表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/101

要撃戦闘-3

 1月17日 1027時 アルバニア ティラナ・リナ空港


 上空では国籍不明機と傭兵部隊との交戦が行われていたが、基地の方のてんやわんやだった。ホークやSA-8といった対空ミサイルやZSU-23、ゲパルト、ツングースカといった対空兵器がいつでも交戦できるよう、準備をしている。滑走路では兵装や燃料を使い切った戦闘機が着陸し、誘導路とエプロンには再補給を終え、離陸を待っている戦闘機が並んでいる。轟音を立てて、MiG-29やSu-27、F-16といった色とりどりの戦闘機が離陸していった。管制官はレーダーを睨み、どの機体をどの敵に振り分けて交戦させるかを素速く判断し、要撃に向かわせる。

「アロー隊は方位314からの不明機、クロウ隊は方位010からの不明機を攻撃せよ。各自、兵装や燃料の状況に注意しつつ交戦。どちらかが足りなくなった場合は、即座に帰還せよ。以上」

 この混乱した状況の中では、戦闘機乗りたちは要撃管制官の指示に従って交戦することになっている。そして、この管制官たちが、万が一、数字を読み間違えたり、敵や味方の位置情報を僅かでも間違えると、パイロットは死ぬことになる。そして、航空戦力を外部からの傭兵に頼り切っているアルバニアとコソボからしてみたら、それだけは絶対に避けなければならないことであった。


 上空では、戦いが続いていた。爆撃機を援護していたJF-17やJ-10Bの編隊から、一部の機体が離れて迎撃機を始末しに行き、その傍らで、いくつかのH-6Kが撃墜されていく。幸いなことに、敵はスタンドオフ兵器の類を搭載していないのか、ある程度空港に接近しても、爆弾倉を開くことは無い。


『アロー1、Fox1!』

『アロー2、Fox1!』

 2機のMiG-29がR-77を1発ずつ放つ。西の方からは灰色の雲が流れ込み、だんだんと雪がちらつき始めた。そんな中、ミサイルのロケットモーターが煙の条を描き、飛び交って行った。


 1月17日 1034時 アルバニア上空


「ミシュカ!7時方向!クソッ、ケツに付かれた!」

 ボンダレンコの声に反応したケレンコフが後ろを振り返ると、J-10Aがどんどん迫ってくるのが見えた。しかし、まだロックオン警報が鳴っていないことを考えると、敵は短射程ミサイルを用意しているらしい。

「ちいっ、掴まってろよ」

 ケレンコフはエンジンの出力をミリタリーパワーまで上げ、少しだけ真っ直ぐ飛んだ後、操縦桿を急に左に切った。しかし、J-10はこちらをしつこく追いかけ、どんどん近づいてくる。そんな中、すれ違ったF/A-18が爆発し、撃墜された機体の破片が降ってくるのが見えた。コックピットの窓枠にあるバックミラーで後ろの敵の様子をちらりと見ると、機首を少し左の方に向けている。どうやら、リード・パシュートで追い詰めて、ガンキルをするつもりのようだ。

「ミシュカ!奴は機関砲で殺るつもりだ!」

「ああ、分かってる!」

 ケレンコフは大きく機体を左右に振って、やや減速し、わざと敵機を追いつかせた。そして、スロットルを急に戻した後、機体をやや上昇させつつ、操縦桿を一気に後ろに引いた。


 J-10のパイロットは、一瞬、何が起きたのかわからなかった。追い詰めたと思っていたフランカーが急に目の前から消えてたのだ。どこへ行ったのかと周囲を見回すと、Su-30は機体を垂直に近い角度にして上昇し、そこからループした後、錐揉み運動で降下、機体を水平に立て直すと、今度はこちらを追いかけ始めた。


「うひょぉぉぉぉぉぉぉ!ミシュカ!やるなぁ!」

「まさか、本当に役に立つとはな!」

 ケレンコフは機体を水平にしてすぐ、機関砲の射程内に今まで自分たちを追跡していたJ-10が入っているのを確認した。少し加速して、レティクルにしっかりと捉えてから、引き金をほんの0.3秒だけ引いた。30mmの劣化ウラン弾が先程まで自分たちを追っていた戦闘機に命中し、爆発、炎上させた。やがて、J-10のキャノピーが吹き飛び、そこからパイロットが飛び出し、パラシュートが開くのが見えた。

「お前さん、今日はツイてるな」

 ケレンコフは脱出した敵を無視して機体を旋回させ、次の標的へと向かった。


 戦いの流れは、段々と傭兵部隊の方に向き始めた。爆撃機の半数以上が兵装を抱えたまま撃墜され、生き残った敵機は段々と引き返し始めた。どうやら、敵の指揮官は、これ以上の攻撃は無意味だと判断したようだ。

「HQより全機へ、HQより全機へ。敵は引き返し始めたが、引き続き警戒せよ。燃料と兵装が十分残っている機体はそのままCAPを開始、燃料と兵装が残り少ない機体は着陸せよ。繰り返す、燃料と兵装が少ない機体のみ着陸せよ」


 様子見だけの攻撃だったのか、こちらの反撃が予想外だったのかは不明だったものの、敵機は引き返し始めた。滑走路に損害は無く、傭兵部隊は2機が撃墜され、そのうちパイロットは1人が救助されたものの、1人は行方不明となっていた。アルバニア政府は即日でこの攻撃を非難し、次の攻撃に備え、軍備を強化すると公表した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ