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Night Flight-3

 1月13日 2217時 インド洋上空


 戦闘機同士の空戦訓練は続いていた。轟音を響かせながら夜空を飛び回り、時折、その音がディエゴ・ガルシア島にまで響く。なかなか決着が付かず、航空機の燃料だけがどんどん減っていく。やがて、ブリーフィング時に計画された時間制限に達したため、管制官から訓練の打ち切りを告げられた。

『こちらディエゴ・ガルシアタワー。全機、そこまでだ。当初の計画にしたがって、訓練を中止。帰還せよ』

「チイッ!」

 ラッセルは大きく毒づいた。もう少しでF/A-18Cの背中を捉えるというところで、管制官から終了を告げられたのだ。通常、空戦での飛行訓練は1回につき、1時間から1時間半程度だ―――勿論、対地攻撃、要撃戦闘となれば変わってくるが―――が、今回は、その予定時間を大幅に過ぎていた。燃料は、海上を飛ぶこともあって、かなり余分に入れておくのだが、それは緊急時のためであり、訓練を延長するためのものでは無い。

「仕方がない、帰るぞ」

 ロックウェルが相棒を宥める。

「了解だ」

 

 先程まで"敵"と"味方"に分かれていた戦闘機が編隊を組み、基地へと帰還し始めた。思い返せば、今夜の訓練では、いつも2機のうちどちらか片方は離陸するはずの空中給油機(タンカー)が離陸しなかったのをパイロットたちは思い出した。司令官は、余程のことが無い限り、リスクを回避する人間だ。どうしても避けられない場合は、どちらかよりリスクの低い選択肢を取る。例え、高リスクな選択肢が成功することによって、得るものが大きくてもだ。


 1月14日 0014時 ディエゴガルシア島


 ゴードン・スタンリーは執務室で、オーストラリア空軍からもたらされた情報を確認していた。それは、ロシア人の傭兵に関する情報だった。この傭兵は、ミハイル・ケレンコフとゲンナジー・ボンダレンコという二人組のパイロットで、凄腕の戦闘機乗りだ。彼らは、世界各地を転々と移動しながら、傭兵稼業を続けている。理由は不明だが、ロシア空軍の公式記録では、中央アジアでの任務中に撃墜され、行方不明になったとされている。ロシア空軍は捜索に出かけたが、10日間捜索して、何の手掛かりも得られないまま、戦闘時行方不明者(MIA)として扱い、そのままになっている。しかし、その2年後、彼らは傭兵として表舞台に現れた。その時、彼らはSu-30SMに乗り―――どうやって手に入れたかは不明だ―――内戦状態になっていたモルドヴァに現れた。そこでは、政府側に立って戦い、反政府軍とそれを密かに支援していたロシア空軍の航空機を多数撃墜したとされている。それにより、彼らはロシア国内では反政府運動に関わっているとして手配された。どうやら、この2人が、先日、UAEにいた時に手に入れた情報に載っていた件の傭兵らしい。しかし、何故、彼らは祖国に反旗を翻したのか。情報部のプロファイルによれば、2人とも酷く祖国を憎んでいる、という事が書かれていた。それにより、ロシアが支援している武装勢力を尽く攻撃し、更には、密かに派遣されていたロシア軍の部隊を壊滅させたりしているらしい。しかし、問題は、どうやって彼らとコンタクトを取るかだ。


 アラートハンガーの隣の待機室では、佐藤とクロンへイムがチェスに興じていた。テーブルには、空になったクラッカーの袋やチーズの包み紙が置かれている。

「だから言ったろ?こんなインド洋のど真ん中の島に、わざわざ喧嘩をふっかけに来る奴なんていないって」

 佐藤はルークを動かし、ナイトを取った。クロンへイムは次の手を考えている。

「確かにね。緊急着陸の一時的な退避場所としか、普通は使う意味が無いわね」

 クロンへイムは一旦、ビショップを下がらせた。

「そいつも難しいだろうな。基本的には、関係者以外は立入禁止だ」

 佐藤はポーンを動かす。元々将棋やチェスは苦手だが、クロンへイムがどうしてもやりたいと言っていたため、仕方なく付き合ってやったのだ。

「ところで、あのAEWのオペレーターの日本人の娘とは長いの?」

 不意打ちな話題に面食らったが、心理戦だな、と佐藤は判断した。

「古巣は同じだけど、ここに来るまでは面識は無い。僕は戦闘機乗りだったし、あっちは、空中管制機の管制官だ」

 クロンへイムはクイーンを下げた。佐藤はナイトをキングの前に動かして、壁を作る。

「それにしては、随分仲が良さそうだけど」

 スウェーデン人はルークを前に出して、ビショップを取る。佐藤はルークをキングの左前に出して、防御する。

「気のせいだよ」

「本当に?」

「ああ」

 どうやら、クロンへイムには信じていないようだ。目を細めてこっちを見る。そして、先程動かしたルークでポーンを取る。佐藤はキングを下がらせるが、クイーンで防御のために置いておいたビショップを取られ・・・・・。

「チェックメイト」

「ふう。やっぱり、この手のゲームは苦手だ」

「じゃあ、何なら得意なの?」

「オンラインの戦闘機のシューティングゲームなら」

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