Night Flight-2
1月13日 2104時 ディエゴガルシア島
アラートハンガーには空対空ミサイルをフル装備させられて増槽を胴体中央に取り付けられたF-15CとJAS-39Cが並べられ、時折、整備員が機体のチェックをしていた。外にはRBS-15K地対艦ミサイル、ゲパルト対空機関砲、S-300地対空ミサイル、アベンジャー対空ミサイルシステムが並べられている。そして、新たに導入したNASAMSの設置と、旧式化したMIM-23ホークミサイルの撤去が同時に行われていた。NASAMSは、AIM-120AMRAAMを地対空ミサイルに改造したもので、ホークに比べたら、やや射程距離は短いが、アクティブレーダー誘導のため、その点は余り気にするものでは無かった。
「あのミサイルも息が長いわね。スウェーデンでは、まだ現役よ」
クロンへイムは、トラックに載せられて、兵器処分業者に港へ運ばれていくホークのランチャーを見て言った。このミサイルは、問題無い限りは、また他の傭兵部隊や正規軍に安く売られる事になるだろう。
「日本でもそうさ。まあ、段々退役しているけどな。まあ、用心するに越したことは無い。地対空兵器と地対艦兵器は、余裕がある限り、多く置いておいた方がいい」
確かに、この基地の地対空/地対艦兵器の密度はかなりのものだ。最近、スタンリーは、対艦用として、M109パラディンやPzH2000といった自走砲、M30やM31といったGPS誘導ロケットまたはATACMSを搭載したMLRSの導入も検討していたが、RBS-15Kの追加導入の方が効果的だという結論により、取り下げていた。
1月13日 2109時 インド洋上空
空中では、模擬の戦闘が続いていた。HMDストライカーⅡのおかげで、かなり周囲の様子をハッキリ見ることができる。しかし、これらはロシア製の戦闘機には組み込むことができないため―――ロシア製の類似品を探したが、まだ開発されていないようだ―――、コルチャックとカジンスキーは、これの恩恵を受けることができないでいた。
「いたぞ。12時方向」
ロックウェルはレーダーでヒラタのF-16を捉えていた。輝点がスコープに映る。
「まずはあまり突っ込まず、遠くから反応を見るとするか」
ラッセルはアフターバーナーに点火して、AMRAAMの射程内まで接近した。すぐにバーナーを切り、ミリタリーパワーにする。
"CAUTION CAUTION RADER SPIKE CAUTION CAUTION RADER SPIKE"
F-16CJの警報システムが、レーダーに照射されている事をパイロットに知らせる。ヒラタはジャマーを作動させ、チャフをばら撒いた。反射的に後ろを向くが、勿論、星明かり以外は見えない。F-16はかなり激しく急上昇、急降下、バレルロールを繰り返した。
ラッセルはわざと暗視装置越しにF-16がばら撒くフレアの輝きを見てみた。やはりストライカーⅡは、自動光量調節機能があり、急に強い光源が現れても、目を痛めることは無いようだ。
「こいつはいい。昼間みたいにハッキリ見えるし、ミサイルの照準もできる」
ロックウェルはコックピットのスイッチを幾つか押した。HMDに目標指示キューが表示される。JHMCSと同じように、AIM-9Xの照準機能はあるようだ。
「ようし、奴を追ってみよう。"ウォーバード9"、付いてきているか?」
『"ウォーバード9"から"ウォーバード6"へ。しっかりついて来ているから安心してくれ』
ワンはF-15Eの姿をハッキリと捉え、2番機の位置を保っている。
「了解だ。そのままでいろ。後ろを見張っていてくれ」
1月13日 2118時 ディエゴガルシア島
短めのフライトを終えて、アパッチ、オスプレイ、スーパースタリオンが着陸した。ヘリスポットからエプロンにタキシングをして、エンジンを止める。ベングリオンとツァハレムが機体から降りて、機体のチェックを始めた。整備員が数名、トーイングカーと共に近づいてきてフライト後の整備の準備を始めた。
「お疲れ様でした」
整備員が敬礼で迎えると、ツァハレムとベングリオンはサッと答礼した。
「夜中に海の上を飛ぶのはゾッとしないよ。まだ慣れる気がしない」
ベングリオンは、その整備兵に話しかける。
「自分は、飛行機に乗ること自体が嫌いですよ。ヘリで低空飛行なんて、もっての外です」
「でも、仕事が舞い込んできたら乗らざるをえないだろ?」
「ええ。なので、乗る時は睡眠導入剤を飲んで、寝ているうちに目的地に付いているように祈っています。できれば船で行きたいのですが、そうもいかないですからね」
「ああ。全くだ」
スタンリーは管制塔にいたが、何か連絡があったようで、階段を降りて執務室へと向かっていった。管制塔には、4人の管制官がレーダーを見ながら、周辺空域の様子を監視している。今のところ、周辺で訓練している仲間の航空機以外は何も無いようだ。だが、管制官たちは、少しも油断すること無く、レーダー画面を睨み、時折、窓から空の様子を見ている。




