幼馴染にフラれる
ごめんなさい。
十数年も前から付き合いのある女性に、そう言われたのはいつのことだったか。
幼稚園の頃は一緒に砂遊びをした。小学校の頃はサッカーとか野球。中学、高校は同じところに進学し、偶にだが、休日は二人で買い物に行ったりもした。
今時珍しい、絵に描いたような幼馴染の関係。
そう思っていたのは、いつのことだったか。
今はもう、お互いに目線を交わすことすらない。
たった二年。たった二年だったのだ。
彼が大学受験に失敗し、数式や、マークシートの穴を美しく塗りつぶすことに費やしたこの二年。
彼女はフリーダムと呼ぶに相応しい大学生活を満喫し、サークルなるものに入った末、彼氏を作った。
思い出すだけでも頭を抱えたくなる。
そんなことも知らずに、合格通知を握りしめて彼女に言った一言は、
もう遅いよ。ばか。
その言葉と共に儚く散った。
桜舞う、春の日の出来事。
地面に落ちた桃色の花は、誰かに踏まれて黒く汚れていた。
*
「あんた、負の思念がすごいわね」
人通りの多い駅前で、冬二を呼び止める者がいた。
何を思う訳でもなく、彼は反射的に声のした方向へと顔を向ける。
濃緑色のローブを羽織って、厚化粧をした女がそこにはいた。髪は毒々しい緑色に染められている。歳は三十前後といった所だろうか。一見、若々しく見えるが、女の雰囲気には新鮮味がない。若者にはその土台を支える、キラキラとした輝きがあるのだ。そう、彼をフッた少女のように。
何も答えず、その場に立っていると、
「あんた、最近引っ越して来たばかりでしょう?」
女が二の句を継いだ。冬二は訝しげに眉を寄せる。
「なぜそれを?」
ここら辺は人も多いし、大学の近くだから学生も腐るほどいる。春とはいえ、新入生を見分けるのは難しいはずだった。実家から通っている者も少なくない。
「いやね、あんたから真新しい霊念を感じるんだよ」
暑そうにローブをバタバタと振りながら、女はクックッと笑う。
「レイネン?」
「そっ。霊の念。……おや? 不満そうだね。まぁ、いいさ。信じなくても。これは仕事じゃないしね。だが、気を付けるこった。今のあんたの精神振動は、霊の目には光輝いて見える。魂を持ってかれる前に心を養いな」
冬二は女の言葉を最後まで聞かず、背を向けた。
(なんだ。新手の宗教勧誘だな。無駄な時間だった。引越しの事も、どうせ
その辺の若者を片っ端から捕まえて、同じセリフを言っているんだろう)
そう結論付け、歩き始めた彼の背に、女は最後の言葉を投げ掛ける。
「元気だしな! 女なんてこの世にいくらでもいるよ!」
(余計なお世話だ)
やけに勘の良いやつだと思いながら、心の中でそう言った。
とにかく幼馴染にフラれるところから始めたかったので、こんな感じにしました。今後の展開はほんのちょっとしか考えていません………。
お、面白くなるといいなぁ。なんて淡い期待。