佐々木千鶴の少女漫画的なヤツ。
~千鶴~
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ついにきた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・きてしまった。このときが。
目の前にそびえ建つのは、『戸部家』という名の巨大な城。
あたしは、旅行カバンを背負い、ケータイを片手に持ちながら、ベルの前で固まっていた。
いつ、これを押そうか・・・・・・。
ケータイを持つ手が、汗ばんできた。
『なんかあったら電話しな。戸部の首、根こそぎ取ってやるから』
というマキの言葉。
あー、別に首を取ってもらうためにケータイを用意しているわけじゃない。つか、取られたらあたしの方が困る。
ただ、アドバイスとかをもらうために用意しているだけで・・・・・・
「何やってんの?人ん家の前で」
ドッキィ――――ン!
ふるえながら後ろを向くと、
「どっ、ごっ、がっ、ぐっ!?」
戸部様ァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「どいてそこ。邪魔」
「はっ、はい・・・。あの、お母様、は?」
「どっか行ってる。銀座とかそこらへん」
戸部様はさっきから一切表情を変えない。
家のドアを開けながら、
「そのでかい荷物邪魔だから、まずは整理して」
「はいっ。じゃあ、お、お邪魔します・・・・・・」
家の中に入ると、ハーブのようないい香りが漂ってきた。
さすが戸部様ホーム!
「えっとぉ、あたしの部屋はどこです?」
「二階の角の部屋。狭いけどそこしか空いてない・・・・・・らしい」
お、初めて戸部様の表情が変わった。――なんか、ものすごく嫌そうな顔。
戸部様は階段を上がりながら、
「倉庫とか開ければいいのに、母さんがそこの部屋にしろって。
うちの家、母さんの命令は絶対だから。
俺が頼んだんじゃないからな」
めずらしい。戸部様がこんなにしゃべるとは。
結構長い廊下を歩き、ちょっと角を曲がったすぐそこの部屋のドアを開ける。
「ここ。右側のベットとたんすと机使って。一応しきりとかも付けといた」
しきり・・・・・・?
部屋には、二個のベット、たんす、机が左右対称に置いてあった。
ベットの間には、緑色のカーテンが一枚。
部屋の右側は、何も手をつけていなくて、きれい。
左側は・・・・・・
「昨日ちょっと片付けたけど。まだ汚いな。
そっち側に荷物いったらごめん」
左側は、戸部様グッツで埋め尽くされていた。
「・・・・・・えー、えっと、ん?」
まさか、まさか?
「俺と部屋一緒だけど、別に問題ないでしょ?なんもおきないし」
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ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?
「ちょっと失礼しますっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
階段を駆け下り、玄関の外へ。
そのまま人生最大速度でマキのケータイ番号をプッシュ!
プルルル プルルル
『どしたー?手でも握られたー?』
のん気なマキの声が聞こえる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・それ以上の最悪な出来事が起きた」
『何?キスされたとか?』
「部屋!!!」
『部屋?部屋がどうしたの?ゲジゲジワールドだったとか?』
「戸部様と同じ部屋なのぉーッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
しばらく、無言が続く。
と、
『ウィィィィィィィィィィィン』
機械のような音が響いてきた。
「ちょっ、マキ?」
『待ってろ。今チェーンソーの用意してるから。
ウィィィィィィィィィィィン』
「いやジェイソンかお前!ウィィィィィィィィィィィンじゃないよ!!!!!!!」
『そいつは抹消せねばならん』
「その前にマキが捕まる!」
真面目にチェーンソーを用意していたらしい。チェーンソーを箱にしまう音がした。
『まさかベット1つじゃないでしょうね』
「そんなわけないじゃん!分かれてるし、ちゃんとしきりもあるよ」
『・・・・・・・・・・・・・じゃ、いいんじゃないの?』
「よくないよくない!!!」
マキはしばらく恋愛ごとをしていないためか、感覚が微妙にずれてる。
「だって、好きな人と同じ部屋だなんてっ・・・・・・・!」
『あんたが期待してた漫画的展開じゃん。ラッキー☆じゃないの?』
「寝れないよ!」
『襲われないから寝れるんじゃない?同じ部屋にしてあるってことは、戸部があんたにまったく興味がないってことでしょ?異性にも見てないかも。
ま、その顔と体じゃねぇ。プッ』
黙れマキ!
『でもさ、あたしはもうエールを送るぐらいしかできないよ?殺さないなら』
「・・・・・・殺すことが選択肢に入ってるあんたが怖いよ、マキ」
『じゃ、精々頑張りなさいー』
ブチッ ツーツーツーッ
「頑張れって言われても、ねぇ・・・・・・」
「電話終わった?」
「ギャッ!?」
また後ろから声をかけられた。
「まっ、まさか、今の会話聞いてました・・・・・・?」
「聞いてない。盗聴は趣味じゃない」
戸部様は無表情のまま、
「それと、今日から敬語はナシ。生活しにくい。
あと、家の中では名前で呼んで。お前がどうだかは知らないけど、時々俺のこと、『様』付けで呼ぶ気持ち悪いヤツいるんだよね。だから、様もやめて」
「・・・・・・了解」
その気持ち悪い女子、あたしだー(涙涙涙ッ!)