プリシュティナ解放作戦-5
4月1日 0308時 コソボ市街地
市街地では、銃撃と砲撃、爆発が続いていた。だが、制空権を完全に失ったセルビア軍に勝機が残っているはずが無かった。抵抗を続ける戦車部隊に、攻撃ヘリの群れが襲いかかった。
「"アナコンダ1"よりアナコンダ隊全機へ。正面の敵を攻撃する」
『2了解』
『3、攻撃する』
『4』
攻撃ヘリ部隊が、矢継ぎ早にミサイルとロケット弾を発射し、T-72やT-90に撃ち込んだ。戦車や装甲車が爆発し、燃え上がる鉄くずになる。
「"アナコンダ1"、敵地上部隊排除完了」
デイヴィッド・ベングリオンが僚機に報告する。
『こちら"アナコンダ2"、敵戦車排除完了』
『"アナコンダ3"、ターゲット殲滅』
「ようし、いいぞ!地上部隊を突撃させろ!」
CH-47DとMV-22B、CV-22Bが編隊を組み、雲霞のようにコソボ上空に飛来した。それぞれ、キャンプ・スリムライン、アルベリア公園、ファディル・ウォクッリのすぐ上でホバリングを始める。コソボ治安軍とアルバニア陸軍の歩兵部隊がファストロープで降下し、一斉に大統領府、市庁舎、その他官公庁の建物を目指した。
「行け行け行け!タラタラするな!さっさと大統領府を確保しろ!」
コソボ治安軍の歩兵たちは大統領府に向かって突進を始めた。途中で、傭兵部隊の装甲車や戦車と合流する。未だにセルビア軍側からの抵抗はあるため、銃撃しながら前進していく。
「クソッ、やられた!」
兵士の一人が脚に銃弾を受けて倒れた。傭兵が彼を引っ張り、装甲車の後ろに座らせて手当をする。
「大丈夫だ。これなら太い血管は傷ついていない。止血したら、それに乗ってろ」
「いや。それならまだ戦える」
「バカ言え。下手に動いたら、傷口が開いて、それこそ命に関わる。せっかく祖国に帰ってきたのに、無駄死にするな。衛生兵!」
4月1日 0314時 コソボ 大統領府
セルビア兵たちが、大統領府に立てこもり、最後の抵抗を続けていた。自動小銃を撃ち続け、傭兵やコソボ兵たちを退けようとする。
「クソッ!無反動砲とミサイルを寄越せ!吹っ飛ばしてやる!」
「おいおい、建物を傷つけてどうするんだ?」
「戦争が終わったら、また建て直せばいい!どっちにしろ、この街は滅茶苦茶なんだ!そんなの気にしてられっか!」
その言葉を合図に、傭兵たちはRPG-7やカール・グスタフM4、FGM-148ジャベリンを一斉に発射した。大統領府のテラスと一緒に敵兵や据え付けられた重機関銃が吹き飛ばされる。
「今だ!突入!」
4月1日 0327時 コソボ上空
戦闘機部隊は、燃料を節約しながら、上空哨戒を続けた。セルビアが雇った傭兵が、最後の手段として爆撃機を発進させないとも限らない。そして、やはりやって来た。
『"ゴッドアイ"より"ウォーバード"各機へ。敵編隊確認。数・・・・・5?どういうことだこれは?』
「こちら"サバー"。こっちでも確認した。これは・・・・・一体どういうことだ?」
「クソッ、裏切り者め!いい加減にしやがれ!」
ことの発端は、護衛機に乗っていた傭兵がTu-22Mを1機、撃墜したことだった。化学兵器による攻撃に加担したことによる戦犯にされることを恐れた傭兵の一人が、爆撃機を1機、撃墜したのだ。それから、編隊内部での空中戦が始まった。セルビア空軍のミグが傭兵を撃ち、傭兵の戦闘機がセルビア空軍機を撃つ。そして、今は、セルビア空軍パイロットが操縦する2機のバックファイアを、傭兵部隊のフルクラムが追跡し、攻撃している格好となっていた。
「対電子防御手段!チャフ!フレア!」
「畜生!正面からも敵機!数・・・・・10だと!?」
『"ゴッドアイ"より"ウォーバード"各機、"サバー"へ。撃墜せよ』
この言葉を合図に、佐藤たちが猛然と敵機に襲いかかった。
『"ウォーバード7"、Fox1!』
『"ウォーバード8"、ミサイル発射!』
R-77やミーティア、AIM-120Cが飛翔し、敵機へと向かっていった。その間にも、セルビア空軍と傭兵部隊は内輪もめをやめることはない。やがて、爆撃機の爆撃手の一人がミサイルが飛んできていることにようやく気づいた。が、爆撃機編隊は、既にミサイルの"ノーエスケープ・ゾーン"にはまり込んでいた。
4月1日 0348時 コソボ 大統領府
大統領府の庭に、1機のCH-47Dチヌークが着陸した。カーゴランプが開き、中からコソボ治安軍兵士らと傭兵部隊に護衛された、ズロボダン・ストイコビッチ大統領が降りてくる。大統領府を制圧した傭兵たちが敬礼して大統領を迎え、ストイコビッチが答礼する。そして、1時間後、ストイコビッチは臨時放送を行い、コソボ全土の解放を宣言した。




