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第15話:ネバーギブアップ!

【SIDE:速水悠】


 舞姫さんと貴也の関係は元恋人同士だったらしい。

 それなのに貴也は舞姫さんの事を都合のいい女程度にしか思っていないんだろう。

 彼にサッカーの試合を申し込まれた俺は久々の本気モードで戦うことにした。

 負けられない、絶対に負けたくない。

 勢いと執念で3対3まで追いついたが残り時間はロスタイムの3分のみ。

 反撃もここまでか、いや、まだ諦めない。

 長い3分間が始まろうとしていた。

 

「南岡、フリーキックのチャンスだ。一気にいくぜ」

 

 ロスタイム直後、運よく相手のファール行為からフリーキックのチャンスを得た俺達は速攻をかける。

 すでにロスタイム、時計が止まらないので無駄に考える時間もない。

 仲間がパスしてくれたボールがこちらにくる。

 ボールを受け取り、ディフェンスラインを割ろうと必死に走るがそれがまずかった。

 

「速水っ、それは罠だ!孤立するぞ!」

 

 南岡の声に周囲を見渡すと俺は敵陣のど真ん中で孤立していた。

 敵のトラップ、わざと俺をここまで進ませ包囲された。

 パスを出そうにも仲間にマークされてできそうにない。

 後は敵さんが俺に包囲を狭めればボールを簡単に奪われてしまう。

 

「ちっ、やられた。こっちはもうボールを取られるわけにはいかない」

 

 ここでボールを奪われたら相手に時間稼ぎされる。

 奪われるわけにはいかないが、背後からは貴也も迫りパス相手を探すために、今さら立ち止まることもできない。

 

「これしかないか。あんまりしたくない賭けだ」

 

 ギリギリの判断で、俺はこの状況を最大限に利用する。

 俺を狙い撃ちって事は逆に隙もあるってことだろ。

 この賭けが成功するのは本当に微妙なところだ。

 仲間を信じてその手を打つ、俺の意図に気づいてくれるかどうか。

 俺は賭けに出て、唯一パスを出せる後方にいる仲間にバックパスをしてボールを渡す。

 

「……バックパスで逃げる、と見せかけて」

 

 その間に張り付いていたMFを引き離すが、相手側はマークを緩めようとしない。

 

「やれやれ、全てお見通しか」

 

 もう一度俺にパスが通されるのは予想済みってことだ。

 単純明快なプレーだけに読まれるのは分かっている。

 

「信じてるぜ、こういう時に俺達のチームがどうするのか。分かってるよな?」

 

 仲間に対しての合図もなければ、声を掛け合う事もない。

 ボールを持っていた後輩が俺にパスを繰り出す。

 

「速水先輩っ!」

 

 それと同時に貴也がこちらに走り込んでくる。

 完全に行動を読まれたインターセプト(横取り)狙い。

 

「甘いな、速水。そのパスは通らせない」

 

「――いや、通った。貴也、お前がまんまと俺の所に来てくれたからさ」

 

 俺は罠にハマったふりをして、奴らの動きを足止めする。

 俺は転がってくるボールを止めずにスルーする。

 

「俺を重点的にマークするのはいいが、他の奴らも注意しておけよ」

 

 俺の前方にはノーマークで回り込んでいた南岡がいた。

 完全に相手の裏をかいたプレー、俺が中心的役割を見せたからこそ引っかかる。

 

「スルーパスだとっ!?」

 

「うちのフォワードは俺ひとりだけじゃないってな。後は任せたぜ、南岡」

 

 俺は貴也をブロックして追走させない。

 みんなして俺を狙っていたため、MFもDFも南岡を止める位置にはいなかった。

 そのまま南岡は独走、DFをちぎりシュートを決める。

 だが、そのボールをゴールキーパーがファインプレーで食い止める。

 

「ちっ。これは入ったと思ったのに!」

 

「……こちらも西高としてのプライドがあるんだよ。速水、アンタに負けるわけにはいかないんだ」

 

 貴也たちはすぐに切り替えてくる。

 当然、ここで終わる彼らではないだろう。

 攻撃の手を緩めることもなければ守備をやめることもない。

 試合は同点のまま、残り時間が過ぎていく。

  

「あの状況で同点に追いつけた。それで十分だよ」

 

 南岡は俺に笑顔で言うが、こちらはまだ諦めない。

 

「同点じゃ納得できない。勝たなきゃ意味がないんだ。俺は最後まで本気モードのままでいく。勝機はあるはずだ」

 

 俺は勝利するって決めてるんだ。

 まだ残された時間があるなら攻め続けてやる。

 引き分けで終わる可能性が限りなく大きいが今の勢いがあれば勝利も夢ではない。

 対する西高もこれ以上、点を与えまいと必死だ。

 どちらも練習試合だという事を忘れてるかのように全力でプレーをしている。

 

「楽しいな、楽しいじゃないか本気でプレーするサッカーってやつは……」

 

 最高の興奮、緊張感と高揚感が身体をかけめぐる。

 これだよ、これを俺は味わいたかったんだ。

 今まで「次こそは本気を出す」と口癖のように言っていたが、別に普段から手を抜いてたわけじゃない。

 ただ、自分が本気でやったと納得できるほどに熱くなれていなかったんだ。

 県内最強の西高のサッカー部はマジで攻守共に強いが、俺達だって本気でやれば勝利だってできるんじゃないか?

 そう思える自信がわいてくる自分自身に驚かされる。

 俺をここまで突き動かすのは舞姫さんの存在だ。

 しかし、今の俺はそれと同じくらいに個人的な感情で西高に、貴也に何としても勝ちたい気持ちがある。

 

「まだ、いける……何とかボールを取るんだ!そうすればチャンスはあるっ」

 

 俺は後輩に指示し、ボール回しで時間稼ぎをする西高からボールを奪う。

 相手側が手を抜いたわけでも、隙や油断があったわけでもない。

 こちら側の負けられないって想いが、執念が奇跡を生みだす。

 インターセプト、強引にボールを奪った後輩が真っ直ぐ走り出す。

 俺や南岡もすぐさま彼の後を追う。

 時計を見れば残された時間は30秒ぐらいしかない。

 ゴールラインまで走ってる間に試合が終わるかもしれない。

 俺だって普通の試合なら諦めて適当に時間を潰す。

 だが、今日は無理をしてでも行く。

 何としても勝って試合を終わらせたい。

 

「これがラストチャンスだ。こっちに回してくれ!」

 

 うまい具合に南岡を経由してボールが俺に渡った。

 時間はない、一回でも止まれば試合終了って状況では作戦も何もない。

 ホントにバカみたいな中央突破をやるしかないぜ。

 だが、俺の真正面にいるのは貴也だ。

 彼がこちらに気づいて迫ってくる。

 その背後はDFが3人……抜けるか?

 考える余裕なんてない、中央突破と決めたら意地でも抜き切るしかないんだ。

 

「行けよ、速水っ!」

 

 南岡達が両サイドから迫るMFを抑え込んでくれる。

 これで相手は本当に貴也のみ、直接対決というわけだ。

 普通に考えたら真っ正面から貴也相手にするのは無理だ。

 

「ふっ。最後にとっておきの対決が待っていたな、貴也」

 

 戦うしかない、1対1の直接対決を制した方が勝つ。

 テクニック重視の彼はボールを奪うのもうまいが、俺の方が俊敏で機動力に長けている。

 スピードかテクニック、どちらが勝利するのか。

 戦いに決着をつけよう。

 試合にも、舞姫さんのことにも、俺達自身にも――。

 

「――最後の勝負だ、貴也っ!」

 

 俺はそのままの勢いでボールを蹴りながら彼に突っ込んでいく。

 この試合を決める直接対決の結末は――!?

 

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