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第19話:悪魔と天使

【SIDE:速水悠】


 小桃さんという悪魔のせいで舞姫さんルートフラグ消滅の危機。

 この最大のピンチを脱するにはどうすればいいのか。

 翌日、学校の休憩中に他クラスの舞姫さんを探しに行ってみることにした。

 彼女を発見、声をかけようと近づくが、俺と視線があうとわざとらしく視線をそらす。

 怒ってます、かなり怒っておられます。

 

「な、なんということだ……」

 

 うぅ、確実にフラグにひびが入ってる、この修正を間違えると結末は悲惨だ。

 何とかしないといけないが、どうすればいいのやら。

 昼休みの食事中、俺は思い切って凛子に相談してみる。

 小桃さん絡みなのであまり話したくはなかったのだが。

 凛子は意外そうな顔をして言う。

 

「え?姉さんが悠クンの恋愛の邪魔をしたっていうの?」

 

「そうなんだよ。昨日はひどいめにあったぜ。天国と地獄を同時に体験させられた」

 

 小桃さんにとって冗談でしたことでも、俺にとっては致命的なものだ。

 

「舞姫さんと悠クンはそーいう運命だったのよ。素直に諦めなさい」

 

「めっちゃ、投げやりな発言!?こっちは真面目に相談してるんだからさ」

 

「男の子が恋愛にグダグダ悩んでる姿って格好悪い」

 

 グサッと、怪我人にとどめを刺す発言。

 毒舌凛子の攻撃にマジ凹み中。

 そりゃ、そうかもしれないが言い方ってあるでしょう。

 俯き加減の俺に凛子は心配など皆無の様子で言う。

 

「……そこまで舞姫さんが好きなら告白すればいい」

 

「今さら!?このタイミングでしたら失敗確実じゃん。この事件が起きる前ならうまくいってたかもしれないのに」

 

 舞姫さんは俺のサッカー部時代のファンだったらしい。

 それを込みにして、告白すれば多少なりともうまくいったかもしれない。

 全ての悪の元凶、小桃さんさえいなければ……。

 

「悠クン、頑張れ」

 

「やめてくれ。凛子は絶対に応援してないだろ」

 

「そんなことはない。悠クン、ダメならダメで人生あきらめて」

 

「この恋に人生かかっちゃってるのか!?」

 

 まさに命がけの恋だな、おいおい。

 

「……ホントにダメだったら」

 

「凛子が俺の恋人になってくれるのか」

 

「それは普通にイヤ。私にも相手を選ぶ権利はある」

 

「ホント、俺に容赦ないね。冗談でもなってやるくらい言ってくれ」

 

 普通に拒絶されるのは俺も落ち込むぞ。

 

「そういうことは私じゃなくて姉さんに頼めばいい。ああみえて、悠クンのことを……」

 

「俺のことを?」

 

 まさか小桃さんが俺を好きで意地悪していたという衝撃的な事実が!?

 

「オモチャとして好きみたいだし」

 

「……男としてではないのな、ガクッ」

 

 ほんのちょっぴり期待しちゃったじゃないかよ。

 

「恋愛だけがすべてじゃないよ、悠クン。頑張って生きて」

 

「それ、もうすでにフラれてるの確実じゃん」

 

 何はともあれ凛子に励まされて(?)、俺はクラスに戻ることにした。

 

 

 

 

 だが、教室に戻ろうとした俺の前に小桃さんが姿を見せる。

 

「はぁい、悠ちゃん(はぁと)」

 

 通りすがりの魔王とエンカウント、中庭付近、人気も少ないため油断した。

 

「びくっ、こ、小桃さん!?」

 

 つい条件反射でびくつく俺に彼女は言う。

 

「そんなに怖がらないでよ、悠ちゃん。別に何もしないって」

 

「俺はもう小桃さんの笑顔を信じないことにした。信じていても、裏切られるから……」

 

 信じていたかった、小桃さんは俺にとって姉同然の女の子だから。

 でも、あんな事をされてまで信じ続けることはできない。

 

「まぁ、そんな終わったことはおいといて」

 

「――あっさり、スルー!?」

 

 ぐすっ、小桃さんには罪悪感という言葉はないのだろうか。

 もしも、俺が人間不信になったらどうしてくれる。

 拗ねる俺に小桃さんは優しく微笑みかけた。

 

「悠ちゃん、昨日はごめんなさい」

 

 なんと、小桃さんが俺に謝罪した!?

 

「悪ふざけが過ぎたわ。舞姫さんにも悪いことをしたと思ってる。悠ちゃんの恋を邪魔するつもりはなかったのよ」

 

「……小桃さんが悪ふざけを謝罪したのは初めてだ」

 

「ホントに冗談だったのよ、許してくれる?舞姫さんには私からも説明するから」

 

 彼女らしからぬ申し訳なさそうな表情を見せられて、許さない男はいるだろうか。

 いません、許してあげることにします。

 

「昨日のお詫びってわけじゃないんだけど。とりあえず、ベンチに座って」

 

 俺は彼女に言われるままに近くのベンチに座る。

 隣に小桃さんも座り、何だかいい雰囲気だ。

 ……って、小桃さんルートに行くつもりはないんだってば(危険)。

 小桃さんは持っていた鞄から小さな箱を取り出した。

 

「昨日、凛子ちゃんに作ったお菓子のおすそ分け。クッキーとか悠ちゃん好きでしょ」

 

 おっ、小桃さん手作りのクッキーか。

 彼女のお菓子作りの腕は中々のものだ、期待が膨らむ。

 箱の中に入っていたのは凛子用サイズだろうか、一口サイズのクッキーだ。

 

「うーん、相変わらず小桃さんのお菓子は美味しそうだな。凛子にもたまには教えてあげればいいのに。料理くらい覚えさせた方が後のためじゃないのか。自炊くらいできるようにさぁ」

 

「だって、あの子は料理を作るのが嫌いなんだもの。無理やり教えるものじゃないわ」

 

 いや、将来的なためにも教えておいた方がいいって。

 凛子はやればできる子だぜ(多分)。

 まだ休憩時間に余裕があるのでクッキーをもらう事にする。

 

「いただきます」

 

「どうぞ。あ、そうだ。ふふっ、はい、あーん」

 

 小桃さんは俺にクッキーを摘んで差し出す。

 これ、何ていうイベント……何か気恥ずかしいが嬉しいぞ。

 美女に食べさせてもらえるなんて幸せですね。

 俺は口をあけると、彼女はそっと、クッキーをいれてくる。

 甘い味わいが口に広がる、うむ、美味なり。

 さすが小桃さん、お菓子作りだけは失敗がないな。

 

「今回のは結構自信作なんだ。美味しい?」

 

「あぁ、美味しい。小桃さんのクッキーって売り物になるよ。将来は絶対にパティシエになった方がいい」

 

「ありがと。……あっ。ねぇ、悠ちゃん。もうひとつどうぞ」

 

 よく考えてみれば分かったのに、小桃さんがどういう人間か。

 

「いただくよ」

 

 そう、林原小桃は決してスイーツのように甘い女性ではないということを。

 

「あーん」

 

 サクッと音を立てるクッキー。

 小桃さんの細い指が口元から離れる瞬間、俺のふと右に向いて固まった。

 

「……悠……さん……?」

 

 そこにいたのは舞姫さん、タイミング悪く偶然通りがかったらしい。

 どこかで見たような光景、デジャブ……じゃねぇ、昨日と同じ展開か!?

 昨日と違うのは舞姫さんが半泣きですぐに逃げようとしている。

 

「わ、私……その、ごめんなさいっ」

 

「待ってくれ、舞姫さん。これは誤解ですっ!」

 

 慌てて引き留める、これが最後のチャンス、フラグを取り戻すのだ。

 彼女は立ち止ってくれる、よかった……。

 そんな舞姫さんに小桃さんが言う。

 

「舞姫さん、違うのよ。誤解させてごめんね?私と悠ちゃんはそういう深い関係じゃないの。何ていうのかな、私が“勝手”にしてることだから……。舞姫さんが思ってる関係じゃ全然ないのよ」

 

「……え?」

 

「悠ちゃんの事、誤解しないであげて。私と悠ちゃん、仲は本当にいいけど、それだけなの。他意なんて、別にないから」

 

 かなり意味深な発言と表情で言われても全然説得力がないんですが。

 ていうか、その言い方だと俺に好意があるような感じじゃね?

 

「小桃さん、何か変な誤解を与えるような発言なんですけど」

 

「え?そう聞こえちゃった?ご、ごめんね、本当に何でもないの。私の勝手な片思い……じゃなくて、その、えっと……」

 

「片思い……。やっぱり、小桃さんは悠さんのことが」

 

 舞姫さんは俯いたまま、何かを呟く。

 おい、待て、ちょいと待て。

 ……たった今、聞き捨てならない発言をしましたね?

 そうか、そういうことか。

 やけに小桃さんが大人しいていうか、優しすぎると思ったらこれも彼女の罠だ。

 今回こそは止めを刺す、舞姫さんルートのフラグブレイクを決めにきたか!?

 用意周到、そこまでして俺が恋人を作ることを邪魔しに来ますか。

 

「違うっ!本当に違うんだってば、舞姫さん。小桃さんの言葉に騙されちゃ――」

 

「おふたりともお似合いだと思います。悠さん、小桃さんのこと、ちゃんと見てあげなきゃ可哀想じゃない。幼馴染でこんなに美人で、悠さんの事を思ってくる女の子って他にいないよ?……私、もう行きますね」

 

 かなりおかしな誤解をして去ろうとする舞姫さん。

 俺は必死にとめようとするが、小桃さんの妨害にあってあえなく断念。

 終わった、フラグが消滅してしまった……。

 落ち込みまくる俺に小桃さんは「さぁて、教室に戻ろっ」と他人事のように言い放つ。

 この悪魔が天使に見えた時こそ本当の恐怖を与えると思い知らされました。

 

「小桃さん、やってくれたな。完全にとどめを刺しに来たか、そこまでして俺に恋人ができるのが面白くないのか」

 

 さすがに怒り爆発、魔王への反逆開始。

 いつまでも小桃さんにビビる俺じゃない。

 怒る時は怒るんだと、彼女に言い放つ。

 

「何でこんなことをするんだよ。今回は冗談じゃすませないからな」

 

「……理由を知りたい?それなら、教えてあげるわ」

 

 彼女はいきなり、俺の頬に手で触れてくる。

 いつもと違う雰囲気にのまれそうになる。

 あれ、ちょっと、小桃さん……顔が近いんですけど?

 唇が触れあいそうな距離、小桃さんは甘い声で俺に言った。

 

「私、悠ちゃんのことが……――」

 

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