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第6話:「マリーヌ」閉店危機《前編》

【SIDE:速水悠】


 俺の初アルバイトの大ピンチ、自分のアルバイト先の閉店危機迫る。

 まさかアルバイトを始めて一週間も立たないうちにそんな状況を知ることになるとは。

 喫茶店「マリーヌ」の売上げは目に見えて減っている。

 店長は緊急ミーティングを開くことになり、お店が終わった後に全員を集める。

 俺と舞姫さんと入れ違いになるウェイトレスのお二人さんとは初対面。

 

「全員、集まったな。それじゃ、緊急ミーティングを開始する」

 

 深井店長はそういうと、まず現状の報告を始める。

 

「皆も知っての通り、このマリーヌは閉店危機だ。ついに先月は売上も目標に届かず。ライバル店には差をつけられ、客を持って行かれつつある」

 

「ていうか、相手にもされていない気がするな」

 

「事実を述べるなっ!速水、新人のお前は発言禁止だ」

 

 新人に事実を述べて黙れと言われるのも辛いぜ。

 ここは新人らしく大人しく黙っておくとしよう。

 悲愴感店長は売り上げの現状から赤字経営になるには時間の問題だと言う。

 元々、喫茶店というのは経営が難しい。

 赤字が続けば当然ながら店は閉めるしかないわけだ。

 

「……繁華街という立地条件の良さながらここまで敗北をするのはなぜ?」

 

「だから、お前は黙ってろと言っただろ。誰か、ガムテープもってこい」

 

「ミーティングなんだから喋ってもいいだろ?意見だよ、意見!」

 

 ガムテープで口をふさがれるのは勘弁願いたい。

 

「なぁ、舞姫さん。メイド喫茶とケーキバイキングができるまではこの店はかなり繁盛していたと思っていいのか?」

 

「うん。私がこの店でアルバイトを始めたのは一年前からだけどお、お客も今の何倍も来てくれて賑わいを見せていたわ」

 

「つまり、敵さえいなければ人には受け入れられる店だった。なるほど、周りに魅力的な店が増えたことだけが原因か」

 

「素人が経営学を語るな。いいか、速水。この店が人気なのは今も変わらず、メイドだ、バイキングだ、そんなものさえなければこの店が一番なんだ。他のどこにも店の質では負けん」

 

「そういうが、うちの店の取り柄はアンティークの置物が置いてあるだけの西洋風喫茶店。店の雰囲気を楽しむ客のみがターゲットじゃ今の時代はおいていかれるだけだな」

 

 そんなことは俺がわざわざ言わなくとも皆が分かっている。

 問題なのはこの店が特に目立つ取り柄のない“普通のお店”だということだ。

 メイド、バイキング、その他もろもろ、人を集めるためには何かが足りない。

 それが客離れを呼び、今の最悪な状況を招いている。

 店長はむすっとした顔でこちらを睨みつける。

 

「速水が言うとおりだ。この店にも何か客を呼び込むための“何か”を考えたい。そこで皆にも考えてもらいたいわけだ」

 

「……素人の考えは必要ないって前回言ってなかったか?」

 

「――時と場合と事情によって変わるんだよ。それが大人の事情ってやつだ、覚えておけ」

 

 深井店長は逆に開き直りやがった……いい根性してるよ、この人。

 

「自分の発言には責任ぐらい持てよ、いい大人なんだからさぁ」

 

 悲愴感店長を責めても仕方がないが、それだけ問題は大きいということだ。

 それぞれが普段から思ってることを言う。

 その発言を舞姫さんがノートに書き記していく。

 この危機を打破するいい案が出ればいいのだが。

 

「よし、うちの喫茶もメイドさん化しよう。『おかえりなさいませ、ご主人様』。これで男客はこれで少しは取り戻せる」

 

「ふざけるなぁ!この店をあんな破廉恥なメイドもどきの真似をさせる気か?僕は大反対だ、二番煎じは通用しないぞ。バイキング案も却下だ。あれは金が無駄にかかる。初期費用から算出しなければ元が取れない」

 

「やれやれ。頭の固い人だな、真似をしてでも生き残りたいとは思わないのか?」

 

 今の問題は赤字にしないためにどうするか。

 四の五の言ってる場合ではないはずだ。

 

「メイドさん、男の憧れだというのに。舞姫さんも際どい恰好を……いや、皆で俺を睨むのは勘弁してくれ」

 

 全員から白い目で見られてしまったではないか。

 そのあとも俺はコスプレ喫茶案を提案するが却下された。

 

「お店にはコンセプトっていうのが大事なんだ。喫茶店に客が求めるものは色々とある。落ち着いた場所と雰囲気を求める場合。リーズナブルな商品の提供のお店。ケーキが評判、コーヒーが美味いなどそういうものが必要なのだ」

 

「……コンセプトねぇ。この店の場合だと西洋風っていう雰囲気重視なわけか。それで、ケーキ重視のお店と同じく雰囲気重視メイドさんのお店に敗北したわけだ」

 

「だから、事実を言葉にするな。……無意味に悲しくなるだろ」

 

「現実から逃げても仕方ないじゃないか」

 

 この悲愴感店長は現実逃避が本当に好きだな。

 まさに反面教師、こんな大人にならないようにしよう。

 

「とりあえず、うちの店をリニューアルオープンさせて心機一転させる決意を決めた。リニューアルするための何を変えるかを考えてから、工事が必要なら店も休みにさせる。何かと作業が大変なのだが、皆にも協力して……うぐっ!?」

 

 突如、悲愴感店長が椅子から転げるようにして倒れこむ。

 テーブルから落ちて割れるカップ、様子のおかしさに全員の視線が店長に向かう。

 どうした、悲愴感店長……死亡フラグがいきなりたったぞ?

 

「お、おい、店長?どうした?何か悪いものでも食べたか?」

 

 冗談半分で話しかけるが悶絶する彼の状況にハッとする。

 店長はぴくぴくと痙攣中、まさか、本当にまずい状況ってやつ?

 

「ぐぁ……は、速水、きゅう……しゃを呼んでく……れ……ガクッ」

 

 顔を真っ青にして途切れ途切れの言葉を放つ。

 ていうか、なぜか死にそうな顔をしてやがる。

 

「は?マジかよ!?お、おーい。救急車?舞姫さん、救急車を呼んでくれ。どうやらマジで何かやばいぜ」

 

「わ、分かったわ。マリーヌさんにも連絡しないと」

 

 慌てた様子で電話をかけにいく舞姫さん。

 なんか、とんでもないことになってきやがった。

 

 

 

 その後、お腹を押さえて苦しむ深井店長はすぐに救急車に乗って運ばれていく。

 俺たちはその赤いランプを見つめながら、

 

「――悲愴感店長死す、か」

 

「もうっ、死んでないわよ。悠さん。縁起でもないことを言わないで」

 

「冗談だって冗談。でも、何事もなければいいんだが……」

 

 あの痛みの苦しみようはおかしかったからな。

 店長が心配になりながらも、その日は皆は解散することに。

 喫茶店「マリーヌ」閉店の前に店長の方が大ピンチだ。

 数時間後、家にマリーヌという奥さんから電話がかかってきた。

 話によると深井店長の病状は「虫唾炎」、いわゆる「盲腸」だった。

 つい笑ってしまいたくなるが、実際は危ない病気だったりする。

 店長の容体は安定しており、一週間ほどの入院になるそうだ。

 盲腸っていうのは原因不明、ストレス、過労などの状態でなることがあるらしい。

 明日、もう一度喫茶店に集まるように言われた。

 やれやれ……ついにあの店も終わりか、マジで?

 

 

 

 翌日は土曜日で学校は休み、俺は指定された時刻である10時に店内に集まる。

 すでに皆が来ていてそれぞれ話をしている。

 俺も舞姫さんと会話をすることにした。

 

「店長が倒れて、どうなるんだろうな?」

 

「マリーヌさんが今日はここにきて、決断を下すらしいわ」

 

「悲愴感店長の亡きあと、この店を仕切るのは彼女というわけか」

 

「だーかーら、勝手に殺さないの。それに彼女もお仕事があるからこちらには滅多にこれないのよ」

 

 どうやら彼女は翻訳家という仕事をしているらしい。

 喫茶店の経営には関わっていないということだ。

 フランス人だが日本語も普通に話せる美人妻。

 あの店長にはもったいないお人だが、話を聞けば気が強いので大変そうだ。

 しばらくすると、金髪美人のお姉さんが店にやってくる。

 

「――お待たせしたわ。皆さん、お久しぶりね」

 

 うわぉっ、超絶美人じゃないか!?

 容姿端麗、噂の金髪美人は想像以上に美しい女性でした。

 これがこの店の店名にもなっている店長の奥さんであるマリーヌさんか。

 

「あら、貴方が新人の速水君?旦那から聞いてるわ。昨日は悪かったわね。うちの旦那、前から痛みがあったらしいんだけど、店の経営が苦しい状況でずっと我慢してたんだって。バカよねぇ、限界まで我慢するよりさっさと病院に行けば楽になれるのに。そういう下手な真面目さも彼の魅力かもしれないけれど」

 

 褒めているのか、けなしているのか……どちらだろうか。

 とりあえず、内心は心配なのに素直になれないタイプだと見た。

 そうでなければ、店長があまりにも可哀想だと同情しちまうぜ。

 前からお店自体のリフォームについては予定していたらしく、そちらはかねてから立てていたプランを実行するらしい。

 

「まぁ、あの人にいない間に、それなりのお店になるようにみんなで考えてあげて欲しいの。ホント、あの人だと無駄にこだわって店を潰すだけだから。勢いばかりで商才もないしねぇ」

 

 おぅ……奥さんにえらい言われようです。

 店長が病室で泣いてる姿がリアルに想像できる。

 というわけで、店長亡き今、俺達でこのお店を立て直さなければいけなくなったのだった。

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