を開始したらしい。辺りを見てみると、遠くから黒い点のようなものがだんだん近づいてくる。しかし、それは点ではなく、"敵"を演じるF-15Eだとすぐにわかった。
「"ウォーバード9"より"ウォーバード4"へ。敵機目視。攻撃する」
『あまり深追いはするなよ。慎重に行け』
1月13日 1024時 インド洋 ディエゴガルシア島近くの岩礁
暗いオリーブグリーンのAH-64Dが海上を飛行している。今回、彼らは実弾射撃の訓練を行うことになった。アパッチのスタブウィングには、増槽が2つとAGM-114Kヘルファイヤミサイルを搭載したM299ランチャーとロケットポッドが1つずつ取り付けられている。標的は、既にジャック・ロスらコンバット・コントローラーによって設置されているので、シモン・ツァハレムとデイヴィッド・ベングリオンがすることは標的を撃つだけだった。
『"スコーピオン"から"アナコンダ"へ。標的は確認したか?レーザーで照らすから、よーく見てくれ』
無線からデヴィッド・バークの声が聞こえてきた。
『こちら"アナコンダ"了解。ターゲットへ向かう』
アパッチ・ロングボウは海上を低空で標的へ向かって飛んだ。ベングリオンもツァハレムも、ようやく海上で低空飛行をすることに慣れてきた。最初のうちは、"海上なんて目印になるものが無くて、飛ぶのが恐ろしい"と言って、ブリッグズが操縦するオスプレイの先導が必用なくらいだったが、今は単独飛行をすることができる。ベングリオンはTADSSでレーザーで照準された、錆びついた船を確認した。
「ターゲット確認・・・・・ファイア!」
AH-64DのランチャーレールからAGM-114Kが飛び出した。ミサイルは真っ直ぐ前方へ飛んだ後、急に下向きに方向転換し、暗礁に乗り上げて放置された貨物船に命中した。
「ターゲット命中。次のターゲットへ向かえ」
RHIBに乗ったデヴィッド・バークがレーザーレンジ・ファインダーを鞄にしまい込んだ。ロン・クラークがエンジンを始動させ、次のターゲットが置いてある岩礁へ向かう。今回、アパッチが搭載しているヘルファイアは全てK型で、どちらかと言えば、アパッチの射撃と言うよりは、コンバットコントローラーの誘導の訓練の意味合いが強かった。
1月13日 1037時 インド洋 ディエゴガルシア島近くの空域
オスプレイとシースタリオンが離脱した後、今度は輸送機同士の空中給油の訓練が始まった。KC-130Hが上空で待機しているKC-10Aへ向かう。
「"カンガルー2"、こちら"バイソン2"。給油位置につけ」
ジェリー・クルーガーがハーキュリーズに指示を出した。ベン・ハミルトンはブームオペレーション・キャビンで腹ばいになり、少しずつ近づいてくるハーキュリーズの姿を確認した。
『"カンガルー2"了解。後はブーマーの指示に従う』
エリー・マッコールは、コックピットの窓越しに給油ブームを見上げた。こうして見ると、かなりKC-10Aが近くに見える。空中給油は軍用機のパイロットには必要不可欠なスキルだが、とても難度が高い芸当であることには変わりはない。
『"バイソン2"より"カンガルー2"へ。少しだけ右によって、ほんの少し加速してくれ』
コパイロットの田村ひとみは、サングラスを額に上げて、給油ブームをよく見ようとした。彼女自身も、航空自衛隊にいた頃は、空中給油の訓練は何度も受けていたが、やはり緊張しているようだ。だが、機長のエリー・マッコールはすんなりと給油位置で飛行機を安定させた。
『"バイソン2"より"カンガルー2"へ。給油を開始する』
KC-10Aから給油ブームが下がってきた。KC-130Hのリセプタルに接続され、JET-A1が燃料タンクへ送り込まれる。コックピットの燃料計の針がEからどんどんFへと近づいていく。しかし、突然、ブームがポン!という音とともに、リセプタルから外れ、燃料が機体にぶちまけられる。
「給油中止!中止!」
マッコールはすぐにKC-130Hを降下させ、タンカーから遠ざけた。KC-10Aの方でも、ハミルトンがすぐに送油を止め、ブームを上げる。
『"カンガルー2"より"バイソン2"へ。訓練中止。帰投する』
「了解。"カンガルー2"、こちらも帰投する」