新装備
1月16日 1647時 アルバニア ティラナ・リナ空港
空港のエプロンには戦闘機がひしめき合い、輸送機が離着陸をする。アルバニアとコソボ、セルビアでは旅客機の便が途絶え、代わりに傭兵がやって来ている。報酬、イデオロギーなど様々な理由から、セルビアに協力したり、コソボまたはアルバニアに協力したりしている。現在、セルビア政府によるコソボやアルバニアに対する恫喝はどんどん加速していき、先程も、偵察飛行をしに来たと思われるMiG-25RBがアルバニアに領空侵犯をしたばかりだ。傭兵の戦闘機がスクランブル発進を行い、追い払いに行ったが、向こうは『正規軍ではない傭兵は、領空警備の権利は無い』と主張したが、当の領空侵犯機も外部から来た傭兵だった。
ミハイル・ケレンコフは手配していた兵装の確認を行った。注文通りの品が、注文通りの数、しっかりと届いている。傭兵部隊とアルバニア、コソボ両政府の間には、両国軍が仲介に入り、訓練や物資の割り当てなどの調整をしている。一部の傭兵部隊が対空兵器を持ち込んだため、この空港の防備はかなり強固なものとなった。その間、保険会社がアルバニア、コソボ、セルビアの3ヶ国を『戦争危険地域』に指定したため、民間機の離発着が途絶えていった。今のところ、セルビアによる一方的な国境封鎖などは行われてはいないが、それも時間の問題であろう。轟音が響き渡り、C-5Bが離陸した。先程、傭兵部隊のレオパルト2A4を運びこんできたところだった。
1月16日 1717時 アルバニア上空
ミヤシチョフM-55がセルビアの国境近くの上空を偵察飛行している。この航空機は、元々ソ連で気球迎撃・高高度偵察機として開発され、U-2と似たような任務を行っている。M-55は、既にロシア空軍からは退役しており、現役で飛行している機体は既に存在しないと考えられていた。が、この傭兵はM-55を密かに入手し、主に偵察飛行することで、報酬次第で各国に協力している。M-55にはミサイルジャマー、ミサイル警報装置、デコイ、チャフ・フレアディスペンサーが追加され、偵察用カメラも最新式のデジタルカメラに換装されている。彼は偵察飛行で得た画像を、追加されたデータリンク機能により、コソボ軍司令部にリアルタイムで送信していた。
M-55のパイロットは、常にGPS、慣性航法装置、高度計、レーダー警戒装置の表示に注意を払っていた。カメラは自動設定にしているため、通り過ぎた場所の地表を勝手に撮影し、画像が送信される。これだけの高空となると、S-300またはS-400でなければ地対空ミサイルの射程内に入ってしまうことは無い。また、戦闘機の限界高度はギリギリのため、迎撃されることも難しいが、油断は禁物だ。だが、今のところは、レーダーに捉えられた気配は無い。今は国境ギリギリの所を飛ぶのが任務であり、越境することは禁じられている。傭兵はカメラが送信している画像を確認した。今のところ、変わったものは無いようだ。SAMや野砲の陣地が設置されたり、戦車部隊が移動している形跡は無いまたは、セルビア軍はそのようなものを巧みに隠匿しているようだ。かなりの成層圏に近い高度を飛行しているため、パイロットからは地平線の丸みが見えている。まるで宇宙飛行士にでもなったような気分を味わえるため、彼はこの飛行機が気に入っていた。今日は晴れていたこともあり、ハッキリとオリオン座が夜空に見える。パイロットは、チラリとカメラが写している映像に注意を向けた。地上には、戦車、装甲車、自走対空機関砲、自走対空ミサイルランチャーなどががあるのがわかる。更に、奇妙なものを見つけた。長いバスのような車体だが、それにしては幅が広く、車高も低い。そこで、彼はそれが短距離弾道ミサイルのランチャーであることに気づいた。操縦桿を動かし、その周囲で円を描くように飛行し、それの画像を記録したのを確認して、基地に戻ることにした。貴重な情報を得た後は、しっかり持ち帰るまで撃墜されるリスクを犯す訳にはいかない。
1月16日 1939時 ディエゴガルシア島
小型飛行機のように静かなターボプロップの音と共に、MQ-9がタキシングを始めた。その異様な姿に、エプロンにいた警備員や地対空兵器のオペレーターたちは好奇の眼差しを向ける。
「ディエゴガルシアタワーより"ドロイド"離陸を許可します」
『了解。"ドロイド"、離陸する』
スペンサー・マグワイヤはMQ-9の地上のオペレーションキャビンで、地上の管制官とやり取りをするという奇妙な事をやっていた。彼がジョイスティックを動かすと、リーパーが静かな音を立てて滑走し、離陸していった。
「さて、どうかな?」
管制塔からはスタンリーが無人機の離陸を見守っていた。リーパーはかなりゆっくりとした速度で飛んで行く。この無人機は、対地攻撃用と偵察用に導入したものだ。幸いにも、マグワイヤは米空軍にいたときはMQ-9のオペレーターだったため、すぐに運用体制は整った。
「今日は軽く島の周りを飛ぶだけの予定です」
管制官が答える。
「ふむ。まあ、本格的な攻撃訓練は明日以降か。まあ、今日はあまり無理はさせないようにしよう」
アラート待機に入っていたワン、ラッセル、ロックウェルはポーカーをしていた。今日は3人とも拮抗した状態で、ほぼ差し引き無しな状態になっている。まあ、この島でお金を使うということは、殆ど無かったので、金はポーカーをする隊員の間を動くだけだった。




