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専属ナース・渚薫子。

 幸運のアイテムなのに不幸が舞い込むという謎。宝くじが当たっても不幸な目に会う人がいるように、彼もまた、不幸な目に・・・。

 病院側もそんな事があったならばやはり対応を考えるもので、俺の病室はVIPルームに変わった。


 なおかつ面会謝絶になった。それは果たしてラッキーなのか何なのか。


 病院の院長がやってきて、「とにかくあなたが休養できるように取り計らいましょう。まぁ、入院費用の心配はまっつ、たく!!無いようですし、専属のナースを一人お付け致しまして1日の部屋代15万、処置に必要な費用は別途になります。まぁ、いろいろと煩わしい人達から離れられて、ゆっくりと心を落ち着かせられると思えば安いものでしょう?」と医者というよりは商売人の目をして、そう言った。


 俺が金を持っていると言うのがわかってからはかなり待遇が良くなった。しかし、何となく専属ナース、というのに嫌な予感がしたため、そんなものは要らない、と言ったが。


「大丈夫ですよ、信頼の置けるナースです。非っ常に優秀です。けしてあなたの心身に負担がかかるような事は致しませんとも。夜だって万全、正直、そっちもプロでしてね。後腐れもございませんよ。ははは、もちろん別料金でお高いですがね?後でこちらに挨拶に向かいさせますので。では、私はこれで」


「だから、そういうのは要らないっての!!」


 そう言ったが、院長は俺の言葉を無視してそそくさと部屋を出て行った。クソッ、何なんだよこの状況は。本当に嫌になる。


 幸運のペンダントを夏美からもらってからだいたい3ヶ月と半。確かに俺は有り得ない幸運にみまわれた。


 金は手に入ったし、女の子だって今までに無かったほどにモテている。まぁ、女の『子』と年齢的に言えない人も中にはいるけれど。


 でも、変な連中には付け回され、何かと言えば金を出せ。金を寄越せ、金を寄付しろ。そんなに金が欲しいのか?他人のものに集ってでも?


 俺にはわからない。確かに生活が楽になるぐらいには俺だって金は欲しかった。


 俺には両親がいない。


 大学に入った明くる日に交通事故で両親は死んだ。大型トラックの居眠り運転が引き起こした玉突き事故、そのど真ん中で車同士に挟まれて。


 遺体は見せられないと、言われた。


 今までの俺は、両親が残してくれた遺産と保険金、そして相手側、トラックの運送会社が支払った損害賠償の金で大学に行っていた。


 バイトをしていたのだって、出来るだけ将来の為にお金を残すためで、両親が残してくれたお金を失いたくない一心でだった。


 本当は、遺産なんて金は欲しくなかった。損害賠償なんて金なんてもらっても、親父達は帰ってこない。親父達の価値を金で計るなよ・・・親父やオフクロを返せよ、チクショウっ金なんてあっても幸せじゃないじゃないかよ。


 涙が出てきた。身体よりも心が自分が思う以上に弱ってる。ダメだな、こんなんじゃ。


 ゴシゴシと手で目をこすり、俺は溜め息を吐いてベッドに寝転がる。胃が重くてシクシクと痛む。


・・・独りは寂しいけれど、金目当てで来る奴らは嫌だ。打算で俺を見るような女の子は、嫌だ。でも、無償の愛なんてそれこそ親以外の誰からも与えられるもんじゃないのは良く分かってる。この世の誰が、俺なんぞに無償の愛なんてくれるっていうんだ?


 世の中、タダでアメ玉一つさえもくれるような奴はいない。すべからく何でも対価と引き換えだ。


 その伝で言えば、夏美は何故こんな物を俺にくれたんだろうな。アイツも俺に何か払わせるつもりでこんなモンをくれたってんだろうか?


 夏美は、バイトさえもしたことがなかった俺に仕事の仕方を教えてくれた奴だ。同い年で、女の癖に周りから『アニキ』と呼ばれるような奴で、何でもテキパキこなして周りを引っ張って行くような奴だ。


 裏表の無いさっぱりとした性格、誰からも慕われるような本当に『アニキ』だった。仕事でもプライベートでも、本当に友人として付き合うことのできた、異性の友達だ。


 異性を感じた事が無いわけではないが、アイツの性格に、それはすぐにかき消されてしまう。霧散してしまう。

 ああ、それで良いんだと、居心地のよい友人という関係にすぐに意識は戻されてしまう。


 だが、よく考えると俺はアイツの携帯の番号すらも知らない。アイツは俺のアパートも大学も、経歴も、家族の事、いろんな事を一方的に話していたが・・・。アイツは俺に自分の事を一度も話したりしなかった。


 誰だって人に言いたくないことはある。俺だってアイツには本当に言いたくないことは言っていない。


・・・友人で、知り合いで。ただ気の合う人で。アイツが何を考えて何を思って、そして・・・。俺達は本当はなにも知られたくない同士だったのかも知れない。それは当たり前のように他人だと言うことだ。ああ、そうだ。タダの他人。気が合うだけのタダの他人。他の連中よりはマシなだけの関係。


 親友というものの正体なんて事実、そんな物なのかも知れない。


 俺はアイツに何を対価として払うのだろう。何が払えて、何を要求されるんだろう。


 俺はうつらうつらとして、いつしか眠りに落ちていった。誰にも危害を加えられない状況というのは久し振りだった。考えるのが嫌だったのもあり、俺は意識を手放すことにした。


 何も考えたくない。もう、何もかも嫌だ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



 目を覚ますと夜。


 いつの間にか腕には点滴が刺さっており、ベッドの横にはナースキャップを被った女性が見舞い客用の椅子に座って俺をじっと眺めていた。


 色の白くて少し線の細い感じのナースだった。メガネが非常に知的な感じがする。


「起きた?」


 微笑みも何もなく、ただ自然体という感じの人だった。髪をアップにして、ナースキャップをしている。ナースキャップには三本線が入っており、この病院では確か婦長さん・・・今は看護師長とかナース長とか言わないといけなかったっけ?・・・クラスだということが分かる。


 まるで、部屋のオブジェか何かのように部屋に溶け込むような感じと言えば良いのだろうか。存在感が無い訳じゃないけど、この病室に居て当たり前、というか、この部屋そのものが彼女なのではないかという錯覚さえ覚えてしまう。


 なんというか、安心するようなそんな感じの女性だった。


 俺は思わず彼女に見とれてしまった。


 そのナースはちょうど液が無くなった点滴を吊り下げとく奴から外して、また、新しい点滴に取り替えた。ゆっくりとした動きなのに無駄がなく、手際よい動きで何となく上品ささえ覚える。


 ナースは作業をおえると、こちらに振り返った。


「まだ食事が取れないから、栄養剤の点滴よ。今日はあと、この一本で終わり」


 少し、目が優しく微笑んだ気がして、ドキッとする。


「私が呼ばれたから、またどこかのエロオヤジでも入院してきたのかと思ったけど、本当に病人だったなんてね」


 ナースはそう言った。何となく嬉しそうだ。


 (病人だとうれしいのか?この人。)


 少しムッ、としたが、次のナースの言葉で俺が病人だから嬉しいと言うわけではないのがわかった。


「久しぶりに看護婦らしい仕事ができるわ。本当に・・・」


 しみじみとつぶやく。


 看護婦らしい仕事ができることを喜ぶ看護婦というのはどういう事なんだろう、と俺は訝しげに思った。


「・・・ここの病室はね?都合が悪くなった代議士や政治家が逃げ込むところなのよ。みんな仮病。みんな、ここを避暑地かリゾートか何かだと思ってる・・・。看護婦の私もまるでコンパニオン扱いだわ・・・まぁ、そのために院長が呼んでるんだけどね?」


 彼女はそういって溜め息を一つ吐いた。


「・・・病室で血を吐いて、気が付いたらこの部屋だった。昼間に院長が来て、いろいろと勝手に喋ってこっちの言い分も聞かずに出て行った」


「ふぅん・・・まぁ多分、良い目あわせてあなたから病院の出資でも取り付けたいのか何かでしょうね。それだけのお金持ちには見えないけど、この部屋に入れられたというからには結構なお金持ちなのね、あなた。しかも私付きと言うことはかなりお高い入院生活になるわよ?」


 そう言いつつ、また来客用の椅子に座る。長くてすらっとした脚を組むと、丈は短いが深くスリットの付いたスカートが捲れ、ベッドで横になっている俺の目に、黒いレースのパンツが、スキャンティが、パンティがっ?!


 俺は慌てて顔を天井に向けた。


 くすくすくす、と笑う声が聞こえた。わざと見せつけてる?!


「随分とウブなのね?安心して。お金はかかるけど最高で万全の看護を約束するわ。あの院長も支払い能力のない人に私を付けようなんてしないしね。しっかりと調査して判断する人だから」


「ぐっ・・・看護は頼むけど、って、セクシャルなのはいらないよ・・・。目の毒だよ。ってか、高いって・・・いくらかかるんだよ・・・」


「部屋代は1日、15万。治療費は別途になるけれどまぁ、治療は健康保険は効くわ。重いと言っても胃潰瘍だし、保険外の治療とかないしね。で、私の費用は1日50万。こっちは医療費外よ。まぁ一番お高い費用ね」


 目が点になった。部屋代より高い人件費。せ、専属ナースってそんな高いのか?!


 値段にびびった俺は彼女に言った。


「・・・あの、専属ナース無しでお願いします・・・。た、高いよ・・・」


「あら、これでも安い方なのよ?それに・・・あなたに雇って貰わないと私、ものすごい赤字になるのよね。いろいろととっくにやっちゃったから」


「・・・な、なにをやっちゃったんです?」


「あなたの根治治療よ。あいつら『悪徳慈善団体』を何とかしないと、あなた、退院してもまたこの部屋に戻って来ることになるわよ?奴らはヤクザの下部組織でね。金を得るまでつきまといを止めないし、一度払ったが最後、味をしめて集り続けるわよ?あなたのお金を全部むしり取るまでね。だから、ヤクザの組ごと、壊滅させる工作の前段階をちょっとね。まだるっこしいの、私嫌いだから」


「あ、あんた一体何者なんだ?つか・・・頼んでないよ?!」


「・・・ただのナースよ?身体も情報もお金次第。でも私が気に入った相手にだけ。ここまでの事をしてあげるのって、本当、めったにないのよ?私の顧客の伝手を使ってね。あなたが退院する頃にはそうね奴らはきれいさっぱり消えてるわ。そうそう、私、まだ名乗ってなかったわね?」


 そう言うとナースは少し青白く見える白衣のポケットから名刺を出すと、胸ポケットのボールペンで何かをサラサラっと書き、それにチュッ、と口づけするとそれを手渡してきた。


 いかにも真面目そうな感じに見えるナースが、そういう風に色っぽい仕草でやると、とてもその・・・エロいです、はい。


 名刺を差し出す指は白魚の如し、と言うのが一番表現としてあっているように思える。なめらかで白いく細い指。


 点滴で動けない俺に前屈みで名刺を渡してくる仕草はナースのそれではなく、その手の仕事に就いてるんだな、と思わせるように艶めかしい仕草だ。白衣から透けて見える下着は黒のレース。ふわりと微かに花のような香りがして、どぎまぎした。


 受け取ったルージュのキスマーク付きの名刺には『特殊病室・室内付専属看護師・渚薫子』とかかれてあり、ボールペンで書かれたのは・・・携帯の番号だった。


「渚薫子、それが私の名前。そうね・・・最終的にはここで雇われてるお金じゃ足らなくなると思うから、あなたの家まで雇われに行ってあげるわ。その頃にはもう、身体の方も治ってるだろうしね?」


 薫子はそう言いながら俺を見つめた。


・・・狙われてる?!


 ぞくっ、と嫌な予感が背筋を這うような感覚を伴って感じられた。俺は思わず


「あの、お金に関しては請求してくれれば払いますし、ここでは頼むから普通の看護でお願いします。エッチなのはごめんです、俺は・・・その、苦手というか、そういうのは好きになった人と、というか・・・あの・・・とにかくそういう事で、普通の看護でお願いします」


 と、薫子に言った。


 薫子はにっこりと笑うと


「大丈夫よ。あなたが望むようにしてあげるから。看護を望むなら看護を。あなたが望まない者を寄せ付けないし、あなたが私を望むようにもしてあげるわ?というか多分、私なしじゃ困るような事、これからたくさん出てくるわよ?助けてア・ゲ・ルから、雇ってね?ご主人様」


 と言った。


 退院後も雇うなんてむ~りぃ~っ!!


「・・・い、1日、50万なんて、ずっとは無理だよぉ、ふぇぇぇ・・・」


 いくら数百億もの金を得たと言っても、そんなの無理に決まっている。1日なのだ。1日50万円。一月で、ええと、1、10、100、千、万・・・一千ごひゃくまんえん?!年間なら一億八千・・・。無理。いや、いけるかも知れないけど無理。そんな法外な値段なんてっ!!


「大丈夫よ。諸経費もろもろで今のお値段なのよ。今の問題が解決したらもっと安く雇われてあげる。それにお金なら私が資産運用して増やしてあげるし、ずっと裕福な生活が出来るようになるわよ。一家に一人、専属ナース兼、秘書兼、家政婦。報酬はお金と愛でいいわ。主に愛情の方をたぁっぷりとね?」


 薫子は椅子から立ち上がると、俺の顔を覗き込んだ。その顔はにっこりと嬉しそうな、そんな邪気のない顔だったから一瞬油断した。


 薫子は、すっと両手で俺の顔を挟むと、自分の顔を近づけてむちゅぅぅぅぅっ、とキスをしてきた。


 回避する事も、もがく事すら出来なかった。柔らかな唇の感触とはらり、と落ちる薫子の髪の一房がふわりと薫り、微かな女性の匂いを感じさせた。


 時間にしてみればそれほど長くはないが、まるで時間が止まったような感覚だった。


 すっ、と薫子の顔が離れ。


 いたずらな笑みがその顔には浮かんでいた。


「まぁ、身体が弱ってる患者さんには無理させられないし、また胃から出血されても困るから・・・今日はここまで、よ?続きはまた回復したらね?ご主人様」


 薫子はそういうと俺に背を向けて手を、ひらひらっ、とさせて部屋を出て行った。


 ・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


 記憶にある、キスは、幼稚園の年少組の時に同じ組だった、ミヨちゃんでした。ちゅーっ、て、ちゅーっ、てされたんだよね。うん。


 それ以外?ないよ。ないんだよ。


 その時のキスとは次元の違う、エロスなキス。幼稚園児のたわいのない何も分かっていないキスとは大違いな大人の女の人とのキス。


 レモン?ミント?甘い蜂蜜味?そんなもんじゃない。


・・・・・人生で二回目のキスは、大人の女の味でした・・・。


 ぷぴっ、と鼻から何かが垂れるのを感じて手で拭った。鼻血だった。


 すんごい・・・。大人の女の人、すんごいよぅ・・・。



 現実として、看護婦さんって白衣の天使とか言いますが、実際、んなエエモンちゃいまっせ・・・?とか、ヤボな事はさておき。


 Hな専属ナース登場。

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