佐々木千鶴の一大事なヤツ。
~静香~
ファミレスに超特急で向かうと、佳奈が1人テーブルの上でケータイをいじっていた。
「ゴメン佳奈、待った?」
「ウヘッ、しず!デートはどうしたのよ!」
「いや、佳奈1人にさせとくと心配だから・・・・・・勇樹置いてきちゃった」
ペロッと舌を出すと、佳奈はため息をつきながら、
「これだから静香はダメなんだよ~。そーいうことしてると、さ・ら・に、勇樹君が燃えちゃうじゃん」
「燃えるって・・・・・・漢字の変換は『燃える』でいいのよね」
「いや、『萌える』でも間違ってはいない。
まっ、熱血さんには『燃える』でいいんじゃない?」
佳奈は、目線で「座りな」と伝えてきた。
私は向かいの席に腰を下ろしながら、
「でもさ、なんでデートやめたくらいで勇樹が燃えるのよ」
「そりゃあ、簡単に手に入らない女のほうが愛情深まるでしょー」
カチカチとケータイを鳴らしつつ、佳奈は顔をしかめた。
「でも、あたし的には俺様キャラは対象外だなー」
「んー、だったら、佳奈は戸部君とかの方がいいのかもね」
佳奈は風見学園の生徒ではなく、他校の生徒。
だから、勇樹には会ったことがないんだ。
でも、私はよく学校のことをよくしゃべるから、三大美男子のことも知っている。
風見学園の三大美男子。
1人目。私の彼氏、王野勇樹。
2人目。今日枝野マキちゃんにフラれちゃった富永春斗君。
3人目。運動神経抜群で、ひょろりと背が高くてとっても細い戸部空馬君。
「いや、筋肉ナシってとこがヤだな。あたしは話しできいたところ、富永が好みかも」
「へー。富永君かぁ。彼、今日フラれたんだよ」
「えぇっ、誰に!?」
「枝野マキちゃんに」
その瞬間、佳奈の顔つきがちょっと変わった。
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~勇樹~
♪プルン ポロン パランッ くずは 消~え~ろ プルン ポロン
「お、電話」
「・・・・・・・・・なんちゅー着メロ・・・・・・・・・」
お互いケーキが食べ終わったところで、枝野のケータイがとんでもない着メロを歌いだした。
枝野はケータイを開き、
「もしも・・・・・・」
『おいこら腐り女!今どこにいやがる!』
あまりの声のでかさに、枝野はケータイを耳から離す。
つか、俺んとこまで聞こえるって、電話の相手すげーな。
「なんなんだよいきなり叫びやがってジュースぶっかけ女!鼓膜破れるわ!」
枝野も負けじと声を出すあまり、店の客の視線が枝野に集まった。
そんなことは気にせず、枝野はしゃべり続ける。
「つかあたし腐ってねーし!臭くねーし!お前だよ腐ってんのは!」
『うるさいとにかく今どこにいんのよ!』
「カフェだけど」
『あんた金ないんじゃないの?水だけ飲んでんの?』
「いや、ちょっとカフェで使えるヤツと会って。ガトショコ食べてる」
なんだよガトショコって。略すな。
『まぁいいや。ちょっと一大事だから、そこのカフェまで行く。3分で行くからタイマーつけといて!』
じゃあ!と、最後の最後まで声がでかかった誰かさんに向かって、
「3分で来なかったらミンチにしてやる」
枝野は本気か冗談かもわからないことを宣言していた。
「ん?なにちょっとあんた引いてんの。まさか、本気でミンチにするって信じてるつもり?」
「・・・・・・・・・・いや、着メロからしてお前が女に見えなくなってきた」
それはありがたいことねーと、枝野は静香のジャスミンティーをストローでズーズー飲む。
「お、1分けーか」
「マジで計ってんのか!」
「一秒遅れるごとに罰金500円。これフツー」
俺的にはミンチの方がいいかもしれない。
「なんかさーもう、お前に告白する男子の頭、おかしいんじゃねーのか?」
「そうねー。まぁドMだったらありえるだろうけど、その時点であたしの好みじゃないし」
「何だお前、意外と好みとかあんのか」
「えぇ。ブスでかわいげがなくて将来結婚しそうもないヤツがタイプ~」
なぜだ。なぜこんなに寒気がするんだ。
あぁそうか。枝野の趣味があまりにも悪すぎるんだ。
「2分けーか。残りわずか1分」
五秒くらい遅れたら特大パフェ頼もーと、枝野はメニューをパラパラめくり始めた。
「そういえば、電話の相手は誰だったんだ?」
「昨日あたしの家で口からジュースを吐き出していった汚いヤツよ。残り30秒」
「いや、名前言えよ。それじゃわかんねー」
「つか逆にわかったらキモイわ。残り15秒」
「おい、誰だよ」
「うっさいわねー。10秒カウントダウン始めるわよ」
9,8,7,6、
「5、4、3、2、1」
カランカラン~と、店のドアが鳴り、
「マーキィ―――――――――――――ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
飛び込んできたのは、佐々木千鶴だった。
「ピッタ3分だったでしょ!」
ハァッハァッと息をしながら、佐々木は笑顔で枝野に聞く。
「残念。あたしが座っている席につくまでにロス三秒。1500円でーっす」
「ハァッ!?店に着いたのが三分ピッタだったらいいじゃん!」
「誰?昨日約束破りなヤツは嫌われるっつったのは」
「クッ、クソォ、ブーメラン方式か・・・・・・」
あいよと、佐々木は財布から1500円を出し、ようやく俺という存在に気づく。
「ぉ・・・・・・・・」
パチパチと何度かまばたきをし、枝野の顔を見つめ、もう一度俺を見て、
「ふっ・・・・・・不倫、です、か・・・・・・・・・・・・」
「「はぁ―――――――――――――――ッ!?!?!?!?!?」」
俺と枝野の声がそろう。
「だっ、だって!王野勇樹っつったら、あの非の打ち所のないキュートガール第1位の小谷静香と付き合ってるじゃん!
なに2人でデートしてん、の、・・・・・・」
「――おいこら貴様、表出るぞコラ」
最上級クラス並みに怒ったらしい枝野は、佐々木の襟首をつかみながらカフェを出て行った。
「あ、
・・・・・・・・・・・・・・・・結局あいつの金を払うことになるのか・・・・・・・・・・・・・」
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~マキ~
「あんたさーわかってんでしょデートじゃないってことくらい!
金ないから払ってもらうだけだっつーの!」
あたしは、とんでもない妄想を膨らましている千鶴に手を差し出す。
「罰金2000円」
「いやマジでゴメンって!じょーだんじょーだん!」
もうこいつの財布がからっぽってことは知ってるが、それでも差し出した手はひっこめない。
「2000円」
「ムリだって!」
「2000円」
「いやだから!」
「2000円」
「・・・・・・・・・・・・・・・・今度カラオケジュース代含めてすべてお支払いいたします」
ニコリとあたしが微笑むと、千鶴は涙目で、
「くっそう!何でこんな女が親友なんだ!」
「あたしだって神様に問いかけたいわ。こんなばかげた妄想をするヤツがなぜ親友なのかってね」
それで?一大事ってなに?と、あたしが聞くと、
「いや、それがね、お父さんがまた転勤することになったのよ」
「ふぅ~ん」
千鶴のお父さんは転勤の多い仕事で、あまり家にいることがないらしい。
「それで、今回の転勤先っていうのが・・・・・・・中国なのよ」
「あぁ。ってことは千鶴とお別れね。バイバイー」
ひどい!ここにひどすぎる女がいる!と千鶴はわめきつつ、
「でも!あたし風見学園に入ったばっかだし、学園祭とかも再来月にあるでしょ?
だから、あたしだけ日本に残ることになっちゃって」
「ホームアローン状態ね。ごしゅーしょー様」
「それで、誰かの家にホームステイするんだけど・・・・・・」
「うちは却下よ。あんたと暮らすならホームレスになったほうがまだいいわ!」
「いや、マキはそういうと思って、他の人の家にいくことになったの。
それで、お母さんが結構仲のいい人がいるから、その人の家に行けって言ってたんだけど」
「おぉ。一件落着ね」
「いやっ、その・・・・・・・・その人がね」
だんだん、千鶴の顔が赤くなってくる。
何かキモイな。
「その人が・・・・・・・・・・・・・・」
戸部、空馬様の、お母様だったりして・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ボソボソッと、千鶴が言う。
「・・・・・・・・・・は?」