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中継点

 1月29日 0600時 アルバニア ティラナ・リナ空港


 空対地ミサイルや通常爆弾を搭載したウェポンローダーやタンクローリーが、エプロンに整然と並べられた傭兵部隊の戦闘機の周りを走り始めた。JAS-39やMiG-29、F-16のような今でも各地で大量生産され、傭兵組織やPMCにたくさん使われているものからホーカー・ハンターやSu-22、J-35ドラケンのような骨董品まで様々である。空港の周囲にはSA-11やS-300、ZSU-23といった対空兵器も並び、最後の防空網を築いている。先日の交戦以降、セルビアの航空部隊の攻撃は途絶えたが、地上では気になる動きはあった。アルバニア・コソボとセルビアとの国境の近くに自動車化歩兵部隊や機甲部隊が大規模に展開し、地上からの侵攻を準備しているようだ。アルバニア政府とコソボ政府は国境地帯に兵力を集中させたものの、殆どが張り子の虎状態で、セルビアの勢力が雪崩込んできた場合は半日も持たないだろうとNATOの情報部は考えていた。


 ミハイル・ケレンコフは夜中の哨戒任務(CAP)を終え、Su-30SMを滑走路への最終アプローチコースへ向かわせた。

「"サバー"よりティラナタワーへ。着陸許可を求む」

『"サバー"、こちらティラナタワー。着陸を許可する。18番滑走路へ進入せよ。風は方位176から3ノット、東から0.3ノットの横風あり。注意せよ』

「了解、ティラナタワー」

「今日は何事もなく済んだな。まあ、たまにはこういうこともないとな」

 ゲンナジー・ボンダレンコは前席で操縦している相方に話しかけた。

「だな。最近は、連中は急におとなしくなっているな。何か企んでいるのか、または様子見をしているだけか」

 ここ数日でセルビア空軍機に接触することが少なくなり、CAP中に何かに出くわすことが殆ど無くなった。民航機はIATAやICAOの勧告に従ってバルカン半島上空の通過を避け、アドリア海や黒海を迂回するルートで飛行するようになったため、軍や傭兵部隊以外の飛行機がこの辺りを飛ぶことが殆ど無くなった。が、時折、いたずら半分で近づいてくる個人所有の飛行機がいるので油断はならない。特に、そのような飛行機と、自爆テロ目的の飛行機を見分ける方法は事実上無く、警告を無視してコソボ国内やアルバニア国内へ向かって飛行する不明機を撃墜する権限を傭兵パイロットたちは与えられていた。


 ケレンコフは戦闘機をタッチダウンさせ、エプロンまでタキシングをさせ始めた。滑走路の方に目を向けると、燃料タンクと空対空ミサイルを搭載した2機のトーネードADVが滑走路に並び、すぐに轟音を立てて離陸していった。どうやら、今後はアルバニア・コソボが雇う傭兵部隊の規模は拡大されるらしく、インド洋の島に拠点を置く傭兵部隊がこちらへ向かってきているようだ。


 1月29日 0659時 サウジアラビア  リアド・エアベース


 まだ夜が明けきらないサウジアラビアの首都の上空を、戦闘機の編隊が爆音をたてながらフライバイをした。滑走路上でブレイクし、きれいに整列して着陸していく。その後、AEWや輸送機などが前後一列になってストレートインで下りてきた。

 フォローミー・カーが下りてきた航空機をエプロンへ誘導し、そこではタンクローリーや作業員が待機している。給油が完了次第、パイロットたちは離陸する予定のため、エンジンはアイドルの状態のままにしておいた。この飛行場で武器の搭載、給油、整備を行っているのは、ほとんどが民間の業者で、サウジアラビア空軍の正規兵はごく少数だ。"ウォーバーズ"のパイロットたちにとっては、長時間に渡るフライトの中の、束の間の休息になった。


 オレグ・カジンスキーは自分のミグの周りで作業をする作業員の様子を見ながら、フライトバッグからパワーバーを取り出し、齧り始めた。"ウォーバーズ"戦闘機のパイロットたちが、着陸後、まず、最初にしたことは輸送機や空中給油機の機内にあるトイレへ行くことだった。チャーターした旅客機からは武装した警備員が下りてきて、自動小銃を手に周囲を警戒している。サウジアラビアは、今でも王政が続いているが、ここ最近は軍の中で、特に後方支援に関してはアウトソーシングが急激に進み、三軍の部隊の殆どが実戦部隊や訓練部隊になり、物資の輸送や補給の殆どをPMCや傭兵部隊が行うようになってきた。近年は、オイルマネーからの脱却を図り、PMCや傭兵部隊の拠点を与えるビジネスを開始している。特に、アラビア半島はアジアからアフリカ、ヨーロッパへの足がかりとして重要な位置にあり、中継地点として利用する傭兵部隊は非常に多い。暫くすると、12機ものF-16の編隊が上空を通過し、オーバーヘッドのパターンで着陸し、その後から4機のKC-135と6機のC-130が下りてきた。尾翼のマーキングや機体番号を見る限り、この機体も傭兵部隊またはPMCのもののようだ。自分たちの同類は、どの飛行場へ行ってもよく見かける。傭兵部隊が失業することは、当分の間は無さそうだ。

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