いつもの訓練-1
1月17日 0930時 ディエゴ・ガルシア島
轟音を立てて9機の戦闘機が離陸していった。アラート待機をしているF-16CJとMiG-29Kも、模擬弾を搭載して飛んで行った。ヘリスポットには電源車が走って行き、デイヴィッド・ベングリオンらパイロットたちが歩いて行く。パイロットたちは既にコソボの状況の話は、朝食兼ブリーフィングで聞いていた。彼らはみな、恐らく、行くことになるだろうと予想していた。また、空中給油支援のためにKC-10Aがタキシングを始める。ゲパルト、S-300、NASAMS、アヴェンジャーは基地の中に置かれ、空に目を光らせている。
海岸ではジャック・ロスらコンバット・コントローラーと救難隊員のバック・コーエン、トーマス・ボーンが人型の標的にHK-416Dを撃ち始めた。5.56mmのSS109弾がボール紙の標的に穴を開ける。彼らは近接戦闘の機会が多くなるため、射撃訓練は週2回の休み以外の日は、ほぼ毎日行う。銃声が静かな海辺に響き渡り、男たちの足元には空薬莢が転がり、硝煙の匂いが漂い始める。彼らは1日に弾倉13〜15個分の射撃を行い、更に島に設置されたアスレチック・コースでの体力錬成、格闘訓練も欠かせない。他にも、ヘリからのラペリング、マネキンを使用した救難訓練も行う。パイロットに比べたら、訓練の内容が多岐にわたるため、かなりハードなものになる。
AGM-114KヘルファイアミサイルとGBU-12をそれぞれ2発ずつ、翼のパイロンに搭載したMQ-9が滑走を始めた。今日は攻撃の訓練を行うことになった。ターゲットは岩礁に座礁して、潮風でボロボロになった船だ。静かなターボプロップの音が強い風の音にかき消され、地上にいる警備員や整備員には、リーパーが離陸する音は聞こえなかった。
「システム確認・・・・全て異常なし。ターゲットへ移動する」
地上の管制室ではスペンサー・マグワイヤが操縦桿を動かし、リーパーを目標へ向かわせた。高橋正は、トラックボールを操作して、カメラの調子を確認する。液晶画面には残燃料、GPS座標、兵装情報が表示され、カラーでハッキリと海上の様子が映しだされている。
「兵装選択・・・・・レーザーオン。ターゲットロックオン・・・・・投下」
1月17日 0946時 インド洋上空
MQ-9のパイロンからGBU-12が投下された。F-15Eに搭載されているターゲティングポッドからレーザーが照射され、岩礁に置いてある錆びたトラックを不可視光レーザーで照らし始めた。
GBU-12のシーカーがレーザーを捉え、ロックオンという表示が管制室の画面に映った。高橋がボタンを押すと、リーパーのパイロンから爆弾が投下された。F-15Eはゆっくりと飛んで、レーザーがターゲットに照射できるように旋回を始めた。
「レーザー照射・・・・ターゲット確認」
ロックウェルが座るWSOの席の前のディスプレイに、白い十字の照準が表示され、それの中心に錆びたトラックが映る。ラッセルはターゲットを外さないよう、慎重にゆっくりと機体を旋回させている。
「ターゲット照射中・・・・・命中!」
トラックに爆弾が直撃し、爆発した。黒煙が小さな岩礁から立ち上り、ピンポイントで視界を遮る。
「ナイスショット!次だ」
MQ-9は一旦上昇し、次は座礁し、錆びてボロボロになった漁船に狙いを定めた。翼のランチャーからヘルファイアミサイルが発射される。ただ、このヘルファイアはアパッチが搭載するミリ波レーダー誘導のAGM-114Lではなく、セミアクティブレーザー誘導の114Kのため、ターゲットにレーザーを照射し続ける必要がある。これは母機のAN/ASS-52カメラと戦闘機に搭載されるライトニングⅡターゲティングポッドの両方から誘導を受けることができる。ミサイルのシーカーヘッドがターゲットに当たって反射されたレーザー光を捉えた。
「投下」
マグワイヤが地上のコンソールのボタンを押すと、再度、GBU-12がターゲット目がけて落下していく。
「ターゲット照射・・・・照射・・・・命中!」
漁船が爆発し、そこら中に錆びた鉄やアルミの破片を飛び散らせた。
「全ターゲット破壊を確認。帰投する」
リーパーは旋回し、航空基地へと向かっていった。
空中では戦闘機同士の空戦訓練が続いていた。F/A-18Cの後ろからF-15Cが迫り、コガワはそれを振り切ろうと、機体を左右に振りながら追撃をかわそうとするが、佐藤の駆るイーグルはピラニアのように喰らいついて離さない。しかも、最悪なことに、Su-27SKMも、こっちがカモになったと思ったのか、狙いを定めてくる。
「くそっ、俺ばっかり狙われている」
コガワは歯ぎしりすると、機体を急降下させ、"敵機"をかわそうとするが、上手くいかない。今回の訓練は、自分以外全て敵機という、なかなかカオスな内容だ。しかも、これを提案したのが司令官なのが驚きだ。まあ、時々、司令官は訓練で無茶振りをするのはわかっていたことではあったが。
当の司令官は、E-737からこの訓練の様子の高みの見物をしていた。このAEWはかつては予備機だったもので―――以前使っていた機体は、UAEの任務において、ミサイル攻撃で破壊された―――使う前に、いくつかアップデートも施していた。
「それにしても、随分と無茶な提案をしましたね。自分以外全部敵機だなんて」
原田はレーダースコープを見ながら言った。戦闘機はめまぐるしく高度と進路を変え、飛び回っている。
「たまにはこういう訓練も刺激になっていいだろう。同じパターンでは、あいつらも退屈すると思ってね」
「退屈って・・・・。分からないでも無いですけど、ゲームじゃないんですよ」
「なに。そんなに悪くは無いだろ」




