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クリスマス・エンド・ロール

作者:椎名乃奈
 俺は、その物音にハッとする様にして目を覚ました。

 目を開けるとそこには、俺の見知った天井なんかでは無く、雲一つない綺麗な夜空が目前に広がっていた。こうしてのんびりと星空を見るなんて、一体いつ以来のことだっただろうか。

 だが、冷静になって考えればそれは可笑しなことだった。
 俺の目前に星空が広がっていると言うことは、どのようにしてこの状況に陥ったのかは分からないが、俺はベッドで寝そべっている訳では無く、なぜかスーツ姿のままでしかも、外で寝そべっているからだ。

 何がどうなっているのか分からない俺は、取り敢えず確認をしようとゆっくりと頭を起こした時のことだった。顔の直ぐ横を高速で何かが過ぎ去って行く。あまりの速さに俺はそれが何だったのか分からなかった。

 けれど、間もなくして視線の先で消魂しい音と共にそれが爆発した。
 俺が驚かされる様に目を覚ました音は、きっとこれだったに違いないなんてことは、最早どうでも良かった。俺は目の前で起きている事実を、状況を飲み込めないでいた。

 いや、それ以上なのかもしれない。
 理解すら出来ていなかったのだから。

「あんた、いきなり頭上げると吹き飛ぶわよ」

 背後から女性の声が聞こえた。
 俺はその声のする方へと首を向けるとそこには、見知らぬセーラー服を着た少女は、何やら物騒な物を手にしながらそこに立っていた。そして、グレネードランチャーのようなものから、機関銃へと持ち替えた。

 と言うか、自分よりも明らかに年下の少女にあんた呼ばわりとはこれいかに。

「何やってんのよ、早く頭下げなさいって言ってんでしょうーが!」
「ぐふっ」

 俺は、その少女から強引に頭を抑え込まされる形で地面に付けさせられた。抑えられた頭を強引に上げてその先を見遣る。すると、その先に何やら朱い何かが大量に攻めて来ているのが見える。

「何だよ、あれ……」
「あれが、私達の敵。サンタ・クロースよ」

 それは、聞いたことのある名だった。

「サンタ・クロース? サンタ・クロースってあのクリスマスにプレゼントを配って周るあのサンタ・クロースのことか?」
「ええ、そうよ」

 そう答えながら、少女はサンタ・クロースへと機関銃で発砲している。その銃弾を受けたサンタ・クロースは、なにやらシールドの様なものを張っているようでダメージを負っているようには思えない。

 そもそも、一体これは、何が起こっているんだ。

「いつまでそこで寝てるのよ。さっさと立って、応戦しなさい」
「誰が、抑え込んだんだ」

 俺は、咄嗟にそう反論する。
 少女から余っている銃を受け取り、屈みながら俺も応戦しようとするが、銃なんて使ったことの無い俺は、当然手が震えて止まらない。そんな情けない俺を見て、無言で少女は立ち上がり、そして。

「シャキッとせんかいっ!」
「痛ってええええええっ!」

 そう言い放つと、俺を思い切り蹴り上げた。その拍子に指が掛かり、意図しない形でサンタ・クロースへと発砲してしまった。これは、前科一犯にあたるのだろうか。

「やれば出来るじゃない」
「やりたくてやったんじゃねえ」

 と言うか、年上に容赦ねえな。これだから、ゆとり教育ってやつは。

「まだまだ、来るわよ。ここから先に、進ませちゃ駄目よ」
「ここから先? ってうおおおお」

 その言葉に、俺は後ろへと振り返る。そこには、大きな穴が開いている。そこからは、煌びやかにイルミネーションで装飾された街が見える。と言うことは、ここは街の上空と言うことなのだろうか。

「何で、俺達はサンタ・クロースと戦っているんだ。サンタ・クロースは、子供たちに夢や希望を届ける存在なはずだ。それなのに、なぜ戦う必要がある」

 俺の問い掛けに暫し少女は考え込みながら、銃を構わず打ち続ける。

「あんたは今でも、サンタ・クロースがいるって信じているの?」

 今となっては、あまり聞き慣れない質問だ。大人になるにつれて知ってしまう真実と言うのは、余りに多く――それはその反面、子供と言うものがあまりに無知だったことに気付かされる。

「この歳になれば、サンタ・クロースが本当はいないことをいやでも知ってるからな」
「その時、あんたはどう思った?」

 真摯な表情で俺へ聞く。

「そりゃ、子供なりにショックだったさ」

 笑いながらそう言い返す俺とは対象に、少女の顔はどこか強張っていた。

「だったら、初めからサンタ・クロースなんて居なければ、そんな思いをする子供たちが居なくなるじゃない。大人達だって、子供の我儘を聞く必要だってなくなるじゃない」

 ちょっと待て、お前何を言っているんだ――俺は、思わずその言葉で目を見開いた。

「だから、私はここで戦っているのよ」
「お前は、なぜそこまでサンタ・クロースを恨んでいるんだ」

 少女は、歯を食いしばり眼つきを変えた。

「私の家は、お世辞にもお金持ちとは言えなかった。そんな私の家には、サンタ・クロースは来なかった。学校の皆は、サンタ・クロースからどんなものプレゼントを貰ったと話していたわ。けど、私はその話を一緒にすることが出来なかった」

 よくある、子供同士の他愛のない会話だ。だが、子供同士だからこそと言うべきなのだろう、皆と違うと言うことが、時として残酷な結末を生み出すこともあるのだ。

「だから、お母さんに私は聞いたわ。うちには、どうしてサンタ・クロースが来ないのってね。そしたら、サンタ・クロースは良い子のところにしか来ないのよって言ったのよ。だから、それからの私は良い子になる為に努力をしたわ。けど、それでも私の所へはサンタ・クロースはやって来なかった」

 少女の目には薄ら涙が浮かんでいるのが見える。

「それもそのはずよ。サンタ・クロースは本当は自分の両親で、私の家は貧乏なんだもの。サンタ・クロースなんて、私がどんなに良い子でも、初めから来るはずなんて無かったのよ」

 そう言い放った少女へ、俺は何て言葉を返せば良いのか言葉を見つけられないでいた。俺は、特別金持ちと言うわけでは無かったが、その反対に特別貧乏と言うわけでも無なかった。

 だから、サンタ・クロースが実は自分の親だと知るまでの間に、良い子でいたつもりなど無かったが、それなりに望んだものを貰えた。しかし、この少女の家には、どんなに良い子でいても、サンタ・クロースは来やしなかった。

 そんな俺が少女へと掛ける言葉など持ち得ているはずなど無いのだ。

「だとしても、こんな方法は間違っている」

 俺は、銃を捨てた。

「だったら、どうしろってのよっ!」

 銃撃していた少女の手が止まった。

「自分がして貰えなかったことを、お前の子供にしてやれば良いじゃないか」
「何で、私がして貰えなかったって言うのに、わざわざ子供にしてあげなきゃいけないのよっ!」

 サンタ・クロースは、もう目の前まで進撃していた。しかし、少女はその手に持った機関銃を撃つことはしなかった。自分の行いがただの八つ当たりでしかないことを本当は分かっていたからだ。

「お前がこれだけ恨んでいるのは、それだけ悔しかったからなんだろ。だったら、そんな思いをする子供を出しちゃいけない、そうだろ?」

 そして、サンタ・クロース達は大きなプレゼントの入っているであろう袋と共に、トナカイの引くそりに乗り、俺と戦意を失った少女の横を通り過ぎ、夜空へと舞い降りていく。

 少女は、何も言わずぼんやりとその様子を見遣っていた。
 すると、少女の前で一人のサンタ・クロースが歩を止めた。

「何よ、何か用」

 サンタ・クロースは、笑みを浮かべ大きな袋の中から、クマのぬいぐるみを取り出し、そしてお決まりの文句を一つ言う。

「メリークリスマス」

 そう言って、少女へそのクマのぬいぐるみを手渡した。そのクマの両手にはクリスマスカードが添えられていた。少女は、そのクリスマスカードをゆっくりと開ける。

 そこには、メリークリスマス。ママより――そう一文だけ書かれていた。

「私は、サンタ・クロースからプレゼントが欲しかったのに、ママからのプレゼントじゃ、しょうがないじゃない」

 そう愚痴を溢しながらも笑みを浮かべる少女の頬を、一筋の涙が伝って行くのが見える。これで良かったのだろう。いや、これが良かったに決まっている――いや、ちょっと待て。

 この少女がここに居るのは、サンタ・クロースからプレゼントが欲しくても貰えなかったその思いからのはずだ。だったら、もうプレゼントを貰う側じゃない俺は、なぜこんな所にいるんだ。

 そして、脳裏に自分の娘の顔が過る。

「ああ、そうか……全部、思い出した。俺は、娘へのプレゼントを買えなかったんだ」
「ちゃんと説明したら、理解して貰えるなんて思わないでね。もし、そんなことをしたら、第二の私になるわよ」
「止めろよ物騒だな。分かってるよ、俺だって父親だ。汗掻いたって、泥に塗れたって見つけてやるさ」

 そう言い、俺は、スーツのボタンを外し動きやすい格好を作る。

「その意気よ、お父ーさん」
「お前にお父さん呼ばれる筋合いは、無えよ」

 互いに馬鹿らしくなったのか、思わず笑い合ってしまった。

「私の名前は、ユキよ。あんたの名前は?」
「俺は、セイヤだ」
「二人合わせて、ホワイト・クリスマスみたいな名前で気持ち悪いわね」
「ロマンチックで素敵ですね、とか言えないのかよ」

 少女は、俺の方へ向き直り、俺の心臓の上を拳で叩いた。

「頑張りなさいよ」
「ああ、分かってる。俺だって娘が可愛いからな。それに、お前みたいに、機関銃ぶっ放すような捻くれた娘には、なって欲しくないしな」

 そして、次の瞬間。
 回し蹴りが俺へ炸裂し、まるで走馬灯が流れていくかのように全ての動きがゆっくりと感じた。ゆっくりとゆっくりと、後方にある穴の中へと俺の体は落っこちて行った。

 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

 次の日。

「うわああああ、欲しかったやつだ。パパ見て」
「本当だね、サンタさん。一日届ける日、間違えちゃったのかな?」

 そこには、どこの家庭でもあったはずのクリスマスの光景が、一日ばかし遅く――いや、他の家庭よりも一日ばかし長い、クリスマスがやって来ていたのかもしれない。

THE END


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