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空戦訓練と空中給油-1

 1月13日 1009時 ディエゴガルシア島上空


 ニコライ・コルチャックはSu-27SKMの操縦桿を倒し、機体を急降下させた。後ろからは、カナードの付いた、デルタ翼の小さな戦闘機が迫る。この新人は、腕は確かなようだ。先程、この訓練で僚機を務めていたヒラタのF-16CJを彼女に喰われたばかりである。


「ほう、ジェイソンを"撃墜"したか。彼女、やるなぁ」

 ゴードン・スタンリーはE-737のオペレーション・キャビンのレーダー画面で、空戦の様子を見ながら言った。今日は、新米を加えての初めての空戦訓練である。その新米の名は、レベッカ・クロンへイムとワン・シュウラン。クロンへイムは、元スウェーデン空軍のパイロットであり、軍をやめた後、なけなしの金でJAS-39Cを買って傭兵稼業を始めた。しかし、どんなに腕が良くても、女性が一匹狼でやっていける程、この世界は甘くは無かった。彼女はその美貌以上にアグレッシブな性格で、各地の戦場を転々と渡り歩いていた。が、やはり、どこへ行っても除け者にされてしまい、路頭に迷い始めていた。そこで、彼女は賭けに出た。様々な傭兵組織に手当たり次第にコンタクトを取ったのだ。その下手な鉄砲も数打ちゃ当たる的なやり方でも、どの傭兵組織も歯牙にもかけなかったのだ。ところが、ある日、ディエゴガルシア島にいるという傭兵組織"ウォーバーズ"から連絡が入ったのだ。クロンへイムは、それにすぐに飛びつき、すぐにこの傭兵組織のメンバーとして受け入れられた。

 

 クロンへイムは、今日、自分の僚機を務めているF-15Cの方を見た。普段は部隊内で1番機として飛んでいるようだが、この日本人は、2番機を買って出た。彼は巧妙な罠を仕掛け、F-16CJがJAS-39Cの直ぐ目の前に飛んで来るように仕向けたのだ。それによって、クロンへイムはF-16をHUDに表示された機関砲のピパーに重ねあわせ、"撃墜"を宣言したのだ。残ったのはフランカーのみ。しかし、フランカーだからこそ、油断は出来ない。何しろ、空力面だけを考えたら、Su-27はF-15と同じく戦闘機の"完成形の一つ"とまで呼ばれているのだから。当のベラルーシ人が操るフランカーは、飛んでいるミラージュ2000Cと合流したようだ。


 コルチャックは、ようやく新人のワン・シュウランが駆るミラージュと合流を果たした。今回の訓練は、2+1対2+1という変則的な内容だ。2機編隊同士が戦い、途中から1機ずつが合流するというパターンだ。だが、それを考えると、こっちはかなり不利になる。なにせ、2対3という状況で戦わねばならなくなるのだから。


 1月13日 1017時 ディエゴガルシア島


 KC-130Rが海上をゆっくりと飛んでいる。その後ろからは、CH-53EとCV-22Bが飛んできている。今日はスーパースタリオンとオスプレイに対する、初の空中給油訓練が行われた。フライングブーム式と違い、ヘリとオスプレイは風に流されるドローグバスケットの動きを読み、確実にプローブに接続しなければならないのだ。

『"カンガルー2"へ。こちら"パイソン1"。コースはそのままで飛んでくれ』

 ロバート・ブリッグズが無線でコースを要求する。フライングブーム式と違い、プローブ&ドローグ式では、給油を受ける側が自分で差し込みにいかねばならない。よって、給油を受ける側に給油母機が動きをあわせなければならない。

「了解"パイソン1"。あまりグズグズしていると、ガス欠になって泳いで帰る羽目にあうわよ」

 KC-130Rを操縦しているのは、元アメリカ空軍のエリー・マッコールだ。その隣では、副操縦士で、航空自衛隊出身の田村ひとみが空域の様子を観察していた。空はよく晴れていて、荒れる兆候は今のところは無さそうだ。


 KC-130Rのカーゴベイの窓から、ロードマスターのジャン・ロシェがオスプレイの様子を見た。機首からプローブを伸ばし、ドローグバスケットに接続する。編隊を組んでから、その時間約20秒。かなり素早いほうだ。CV-22Bは燃料を燃料タンクに流し込むと、後ろに下がって、プローブの接続を外した。


 オスプレイの給油が終わると、次はスタリオンの番だ。ブライアン・ニールセンは、風で暴れるドローグの動きを観察した。タイミングを誤れば、メインローターにドローグホースを巻き込み、ヘリは墜落することになる。

「ブライアン、落ち着いて。ゆっくりやれば大丈夫よ」

 相棒のキャシー・ゲイツは、機長にそう話しかけた。ニールセンは、数年ぶりの空中給油なのか、かなり緊張していて、表情が強張っている。

「あ、ああ・・・・・」

 ニールセンはゆっくりとヘリを前進させた。が、どこかがぎこちない。まるで新人パイロットのようで、このヘリで2800時間も飛んだベテランには見えない。やがて、ニールセンは深呼吸して、一度、手を動かすのをやめた。

「キャシー、すまんが、今日は俺はダメそうだ。代わってくれるか?」

「えっ?ええ、大丈夫よ。アイハブ・コントロール」

「ユーハブ・コントロール」


 ロシェは、スーパースタリオンの飛行が急にスムーズになり、ドローグにプローブを差し込むのを見た。どうやら大丈夫なようだ。しかし、彼は、ゲイツが代わりにヘリを操縦しているなど、知る由も無かった。 

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